弐
激戦を終えて一段落した後。
俺はグリムとヴィルに魔王城の中を案内してもらうことになった。
「ここがお前の部屋だ」
「広いな」
最初に案内されたのは、俺がこれから睡眠をとる部屋だった。
黒い扉を開けた先には、貴族の屋敷顔負けの広々とした部屋が用意されている。
ベッドも大きくて布団はフカフカだ。
悪魔の部屋だから、もっとゴツゴツして禍々しい場所をイメージしていた。
他にも窓ガラスにカーテン。
衣装台や鏡があったり、おしゃれたソファーも用意されている。
どれも人間の世界にあるものだ。
実際は俺たち人間の暮らしと変わらないのかも。
「となりがオレとヴィルの部屋だから」
「な、何か困ったことがあったらいつでも呼んでください」
「うん、ありがとう」
不服そうに腕組みをするグリムの隣に、ヴィルはオドオドしながら立っている。
彼女と目を合わせると、なぜか視線を逸らされる。
まだ警戒されているのだろうか。
別に慣れ合うつもりはなかったけど、これから一年半を一緒に過ごす間柄だ。
円滑な修行生活を送るためにも、最低限はコミュニケーションをとるべきだろう。
「二人は一緒の部屋なんだな」
「なんだよ? 文句でもあんのか?」
「別に文句はないよ。仲いいなとおもって。二人は姉妹?」
「えっと、双子……です。人間でいうところの」
ヴィルがもじもじしながらそう答えた。
双子は予想通り。
けど、その後に続いた一言が気になって疑問の視線を向ける。
するとグリムが答える。
「オレたちは夢魔なんだよ。夢魔っていうのは誰かの夢から生まれるんだ」
「夢から?」
「そうだよ。オレとヴィルは同じ夢から生まれた夢魔だ」
「なるほど、だから双子か」
人間と同じように、生みの親が同じ。
ただし人間と異なるのは、彼女たちが夢を司る悪魔であること。
夢から生まれるなんて、いかにも異世界チックだ。
「そういうお前はどうなんだよ」
「ん? 俺は上に兄がいる」
「そうじゃなくて前の話だ! じいさんが言ってたぞ? お前、転生者なんだってな」
「ああ、そっちの話か」
戦いが終わってから、先生に俺のことを聞いていたグリム。
先生は俺が転生者であることを教えていた。
別に隠しているわけじゃないから問題ない。
「こことは別の世界から来たんだよな? どんな世界だったんだ?」
「普通だよ普通。魔術も何もない。俺が生まれた国も時代も平和だった」
「へぇー、人間にとってはいいことじゃないのか?」
「普通は……な」
今だからハッキリ思える。
あの世界で、俺は異端だった。
異常者と表現してもしっくりきてしまう。
戦争は悪いことで、死は恐ろしいもの。
一般常識は理解していながら、俺の魂は否定していた。
魂は戦いを求め、目的のためなら命もいらない。
本気でそう思っていたんだ。
「俺には……こっちの世界のほうが合っているよ」
生死の価値はまだわからない。
けれどこの世界は、思いっきり戦うことができる。
強さを求めることを誰も否定しない。
「元の世界は窮屈だった。こっちは自由に生きられる」
「ふぅーん。でもお前貴族なんだろ? 人間の貴族っていろいろメンドクサイって聞くぜ?」
「その辺はまぁ、上手くやるよ。よくも悪くも、学園を卒業するまでの辛抱だ。俺は家を継ぐわけじゃないから」
「一年半後に一回戻るんだっけか? その後はどうするんだよ」
「……まだ、決めてない」
学園を卒業した時、果たして俺はどこまで理想に近づけているだろうか。
まだ何年も先の話でうまくイメージできない。
「学校……か。どんなとこなんだろうな」
「行ったことないのか?」
「当たり前だろ? オレたちは生まれてからずっと魔王城いるんだよ」
「そうだったのか」
じゃあ二人を生んだ夢の主って、魔王城にいた誰かなのか?
グリムの強さの秘密……少し興味はある。
そうこうしながら案内を続けて、最後の部屋にたどり着く。
と言っても知っている部屋だ。
王座の間と呼ばれている魔王が普段いる部屋。
魔王城の一番上にあって、扉も大きくて仰々しい。
グリムが片手をかざすと、またしても扉は勝手に開いた。
「案内終わったぜー」
「おう、ご苦労様」
「おかえりなさい。三人とも」
王座には魔王が座り、その傍らに先生が立っていた。
「どうだったかしら? あたしの城は」
「広かった。それに頑丈そうだ」
「ええ、世界で一番硬い城よ」
「じゃあピッタリだ。ここなら思いっきり刀を振るえる」
俺は先生と視線を合わせる。
先生と離れたくなくて無理やりついてきた。
我ながら大胆なことをしたと思う。
この選択は、間違いじゃない。
「これからもご指導よろしくお願いします! 先生」
「おう」
「それと、これからお世話になります」
「ええ、楽しくやりましょう」
こうして俺の……新しい生活が始まる。
おそらく史上初となる。
人間の少年が、魔王城で共に暮らすのは。
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