時間というのは、本当に一瞬だ。

 年齢的な速さもあるが、充実した日々を送るほど一日が速く感じられる。

 楽しいことは一瞬だと、元の世界でも感じていた。

 一年半はそれなりに長い。

 それを短いと感じられるのは、ここでの暮らしが楽しかったからに他ならない。


「よいしょっと。荷造りは完了」


 一年半お世話になった部屋だ。

 最後に綺麗に掃除をしてお別れをする。

 俺は荷物を持ち上げ部屋を出る。

 向かった先は王座の間だ。

 そこでみんなが待っている。


「帰りの仕度は終わったのか? リイン」

「はい、先生。部屋も掃除しておいた」

「律儀ね。そんなことしなくてもよかったのよ?」

「そういうわけにはいかない。お世話になった場所への最大限の礼だ。礼をかくのは武士の恥だからな」

「相変わらずそれか」


 先生は呆れて笑いながら俺の前に立ち、下から上へと眺める。


「にしてもでかくなったな。人間の成長は早くて驚く」

「そうよね。あたしの身長は来れられちゃったわ」

「成長期だからね」


 この一年半で十センチくらい伸びたな。

 正確に測ったことないけど一七〇センチは超えたと思う。

 年齢的にまだまだ伸びそうだ。

 それにひきかえ……。


「二人は変わらないな」


 グリムとヴィル。

 この二人の容姿は出会ってからまったく変化していない。

 恐ろしいほどに。


「オレたちは夢魔だからこれ以上成長しねーんだよ!」

「そうなのか……」


 ってことは一生、この二人の体格的な差は埋まらないわけか。

 ほとんど一緒な二人だけど、身体のある一部は圧倒的な優劣が生まれている。

 グリムとヴィル、平野と山。


「お気の毒に」

「お前そろそろ本気でぶった押してやるぞ!」

「お、お姉ちゃん落ち着いて」

「冷静だっての! おいリイン! 今日も勝負するぞ!」


 二人との関係も変わらず良好だ。

 グリムとの戦績一二一勝、六十九敗、七分けで勝ち越し中。

 最近はヴィルも相手をしてくれるようになった。

 多少は自信が持てるようになったんだろう。

 中々手ごわい。


「悪いけど、勝負は一時中断だ。これから学園に通うことになったら忙しい」

「っ……勝ち逃げとか卑怯だぞ」

「そう言われてもなぁ」


 お父様とお母様との約束は守りたい。

 家族として果たすべき義理だ。

 俺は二人が望む通り、王都の学園に入学する。

 そこで四年間を過ごすことになる。


「四年なってあっという間だ。それまで待っててくれ」

「……」

「四年……」

「そんなに心配ならついていけばいいわ」


 ちょっぴり暗い空気を吹き飛ばすように、魔王があっけらかんとした顔で言い放つ。


「ついてくるって……学園に? それはさすがに」

「行く! オレも人間の学校って興味あったしちょうどいいや」

「わ、私も行きます!」


 グリムとヴィルがノリノリで手を上げる。

 

「いや無理だろ。俺が通うのは王都の学園なんだ。さすがに悪魔が一緒にいたら大問題になる」

「そこへ平気だろ」

「先生」

「二人とも夢魔だからな。姿や気配を自由に変えられる。魔導具にでも化ければバレることはないぞ」


 先生までもが肯定側に立っている。

 四対一……これは不利だ。


「本気で言ってるのか? 別にただの学園だし、ついてきても退屈なだけだぞ」

「それはないな! 退屈ならリインで紛らわせばいいし」

「み、みんな一緒なら楽しいです。きっと」

「お前ら……」


 これは説得するほうが骨が折れる。

 俺が納得したほうがよさそうだ。


「はぁ……わかった。好きにしてくれ」

「よっしゃ決まりだな! ありがとう! 魔王様! じいさん!」

「ありがとうございます!」

「おう。まぁ好きにやれよ。俺から教えることは教えた。あとは実戦だ、リイン」

「はい。先生」


 先生から魔力操作を教わり、この一年半で確かな自信につながった。

 あとは実戦、俺も同じことを考えていた。

 グリムとヴィルは練習相手にこれ以上のない適任だ。

 それに……。


「まぁ、いて退屈はしないからな」

「ん? なんか言ったか?」

「別に。まっ、飼い主としてペットの面倒は最後まで見なきゃな」

「んなっ、なんだとお前!」

「お手」

「ワン! ちっくしょう!」


 悔しがるグリムの隣で、ヴィルがクスクス笑う。

 ここでの生活は楽しかった。

 魔界が俺に合っているのだと思っていたけど、それだけじゃない。

 時に競い合い、時に笑い合える相手がいる。

 生まれた場所も、種族も超えて友となる。

 幕末を生きた武士共の集団、新選組がそうであったように。

 一緒に歩いてくれる友の存在は大きいようだ。


「それじゃ、行ってきます! 先生」

「おう。またな」

「い、行ってきます! おじさま、魔王様」

「必要ならいつもで呼び戻してくれよな! こいつ引っ張って連れてくる!」

「ええ、そうするわ。三人とも気をつけていってらっしゃい」


 魔王に見送られての出発なんて、俺以外の誰も経験でしないだろう。

 人類初をいろいろ更新してしまった気分だ。

 ここでの生活は生涯忘れない。

 俺を強くしてくれた場所に、皆に感謝を。


 そして――


 俺は踏み出す。

 最強の剣士、最高の武士になるための新たな一歩を。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


第四章はこれにて完結となります!

次章をお楽しみに!


できれば評価も頂けると嬉しいです!!

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