参
翌日の朝。
一台の馬車が屋敷の敷地内に入ってくる。
馬車から降りる二人の大人と、その後ろにひょこっと顔を出す一人の少女がいた。
彼女は出迎えた俺を見つけると、嬉しそうに微笑み駆け寄ってくる。
「お久しぶりです! リイン君!」
「うん。久しぶりだね。アイリア」
彼女の名前はアイリア・ヴァレンチノ。
俺が生まれたウェルト家と同じ辺境の貴族で、古くから付き合いのある家柄の子供だ。
小さいころから交流がある。
いわゆる幼馴染みたいなものだ。
彼女の父親が、俺を見下ろしながら優しい笑顔で言う。
「リイン君も大きくなったね」
「ありがとうございます。ヴァレンチノ伯爵様」
「グエン君は今年から王都だったか。寂しくはないかい?」
「そうですね。少し寂しいです」
もちろん形式上の挨拶だ。
グエン兄さんは今年から、王都にある由緒正しき学園に入学している。
毎日戦いを挑んでくる相手がいなくなったのは、少しだけ物静かに感じるけど、これで修業に集中できると思っていた。
あとは……。
「私たちは中で話している。リインはアイリアちゃんをエスコートしてあげなさい」
「はい。お父様」
こういう家同士の付き合いがなければ、もっと修行に集中できるのに。
一応貴族という立場上、付き合いを無視はできない。
俺は面倒に感じながらもアイリアと一緒に遊んであげることにした。
「ねぇリイン君! リイン君もあ二年後には王都に行くんだよね?」
「そう言われてるね」
ウェルト家の習わしで、十五歳を超えた翌年から王都の学園に四年通うことになっている。
非常に面倒だが仕方がない。
逆に、学園を卒業した後は自由だ。
当主となるのは兄さんで、俺は今のところ役割がない。
成人も超えれば大人として扱われる。
それまでの辛抱。
ここまで育ててくれた恩義にはしっかり報いないと、立派な武士は名乗れないからな。
「私も学園に入ることになったんだ!」
「へぇ、そうなんだ」
「うん! だからこれからもよろしくね!」
「うん、よろしく」
彼女は嬉しそうに笑っている。
王都の学園に通えることがそんなに嬉しいのだろうか。
確かに王都はこの世界で一番大きな街らしい。
田舎の人が都会に憧れるような感覚か?
そうして時間が経ち、午前が終わることにはアイリアも馬車に乗って屋敷へと帰って行った。
ようやく解放された俺は急いで先生に元へ向かう。
「遅くなりました! 先生……ん?」
なぜかニヤニヤしながら俺のことを先生が待っていた。
俺は首を傾げる。
「なんですか? その顔」
「いやー、お前も隅におけないなと思ってな。知らなかったぞ? あんな可愛らしいガールフレンドがいるなんて」
「……はぁ、何を勘違いしているか知りませんが、彼女はただの友人です。それ以上でも以下でもない」
「なんだドライだな。もっと素直になってもいいんだぞ?」
「これが素です。そういうのに興味ないので」
元の世界でもそうだった。
友人はいらない。
恋人なんて邪魔になるだけだ。
俺はただ、俺がなりたい者を目指すことに必死だった。
「つまらん奴だなぁー、男なんだぞ? 女の一人二人作らんでどうする? お前くらいの年頃ならあるだろ? 好きな女とか」
「ウキウキしすぎでしょ……別にないです」
「しいて言うなら?」
なぜかいつも以上に饒舌になる先生に、俺は大きくため息をこぼす。
親戚のおじさんみたいなうざさだ。
「そうですね。俺と本気で遊べるくらいの相手なら考えます」
「ほう、つまり強い女か」
「はい」
まぁそんな相手、簡単に見つかるとは思えないけど。
そう思っている俺を見ながら、先生はニヤっと笑みを浮かべる。
「なんです?」
「いや、そういうことならピッタリな奴らがいると思ってな。そのうち紹介してやるよ」
「そうですか。楽しみにしてまーす」
「興味持てよ」
残念ながら俺の興味は、強くなることにしか向いていない。
仮に紹介してもらっても、先生が望むような光景は見せられないだろうと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます