16.ダンジョン配信について語る配信2


 日本はこれといって、ダンジョン先進国では無い。これは万国共通の認識と言っていい。

 アメリカには私レベルの探索者が片手の指を越える人数はいるし、ロシアなんぞは軍人が訓練の為にダンジョンに潜る為、国家予算をジャブジャブ投じているらしい。


 日本はダンジョンの数こそ、国土に対しては異常に多いが、これはダンジョンの数が人口密度に関係して発生しているとの研究結果も出ている。

 そして、国はダンジョンに関することはダンジョンだけで完結すると考えているらしい。

 アメリカと手を組んで、モンスターを倒すことで採れる魔石なんかをエネルギー資源に変換する研究なんかも進めているらしいが、それに割り振られる資金も微々たるものだ。


 その理由は簡単で、人口に対する探索者の割合が他先進国と比べて低すぎる。

 それ故のトップ層の数も少なく、ダンジョンから持ち帰られる情報も劣っている。

 ダンジョン省なんかもあることにはあるが、それは私レベルの特級探索者、いわゆる爆弾を処理するために設置されたと言っても過言ではない。

 まぁ、あれは若爺が全部悪いんだが…。


 さて、少し話が逸れたが本題だ。

 アメリカのトップ探索者の配信についてどう思う?と虚さんに問いかけたのだが、彼女は少し俯き考え、その後口を開いた。


「アメリカのトップ探索者ですか…。私も時たま見ますがあれは凄いですよね。

 でも正直、私個人の意見になるんですけど廿楽さんの方が上のように感じます。」


「上っていうのは?」


「探索者としての実力的にですかね。」


「へぇ……。」


 舐めてた、この娘の事を、と言わざるを得ない。

 この意見がスっと出てくるとは思ってもいなかった。


「なんて言ったらいいんですかね…上手く言語化できないんですけど、他国のトップ層はよく配信をしてくれますが、派手なんですよね、無駄と言っていいほどに。

 それに比べて廿楽さんはどちらかと言うと地味、というより効率的なんですかね。

 あと、えも言われぬような恐ろしさがあるといいますか…あっ!配信の時はって意味ですよ!?今はめちゃくちゃ美人なお姉さんって感じです!少し近寄り難いほどですけど…。」



チャット

・分かる

・美人…(ガタッ

・あのモデル体型で美人なのに顔出しせずにVになった奴がおるってマ?

・勝ち組やん

・おい

・待てい


 チャット欄が何やらざわめいているが…無視だ無視。


 それよりも、虚さんはある程度特級探索者の本質というのを分かっている。

 それが何かは分かってないようだが。


「じゃあ、その違和感について少し掘り下げていこうか。

 アメリカを例にあげると、日本で言うところの特級に当たるダイアモンド級の探索者、これは12人いる。

 その中で定期的に配信してくれるのは5人かな。

 4人組のチーム『Arcana』とソロで活動してる『ルビー・ホワイト』。

 この5人よりは圧倒的に私の方が強い。

 喧嘩を売るようで申し訳ないけど、これだけは事実として受け止めてほしいね。

 特級の中でも格差ってものはあるんだよ。」


 そう言って虚さんの方を見ると顔面が青ざめるを通り越して真っ白になっている。

 まぁそれも仕方がない。この5人はアメリカのダンジョン配信界隈ではある意味神聖視されていると言ってもいい存在なのだ。

 そんな相手に事実とは言え、喧嘩を売るような発言を隣でされたのだ。しようがないともいえる。

 


チャット

・炎上案件?

・いやー、こればかりは擁護しようがないっす

・ダンジョン配信詳しくない俺でも知ってる名前だもん

・あれを自分より弱いってズバッと言える辺りね

・肝っ玉太すぎん?



「だって事実だもん。

 それに彼等には実際に会ったことあるし、なんなら共同探索もしたことあるよ。

 ルビーだけは素直には言わないかもしれないけど、彼等に聞いたら多分こう言うはずだよ。」



『Ms.黒葛廿楽と競わせるならセシリア・アダムスでも連れてこい』ってね。



「あの…廿楽さん、そのセシリア・アダムスっていうのは?」


 真っ白な顔からすこし復活した虚さんがそう聞いてきた。


「セシリア・アダムス。アメリカのダイアモンド級探索者。

 端的に言えば、アメリカ最強。」


「アメリカ最強…?ですが、その名前を聞いたことが無いのですが…。」


「でしょうね。

 ダイアモンドになればハリウッドスターと遜色ない知名度を得られると言われるアメリカですらメディア露出ゼロ。

 名前だけはアメリカの探索者協会で公開されてるけどその素性は彼女と交流がある一部の探索者しか知らない。」


 さらに詳しく言えば、歳は私の1つ上。

 そして自分と並ぶ、あまりにも異端な存在と契約している。

 彼女を最強たらしめるのはそれだけではないのだが、その契約スキルだけでもアメリカ最強と呼ばざるを得ない人間。


「探索者同士での戦闘は世界共通で御法度とされてるけど、彼女と戦ったら、負けはしないけど勝てもしないかなってくらい強い。」


「そんな人が…。」


「そ、いるんだよアメリカには。

 じゃあ、ここで問題です。

 他国の配信者と私の明確な違いってな〜んだ?」



チャット

・なんだ?

・分からん

・アメリカの配信者は見ないからなァ

・俺分かったかも

・"理解"っちまったかもしれねェ

・それは理解してない時に使うんよ



 コメント欄を脇見しながら隣の虚さんを見ると真剣な顔で悩んでいる。

 だが、ダンジョン配信オタクで聡明な彼女ならば直ぐに…



「契約スキル……ですか?」


 ほらね。


「正解だよ虚さん。」

 

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趣味がないのでダンジョン配信を始めてみました 預言猫 @odoro_kaede

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