参
事件から一週間後。
俺と王女様との婚約話は一瞬にして広まり、注目の的になってしまった。
ついでに十傑の補佐役になったことも知られている。
俺は一人、学園の庭をぶらぶら歩く。
ギガスとの戦闘で吹き飛んだ建造物の修復作業が行われている。
ほとんど壊したのはギガスだが、なんとなく申し訳ない気分になった。
「暇だし手伝うか?」
「何してんだ? リイン」
「ん? ああ、兄さんか」
声を掛けられ振り返る。
そこには兄さんが立っていて、俺に向かって手を振っている。
「久しぶり、でもないね。見たところ元気そうだけど」
「こっちのセリフだ馬鹿野郎。お前、俺の忠告を無視してくれたみたいだな」
「あー、そうだったかな? でも仕方がないよ。それに勝ったし」
「……はぁ、そうだな。結果を見ても文句なんて言えない。忠告した俺がマヌケじゃねーか」
兄さんは大きくため息をこぼす。
「聞いたぜ。王女様と婚約したってな。しかも十傑補佐、ナイト就任のオプション付きで」
「半ば強引にね」
「はっ! 何不満そうな顔してやがる。あのギガスを一人で倒しやがったんだ。正直やるとは思ってなかったから驚いたぜ。とんでもなく強くなりやがったな」
「そんなに強くなかったよ? 兄さんでも勝てたんじゃないかな?」
「こいつ」
兄さんは俺の頭を鷲掴みにして、ぐしゃぐしゃと髪をかき回す。
乱暴そうに見えて優しく揺らすように。
「じゃあな! 俺はまだ仕事が残ってるから行くぜ」
「うん」
俺の前から立ち去る兄さん。
数歩離れたところでピタリと立ち止まる。
「そうだ。リイン」
兄さんは振り返る。
「学園を守ってくれてありがとな。十傑として、例を言うぜ」
「どういたしまして」
一言だけ口にして、兄さんは手を振りさっていく。
その後ろ姿を眺めながら、俺はしみじみ兄さんの成長を感じる。
あの兄さんが俺に感謝するなんて……と。
人の成長は強さだけじゃない。
心の強さ、まっすぐさも一つの強さで、立派な武士になるために必要な要素だと思う。
◇◇◇
兄さんと話した後、やることもなかった俺は魔界に遊びにきた。
グリムとヴィルは魔王と一緒に話をしている。
その間、俺は先生と軽く手会わせすることになった。
俺たちは刃をぶつけ合う。
「姫様はほっといていいのか?」
「今日は王城から出ないから、俺は一緒にいなくていいんだよ」
「そうか。寂しそうだな」
「どこが?」
渾身の一振りを先生は軽々と受け止め、弾き返しカウンターの斬撃を放つ。
俺は身をよじって回避し、身体を回転させ刀を横に振る。
先生は剣を身体の横で縦に構えて防御した。
「動きにも魔力操作にも無駄が減ったな。強くなったんじゃないか?」
「当然! 俺は毎日強くなる!」
「ルキフグスとの一戦が活きたな。だが、まだまだだ!」
「くっ!」
先生の魔力が込められた剣に押し出され、後方に大きく身体が浮かぶ。
「剣術じゃお前は一番だが、魔力操作はようやく中級者だな!」
「これからもっと修行する。いずれ必ず、先生を軽く斬れるようになってやるよ!」
「そいつは楽しみだ。だがまリイン、ワシも易々と道を譲る気はない!」
「――!」
先生の構え!
あれは平晴眼?
まさか――
気づいた時には放たれていた。
一度に三連撃。
回避も防御の不可能な、あの天才剣士の奥義。
「無明剣?」
「どうだ? できてただろ?」
すべて寸止めだった。
けれどもし本気で攻撃していたら、俺の喉に穴が空いていただろう。
「いつの間に……」
「ははっ! お前と何度戦ってきたと思う? ワシもこれくらいできる……と言いたいが、こっそり練習していたんだよ。お前を見習ってな」
「先生が? 俺を?」
「おう。総合的にはまだワシが上。だが剣術は圧倒的にお前が上。めきめき実力をつけるお前を見て、負けてられんと思った! ワシ自身、剣術の限界を見た来ていたんだが……お前を見て気づかされたよ。剣術に果てはないことを」
先生は自らの剣を構え、鈍色に光る刃を眺める。
この世界において剣術は時代遅れだ。
しかし剣術の技術は、俺が元いた世界に比べると遅れている。
剣術が成熟する前に、魔術が発達してしまった弊害だ。
魔界最強の剣士と呼ばれた先生も、誰かに剣術を教わる機会はなかったらしい。
「お前がワシから魔力操作を学んだように、ワシもお前から剣術を学んでいたわけだ。そういう意味じゃ、お前はワシの師でもあるな」
「先生の先生か……」
思わず笑ってしまう。
ずっと一人で剣術を磨いていた。
どこかの道場に入ったこともあったけど、誰も俺と同じ目線で競ってはくれなかった。
いつしか共に歩くことを諦め、一人で突き進んだ。
一人でも強くなれると信じて。
けれどこの世界にきて、俺は知ったんだ。
仲間と競い合うことの楽しさを。
足並みをそろえて強くなろうとしてくれる者がいることが、どれほど励みになるのか。
一人ではない。
隣に、前に、誰かがいてくれる。
自分の位置を確認できる。
一人でも強くはなれるだろう。
それでも、一人よりも二人、もっと多くが傍にいてこそ、最強に至れる。
「ワシはまだ強くなれる。お前にも負けないぞ」
「――すぐ追いついてみせるよ。俺の剣術だってまだ終わりじゃない」
歴戦の剣士たちの絶技を真似る。
それだけじゃ足りない。
いつか、彼らの絶技を超えるような技を、自らの手で作り出したい。
俺の夢はいつの間にか、新しいステージへ踏み込んでいた。
ただ、目指す先は変わらない。
最強の剣士。
最高の武士。
夢を追いかけ、果てなき研鑽を続けていく。
これからも。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【あとがき】
これにて終章は完結です!
短い間でしたが、ここまで読んで頂きありがとうございます。
楽しんでいただけましたか?
少しでも面白いと思ってくれたら嬉しいです。
最後になりますが、ぜひここで一度★を頂ければ幸いです。
ついさっきから新作を投稿開始しました!
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異世界ブシロード ~チートはいらないから剣をくれ!~ 日之影ソラ @hinokagesora
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