事件から一週間後。

 俺と王女様との婚約話は一瞬にして広まり、注目の的になってしまった。

 ついでに十傑の補佐役になったことも知られている。

 俺は一人、学園の庭をぶらぶら歩く。

 ギガスとの戦闘で吹き飛んだ建造物の修復作業が行われている。

 ほとんど壊したのはギガスだが、なんとなく申し訳ない気分になった。


「暇だし手伝うか?」

「何してんだ? リイン」

「ん? ああ、兄さんか」


 声を掛けられ振り返る。

 そこには兄さんが立っていて、俺に向かって手を振っている。


「久しぶり、でもないね。見たところ元気そうだけど」

「こっちのセリフだ馬鹿野郎。お前、俺の忠告を無視してくれたみたいだな」

「あー、そうだったかな? でも仕方がないよ。それに勝ったし」

「……はぁ、そうだな。結果を見ても文句なんて言えない。忠告した俺がマヌケじゃねーか」


 兄さんは大きくため息をこぼす。


「聞いたぜ。王女様と婚約したってな。しかも十傑補佐、ナイト就任のオプション付きで」

「半ば強引にね」

「はっ! 何不満そうな顔してやがる。あのギガスを一人で倒しやがったんだ。正直やるとは思ってなかったから驚いたぜ。とんでもなく強くなりやがったな」

「そんなに強くなかったよ? 兄さんでも勝てたんじゃないかな?」

「こいつ」


 兄さんは俺の頭を鷲掴みにして、ぐしゃぐしゃと髪をかき回す。

 乱暴そうに見えて優しく揺らすように。


「じゃあな! 俺はまだ仕事が残ってるから行くぜ」

「うん」


 俺の前から立ち去る兄さん。

 数歩離れたところでピタリと立ち止まる。


「そうだ。リイン」


 兄さんは振り返る。


「学園を守ってくれてありがとな。十傑として、例を言うぜ」

「どういたしまして」


 一言だけ口にして、兄さんは手を振りさっていく。

 その後ろ姿を眺めながら、俺はしみじみ兄さんの成長を感じる。

 あの兄さんが俺に感謝するなんて……と。

 人の成長は強さだけじゃない。

 心の強さ、まっすぐさも一つの強さで、立派な武士になるために必要な要素だと思う。


  ◇◇◇


 兄さんと話した後、やることもなかった俺は魔界に遊びにきた。

 グリムとヴィルは魔王と一緒に話をしている。

 その間、俺は先生と軽く手会わせすることになった。

 俺たちは刃をぶつけ合う。


「姫様はほっといていいのか?」

「今日は王城から出ないから、俺は一緒にいなくていいんだよ」

「そうか。寂しそうだな」

「どこが?」


 渾身の一振りを先生は軽々と受け止め、弾き返しカウンターの斬撃を放つ。

 俺は身をよじって回避し、身体を回転させ刀を横に振る。

 先生は剣を身体の横で縦に構えて防御した。


「動きにも魔力操作にも無駄が減ったな。強くなったんじゃないか?」

「当然! 俺は毎日強くなる!」

「ルキフグスとの一戦が活きたな。だが、まだまだだ!」

「くっ!」


 先生の魔力が込められた剣に押し出され、後方に大きく身体が浮かぶ。

 

「剣術じゃお前は一番だが、魔力操作はようやく中級者だな!」

「これからもっと修行する。いずれ必ず、先生を軽く斬れるようになってやるよ!」

「そいつは楽しみだ。だがまリイン、ワシも易々と道を譲る気はない!」

「――!」


 先生の構え!

 あれは平晴眼?

 まさか――


 気づいた時には放たれていた。

 一度に三連撃。

 回避も防御の不可能な、あの天才剣士の奥義。


「無明剣?」

「どうだ? できてただろ?」


 すべて寸止めだった。

 けれどもし本気で攻撃していたら、俺の喉に穴が空いていただろう。


「いつの間に……」

「ははっ! お前と何度戦ってきたと思う? ワシもこれくらいできる……と言いたいが、こっそり練習していたんだよ。お前を見習ってな」

「先生が? 俺を?」

「おう。総合的にはまだワシが上。だが剣術は圧倒的にお前が上。めきめき実力をつけるお前を見て、負けてられんと思った! ワシ自身、剣術の限界を見た来ていたんだが……お前を見て気づかされたよ。剣術に果てはないことを」


 先生は自らの剣を構え、鈍色に光る刃を眺める。

 この世界において剣術は時代遅れだ。

 しかし剣術の技術は、俺が元いた世界に比べると遅れている。

 剣術が成熟する前に、魔術が発達してしまった弊害だ。

 魔界最強の剣士と呼ばれた先生も、誰かに剣術を教わる機会はなかったらしい。


「お前がワシから魔力操作を学んだように、ワシもお前から剣術を学んでいたわけだ。そういう意味じゃ、お前はワシの師でもあるな」

「先生の先生か……」


 思わず笑ってしまう。

 ずっと一人で剣術を磨いていた。

 どこかの道場に入ったこともあったけど、誰も俺と同じ目線で競ってはくれなかった。

 いつしか共に歩くことを諦め、一人で突き進んだ。

 一人でも強くなれると信じて。

 けれどこの世界にきて、俺は知ったんだ。


 仲間と競い合うことの楽しさを。

 足並みをそろえて強くなろうとしてくれる者がいることが、どれほど励みになるのか。

 一人ではない。

 隣に、前に、誰かがいてくれる。

 自分の位置を確認できる。

 一人でも強くはなれるだろう。

 それでも、一人よりも二人、もっと多くが傍にいてこそ、最強に至れる。


「ワシはまだ強くなれる。お前にも負けないぞ」

「――すぐ追いついてみせるよ。俺の剣術だってまだ終わりじゃない」


 歴戦の剣士たちの絶技を真似る。

 それだけじゃ足りない。

 いつか、彼らの絶技を超えるような技を、自らの手で作り出したい。

 俺の夢はいつの間にか、新しいステージへ踏み込んでいた。


 ただ、目指す先は変わらない。

 最強の剣士。

 最高の武士。

 

 夢を追いかけ、果てなき研鑽を続けていく。


 これからも。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


これにて終章は完結です!

短い間でしたが、ここまで読んで頂きありがとうございます。


楽しんでいただけましたか?

少しでも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

最後になりますが、ぜひここで一度★を頂ければ幸いです。


ついさっきから新作を投稿開始しました!

タイトルは――


『魔力ゼロの落ちこぼれ貴族、四大精霊王たちに溺愛される ~契約で感情を取り戻したのでギリギリまで無能を演じてみる~』


URLは以下になります!

https://kakuyomu.jp/works/16817330655575154642


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異世界ブシロード ~チートはいらないから剣をくれ!~ 日之影ソラ @hinokagesora

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