15.ダンジョン配信について語る配信1


 どうしてこうなったのだろうか。

 今日は諸々の打ち合わせの為に出社してただけなのに、何故か会社の配信ルームで隣には美女が座ってらっしゃる。


 本当にどうしてこうなったのか。時は少し遡る。



――――――――――――



「し、失礼します」


 マネージャーから「隣のミーティングルームに廿楽さんがいらっしゃるようですが会いますか?」と言われた私は、それに即答して直ぐに車椅子の車輪を動かした。


 と、そこでふと気付いた。

 そういえば文面での会話はしたことはあるが、初対面だよな?と。

 案の定、入室時に少し吃ってしまった。


 恥ずかしい感情を押し殺して俯いた顔を上げると、チーフマネージャーの後藤さんと絶世の美女がいた。


「こんにちはうつろさん、」


「えっ、あっ、初めまして……。」


「あぁ、そういえば直接は初めましてですね。チャットだけでも交してると初対面って感じがしないのはなんか不思議ですね。」


「そ、そうですね…。」


 正直、配信でも顔が見えることは無いのでここまで美人だとは思わなかった。

 あまりにも顔が整っている人と対面すると言葉が出なくなるとはこの事かと思っていると、廿楽さんはにこやかな顔で口を開いた。


「先程、私のマネージャーの後藤さんと少しコラボ配信について話していたのですが、虚さん、私とコラボ配信しませんか?」

 

「え…?」


「…もしかして嫌です?」


「あっ!いや、そういう訳ではないんですけど、逆に私でいいんですか?」


「勿論ですよ。Vとしての最初のコラボは虚さんがいいなと思ってたんですよ。」


「えっと、じゃあ、はい、よろしくお願いします…。」


 流れで決まってしまった。そう、流れで決まってしまったのである。

 

 彼女とコラボ配信はいつかはしたいなと思っていた。

 だが、些か性急な気はしなくもないのだが、彼女がいいと言ったらいいんだろうか。


 などと、思考を回転させていると、廿楽さんは衝撃的なことを口にした。


「後藤さん、配信ルーム空いてます?」


「ええ、今日は空いておりますよ。」


「じゃあ、虚さん。今からゲリラコラボ配信といきましょう。」


「……え?」




――――――――――――――――――――――




 そして、冒頭に戻るというわけです。

 なんで、こうなったんですかね。いや、私も「ゲリラコラボ配信…いいですね!」とか言っちゃったんですけどね。



「はーい、皆さんこんにちは。突発ゲリラコラボ配信です。

 コラボ相手は同じ箱の虚空うつろからさんです。今日はよろしくね、虚さん。」


「えっと、はい、よろしくお願いします。」


「そういや、特に計画も何も無いんですが、何話します?」


「えっ…?いや、あの、何も決めてなかったんですか…?」


「いやー、これと言っては特に。

 あ、そうだ。ダンジョン配信好きって言ってましたよね?

 なら、ダンジョン配信について語る回でもしますか。」


「あ、いいですねそれ。」


 私はダンジョン配信オタクである。

 Vtuberとして活動していない暇な時は、専ら『Seekers』を見ていると言っても過言ではない。

 廿楽さんはダンジョン配信、特に他の配信者についてあまり詳しくは無いのでいいかもしれないと思った。


「なら、そうしましょう。

 じゃあ、ぶっちゃけた質問するんですけど、私の配信ってどうですか?」


「廿楽さんの配信ですか…そうですね、まずぶっちゃけ他の配信者と比べて格段のインパクトはありますね。

 なにせ、ほとんどが非探索者にとって未開拓領域ばかりなので。

 配信する事に探索者系のスレッドが物凄い速度で消化されていくので、それはもう。

 その点では他のダンジョン配信者の追随を許さないと言ってもいいと思います。

 その代わり、ほかの配信者の様な、言わばエンタメ、視聴者を楽しませるといった要素は皆無ですよね。それは今までの配信でも顕著なので、視聴者も分かりきってはいますが、これからの廿楽さんの立ち回りでは視聴者が飽きて離れていっても仕方がないところではあります。

 ですが、私含め一部のダンジョン配信オタクの間では、廿楽さんはブラックボックスであり特異点と呼ばれてます。

 今まで明かされなかったダンジョンの深部の事や、スキルに関して、廿楽さんが持っている情報というのは非探索者、及びダンジョン研究者の間では垂涎物です。

 ある種、明かされなかった秘密、若しくは謎に関して明かしてくれることを視聴者は待ち望んでいるからこそ、あれだけの話題に上がるとも言えます。

 そして、廿楽さんの実力は言わずもがな。少なくとも日本では3人しかいない特級探索者です。探索者の中でも上澄みも上澄み、貴女がダンジョン深部を探索している映像を何も話さず配信しているだけで、視聴者はいつまでも沸き立つでしょうね。」


 あ、ヤバい。

 私のオタクの部分が出てしまった。

 これじゃあ、典型的なキモい早口オタクじゃんか…と思いながら横を見ると廿楽さんは少し思案した顔をしていた。


「うーん、私自身これといって今までやってきたことをただただ配信していただけだけど、非探索者からはこう思われていたのかってのに気付かされるよね、うん、ありがとう虚さん。

 じゃあ、ちょっと私から質問なんだけど、海外、特にアメリカじゃあ私レベルの探索者seekerが時たま配信してたりするけど、それについてはどう思う?」

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