第五章 新しい出会い

 先生から選別としてもらった魔剣を使い、空間を移動して故郷へ帰還する。

 風情もへったくれもないけれど、普通に移動したら一か月かかる距離だ。

 これが一番効率がいい。

 移動先は、以前先生が一時的に拠点としていた森の小屋。


「戻って来たんだな」


 一年半ぶりの景色。

 先生が作った小屋は森の動物たちの住処になっていた。

 突然現れた俺にビックリして逃げていく。

 悪いことをしてしまったなと反省しつつ、俺はゆっくりと歩き出す。

 いつもよりもペースは遅く、景色を噛みしめるように眺めながら。

 たった一年半離れていただけで、こんなにも懐かしく感じる。

 故郷への思い入れなんて俺にはないと思っていた。

 案外、こっちの景色も気に入っていたのか。

 シャランと歩く度に音がなるイヤリングを揺らしながら、俺は生まれ育った屋敷の前にたどり着く。

 すると中から、まるでわかっていたかのように、二人の姿が現れる。


「ただいま戻りました。お父様、お母様」

「ああ、よく戻った」

「大きくなったわね。リイン」

「はい」


 二人は旅立った日から変わらない。

 大人の容姿は、一年足らずでは変わらないか。

 対照的に子供の俺の成長は、二人の目を驚かせたらしい。

 いつの間にか、お母様の身長を超えていた。


「長旅で疲れただろう? 今日はゆっくり休みなさい。部屋はそのままにしてある」

「ありがとうございます」

 

 軽くお辞儀をする。

 シャランとイヤリングが音を鳴らし主張する。


「そのイヤリングは?」

「ああ、これは先生のところでもらった物です」

「そうか。よく似合っている」

「ええ。格好良くなったわ」

「ありがとうございます」


 ちょっぴり複雑な気分だが、褒められているのだし笑顔を見せておこう。

 その後は荷物を使用人に任せ、自室に向かった。

 扉を開けると懐かしき部屋がある。

 魔王城で暮らした部屋より一回り小さい。

 中に入って扉を閉めると、動いていないのにイヤリングや揺れる。


「へぇ、ここがリインの部屋か。思ったより小さいな!」

「お、お邪魔します」


 右のイヤリングはグリムに、左はヴィルに変身する。

 二人は元の姿に戻ると俺の部屋を右へ左へ散策し始める。


「お前ら……両親にバレたら困るってわかってるよな?」

「ん? 別にここなら平気だろ? オレたちしかいないし」

「ご、ごめんなさい。でもちゃんと偽装はしてあるので、だ、大丈夫だと思います」

「はぁ……まぁいいけど」


 最悪バレた時はなんとか誤魔化そう。

 俺は久しぶりに自分のベッドで横になる。


「おいリイン、どうせ時間あるんだろ? どっかでオレと勝負しようぜ」

「ダメだ」

「は? 逃げんのかよ!」

「そうじゃなくて、明後日には王都に出発する。休めるのは今だけだからな」

「えぇ! 戻ってきたばかりでもう行くのかよ!」


 グリムが大きな声を上げる。

 周りに響いて聞こえないか心配だが、その辺はヴィルが能力でカバーしているようだ。

 俺はベッドから上半身だけを起こし、腰かけ姿勢でグリムに言う。


「ギリギリの予定で戻って来たんよ。それに王都まで距離があるからな。馬車でも七日かかる」

「ド田舎だな……」

「最初からそう言ってるだろ」


 先生から貰った魔剣で移動できるのは、一度でも訪れたことがある場所。

 魔剣を持っている状態でなければカウントされない。

 そもそも俺は王都に行ったことがなかった。

 遠いし、縁もなかったからな。


「そういうわけだから、疲れることは王都についてから」

「チッ、しゃーねーな」


 グリムも納得してくれたらしい。

 俺は再びベッドに寝転がろうとする。

 そこへトントンとドアをノックする音が響く。

 二人は急いでイヤリングの姿に戻った。


「はい」

「私よ、リイン」

「お母様? どうぞ」


 お母様が部屋に入ってくる。

 何やら両手に一杯の手紙を持っていた。


「お休み中にごめんなさいね。これをあなたに渡しておきたかったの」

「手紙ですか?」

「ええ。アイリアちゃんからよ」


 チリンと、イヤリングが同時に揺れた気がする。

 俺が手紙を受け取ると、お母様はニコッと優しく微笑んで部屋を出て行く。

 受け取った手紙は十数枚。

 一か月に一枚くらいのペースか。

 俺が以前に彼女と会っていたペースと同じだけ手紙を残していたらしい。


「真面目だな、アイリアは」

「誰だよそいつ!」

「女の子の名前、ですよね……」


 お母様がいなくなった途端に元の姿に戻った二人。

 二人はベッドで俺の左右に座り、受け取った手紙を覗き込む。


「友人だよ。家同士の付き合いで小さいころからのな」

「幼馴染……ですね」

「お前って友達いたのか。ぼっちだと思ってたぜ」

「グリム、お座り」

「ワン! じゃねえよ!」


 ご主人様の悪口を言った罰だ。

 誰がボッチだ誰が。

 確かに前世でもほとんど友達はいなかったけど、知り合いは多かったぞ。

 ほとんど一度ぶちのめした相手だが……。


 俺は手紙を開いて読む。

 どれも他愛のない話ばかりだ。

 今日は何があったとか、新しい発見に感じたこととか。

 最後の手紙には、学園で会うのが楽しみだと綴られていた。


「そういえば彼女も入学するんだっけ」


 人類最大国家、最高の教育機関。

 どんな場所かは俺もよくわかっていない。

 世界中から貴族だけでなく、優秀な人材が集まるという話だ。

 二年前には兄さんが入学している。

 学園で再会することになるだろう。


「今から楽しみだ」


 実に感慨深い。

 前世では放りなげてしまった場所に、再び通うことになるとは。

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