「ボディーガード?」

「はい。学園に通っている間、私のことを守ってほしいのです」


 王女様はニコやかに語る。

 学園の敷地内限定で、俺に護衛をしてほしいそうだ。

 お願いの内容は簡単だ。

 けれど当然、疑問は浮かぶ。

 まず――


「なんでわざわざ護衛を? 王女様ならいくらでも護衛をつけられるでしょう?」

「はい。学園の外であれば」


 俺は理解できず首を傾げる。

 そんな俺を見て、王女様は少し呆れた顔をした。


「ご存じありませんか? 学園の敷地内に入れるのは関係者のみです。屋敷の使用人や護衛であっても同じです。なぜならこの学び舎の中では、全員が対等に扱われます。爵位や権威は関係ありませんから」

「……その割には、入学試験をパスできたりしていますよ?」

「そうですね。入学基準は平等を欠いています。私も何度か進言していますが、残念ながら変わってはくれませんでした」


 王女様は困った顔をしながら笑う。

 学園に入ることは不平等で、入ってしまえば爵位も関係なく平等。

 というのがこの学園内でのルールらしい。


「ルールと言っても厳密に守られているわけではありません」

「では護衛も外から募っていいのではありませんか? 王女様なら誰も異を唱えないでしょう」

「それこそご法度です。人々の規範となるべき王族が進んでルールを破るなど、国民に笑われてしまいますよ」

「……そうですね。失礼いたしまいた」


 俺は頭を下げて謝罪する。

 王族というと何となく、横柄なイメージがあった。

 少なくともこの人は、上に立つ者としての責任について考えているようだ。

 さっきの言葉は俺が浅はかだったと反省する。

 その上で、もう一つ大きな疑問を口にする。


「なぜ、俺なんですか?」

「あなたが適任だからです」


 一秒も考える間もなく、ハッキリと王女様は答えた。

 どんな理由で口にしているのだろう。

 俺は続けて言う。


「失礼ですが荷が重すぎます。俺は今さっき学園に入学したばかりの一学生です。王女様の意図は測りかねますが、俺では王女様に満足いただけないかと」


 本音を言うと面倒くさい。

 学園に通っている間、この人の護衛をしなきゃいけないとか。

 自由を妨害されるのは困るんだ。

 ただでさえ、両耳に不釣り合いな者を連れているわけだし。

 何とかして断りたいと思っている。


「そんなことはありません。この学園にあなたほど、私を守れる人はいませんよ」


 しかし王女様は一歩も引かない。

 俺に拘る意味はなんだ?

 なんとなく理由を知ったら引き返せない気がするな。

 俺はさっき仕入れたばかりの知識で対抗する。


「この学園には十傑という組織があるそうです。彼らは学園の生徒から選ばれた実力者と聞きます。俺より彼らに相談したほうがよいのではありませんか?」

「そうですね。彼らの実力は私も存じております。どなたも素晴らしい才能の持ち主です。いずれこの国を支える方々になるでしょう」

「それなら」

「いいえ、彼らの実力を知った上で、あなたのほう適任だと私は思っています」


 学園生徒の最高機関、学生会十傑。

 その彼らを差し置いて、俺みたいなよくわからない生徒を選ぶ?

 この王女様は何を考えているんだ。

 まったく読み取れない。

 何を言っても返される予感がした俺は、腹をくくることにした。

 

「申し訳ありませんが、俺には荷が重すぎます」


 言い訳しても通じないなら、堂々と断るしか方法はない。

 せめて誠意を示すように頭を下げて。


「よろしいのですか? 断ってしまっても」

「申し訳ありません。大変嬉しいお誘いですが、俺には王女様の護衛をする度胸がありません」

「あら、おかしなことを言うのですね? 度胸なら尚更でしょ?」


 王女様の口調が、少しずつ崩れていく。

 まるで偽装を剥がすように。


「悪魔をつれて学園に入学した人間なんて、あなたが初めてよ?」

「――!」

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