参
囚われている女性を除けば、数は十七。
うち一人は今の接近で倒した。
残るじゃ十六。
全員が男で、数名は武器を所持していると見るべきか。
「さて、憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ」
「何だこのガキ!」
男の一人が背中から長物を取り出す。
一目見てわかった。
鍔も銘もない。
極道なら持っていても不思議じゃないとは思っていたけど、期待以上だ。
「それをよこせ!」
「へ?」
無刀取り。
刀を持たない場合に、相手が刀を抜いたところで手を掴み奪い取る技。
隙だらけで簡単だったぞ。
「てめぇ返……せ……」
振りぬいた刃は刀の持ち主の胴を切り捨てる。
模造刀ではなかったようだ。
俺は切っ先を見ながら笑みを浮かべる。
「うん、悪くないな。ちょっと長さが足りないし、重さがしっくりこないけど及第点だ」
「こ、こいつ……斬りやがったぞ」
「笑ってやがる。サイコパスか……」
「女の子を攫って襲おうとしている男たちに言われたくないな」
俺は刀を地面に振り、刃についた血を吹き飛ばす。
「お前たちは悪党なんだろう? 誘拐、強姦は法に触れる。というか法の裏側にいそうな人たちだし、ここで斬っても誰も文句は言わない」
「何を言って……」
「つまり斬りたい放題、試し切り用の束と一緒だ!」
「いかれてやがる! こいつを止めろ!」
男たちが動き出す前に、さらに二人を切り捨てる。
何か取り出そうとしていた。
カランとナイフが落ちる。
やっぱり丸腰の男は一人もいなさそうだ。
早々に刀を奪えたのはラッキーだったと言える。
続けて武器の取り出しに間に合った男たちに視線を向ける。
ナイフに、メリケンサック、一人は俺と同じ刀か。
「面白いな」
「この!」
ナイフで斬りかかる若い男を軽くあしらう。
長物に対して間合いを詰めるのはいい判断だが、隙が大きすぎる。
それじゃ斬ってくださいと言っているようなものだ。
メリケンの男も同様。
拳が当たるより、刀を振るうほうが早い。
「手が! 俺の手があああああああああああああああああ」
「このやろう!」
男が刀を上段から振り下ろす。
俺はそれを頭上で受け止め、そのまま刀を斜めに倒して受け流す。
「は?」
「刀の使い方がなってない」
隙だらけになった胴体に横なぎの一閃。
瞬く間に七人が倒れ込む。
ここまでは順調。
裏稼業の人たちもこの程度かと落胆したところで、バンっと大きな音が響く。
目に見えない光が、俺の横をかすめて行った。
「ああ、そうか、もってるよな……」
男の一人が拳銃を握り、銃口をこちらに向けていた。
「クソガキが、なめんじゃねーぞ!」
「別に舐めてない。けど、ありがたいな」
「は?」
「飛び道具とも一度戦ってみたかったんだ!」
幕末には拳銃も流通し始め、戦いの場には剣以外も積極的に用いられれる様になった。
もはや剣術は時代遅れ。
そう言われた時代ですら、剣一本で戦った大馬鹿たちがいる。
彼らが銃とどう戦ったのか。
研究するだけじゃ物足りなかったところだ。
「いかれやろうが! 死ね!」
二発目を放つ。
俺は瞬時に横へ飛び、球を避けた。
「は!?」
拳銃の弾丸は目に見えない。
どれだけ身体を鍛えても、球を弾いたり斬ったりはできそうにない。
けれど、拳銃を扱うのは同じ人間だ。
引き金を引くまでのタイムラグと、視線、銃口の向き。
それらの情報から撃つ方向とタイミングを予測すれば、球は見えなくても回避はできる。
理論を実践で試すの初めてだけど。
「案外簡単だな」
拳銃を躱された同様で焦る男に接近し、そのまま拳銃を持っている腕を斬る。
訓練された兵士でもない限り、拳銃を使われても大した脅威にはならない。
だが、俺は失念していた。
バン!
「ああ……そうか。一人じゃないよな」
拳銃は一丁ではなかった。
他にも数名、持っている男たちがいる。
一発の弾丸が俺の左腹部にめり込み、激痛が走る。
「っ……」
「は! 調子に乗るからだ! 大人しく――」
「油断しすぎだ」
拳銃を当てた男の懐に潜り込み、切っ先を胸に立ててから切り上げる。
「ぐあ……」
「こんなんじゃ致命傷じゃない。痛みは我慢すればどうとでもなるんだよ」
「こいつ……化け物かよ……」
とはいっても出血は止まらない。
長く戦えばこちらがフリ。
ここからは様子見なしだ。
残る拳銃は三丁、先にあいつらを殺す。
「こいつ仲間を!」
まだ生きている男たちを盾に使う。
動きで翻弄して、仲間で遮ればやつらは撃てない。
撃ったところで当たらない。
そのまま残りも切り抜け、確実に数を減らしていく。
四、三、二――
「最後の……一人か」
残ったのは拳銃を持つ男。
恐怖で震えながら銃口をこちらに向けている。
すでに出血でふらふれで、体力も残りわずか。
撃てば殺せるのに撃たないのは、この死体だらけの惨状に怯えているからだ。
こちらにとっては好都合。
もはや大きく振るう力も残っていない。
天然理心流――平晴眼。
たとえ己が死しても相手を斬る。
それこそが天然理心流の極意。
半身で腰をおとし、切っ先を相手の左目辺りに向ける。
突き技は強力だが、外れれは次はない。
大きな隙を作り斬られてしまう。
そんな固定概念を破壊したのが、幕末で最強と呼ばれた天才剣士。
神速の三段突き。
天然理心流の奥義!
「無明剣」
「うわああああああああああああああああ」
バン!
銃声が鳴り響く。
「……がはっ……」
「くそ、やっぱり三段ほぼ同時なんて無理だろ」
俺の切っ先は相手の喉を捉えていた。
そして、相手の銃弾も、俺の心臓を撃ちぬいていた。
ほぼ同時に倒れ込み、仰向けになる。
「はぁ……っ……」
苦しいけど痛みは薄い。
このまま俺は死ぬんだろう。
助けた女の子が何か叫んでいるのがわかった。
近くにいるはずなのに声がほとんど聞こえない。
そういえば手足のロープ、解いてあげてなかったな。
まぁ、敵はいないし自力でなんとかしてもらおう。
俺には動く力も残っていない。
結局……叶わなかったなぁ。
けど最後に、武士らしいことができたよ。
命を懸けても誰かを守る。
名だたる武士たちは皆、己が心と定めた者に従い、主のために剣を振るったのだから。
ああ、でも……。
もし次があるなら、俺が本物の武士になれる世の中で……。
生まれ変わりたい。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【あとがき】
序章はこれにて完結となります!
次章をお楽しみに!
できれば評価も頂けると嬉しいです!!
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