AtomA社AF生産工場破壊依頼③(報酬:500万→600万グリッド)

 重武装、重装甲が相手なら機動力の差を利用する。接近戦による短期決戦だ。

 両手のARの弾倉を交換して飛び上がり、あの太ったASを探す。ディスプレイに映る工場で動いているのは一機のASだけだ。ペダルを踏みこんで加速、接近する。ロックオン警報を聞いてすぐ降下し、道路に着地してそのまま進む。

 場所さえ掴めればいい。

 建物の隙間を縫うように走り抜け、角を曲がればセルベットの乗るASの左側面が見えた。ARが火を噴き、敵ASの装甲を打つが、装甲は分厚くAFを破壊するほどの口径でも簡単には貫けない。前に走り出した敵ASの背中を追う。


(セルベットは強い。簡単に背中を取らせるか?)


 思考を巡らせた矢先、敵ASのスラスターが蒼い炎を噴く。瞬間的に旋回し、足元にあるコンクリートが割れて散らばる。粒子ビームの砲身がこちらを向く。


(そういうことか!)


 ブースターによって推力が発生し右上へと浅く飛ぶ。足元を粒子ビームが通過、こちらを向く敵ASの多銃身ガトリングが見えた。そう、セットで使うのが癖だ。右SAセミオートマチックレバーを動かして建物の壁を蹴る。敵ASの予測が外れ、反対の方向に弾丸を撃ちこむ。

 両手のARが打突ブレードを展開、最大出力のブースターが機体を一気に加速させる。速度をそのままARに乗せて突き出すが敵ASはスラスターを使って避ける。打突ブレードの先端が装甲を微かに削っただけだ。反対側のARでさらに追撃する。それと同時にディスプレイ一杯に広がった敵ASの左腕が動く。回避の動作と合わせて繰り出されたそれをスラスターを使って強引に避けるが、SMGの先端が内部シールドを削る。

 出来るだけ有利な距離から出るな。


『接近戦か!? 懐かしいな!』


「お前相手なら全勝だ!」


 ついていないマイクに声をぶつける。

 右手のARが敵ASの持つレールガンを弾き飛ばす。そのまま左のARを脇腹に突き刺す。硬い装甲に阻まれて奥には届かない。


『ジョン!』


 ブースターが火を噴く音と共に機体が大きく揺れた。ブースターの加速と敵ASの質量がフレームを軋ませる。突進は単純だがASの質量がそのまま破壊力になる。点いた警告灯 コーションライトを確認する暇は無い。

 ステータスディスプレイで“Straight boost Ready”の文字を確認してネイルスイッチを押しペダルを踏む。最大出力でブースターが火を噴くと同時に推進器負荷高 の警告灯コーションライトが光る。機体の揺れが激しくなり、減速していくのが分かった。

 後方の映像をHMDヘッドマウントディスプレイに映すと建物が一杯に広がっていた。それを認識するよりも早く建物にぶつかり、衝撃によってパイロットシートに頭をぶつける。ヘルメットの保護機構作動と同時に両腕両足の装置が薬品を撃ちこむ。頭痛が止み、一瞬で視界がクリアになった。

 意識が引き戻されてすぐにペダルを踏みこみ、上へと飛びあがる。すぐに背後の建物を蹴って敵ASの背後に回り込むように着地する。機体を素早く180度左旋回、遠心力をのせて右のARを突き出す。

 直後、機体が再度大きく揺れた。機体の右肩に振り上げられたSMGの打突用マズルブレーキが当たり、そのまま切断された。“機体破損右腕”、“ライトウェポン警報ハンドウェポン脱落”の警報灯ワーニングライトが点灯する。自動で姿勢制御が行われ、機体が転倒しないよう一歩だけ後退。

 旋回速度が異常だ。

 ペダルを踏み込んで左右のSAセミオートマチックレバーを操作。

 敵ASがSMGを乱射、近距離ゆえに弾道予測も表示されない。スラスターによって機体が左へと滑るように移動、破壊された右腕の関節に弾丸が多少命中するが、それは大したものではない。左のARを脇腹、先ほどと同じ場所に突き刺す。装甲を割り、内部シールドにぶつかった。ARの打突ブレードがしまわれ、弾丸が薬室へと送られる。

 トリガーを引いて発砲。内部シールドを徹底的に破壊する。

 振り下ろされたSMGが左肘を切断した。

 左右には建物が並んでいる袋小路、逃げるには飛ぶか後退しかない。だが距離を離せばこちらが不利だ。

 ネイルスイッチ、別ペダル。


『運に感謝だ。だがこれで――』


 機体の機体が高速で旋回。左足を上げ、遠心力をのせてのつま先を敵ASの脇腹に向かって降りぬく。つま先が敵ASに突き刺さって至近距離の建物へと叩きつける。コンクリートが破壊され、陥没した建物にめり込んだ。


「……死んだか?」


 機体の左足がまだくっついているのが不思議なほどの無理をさせてしまった。内部シールドを貫通して破壊していなければ終わりだ。

 マイクを入れる。


「生きてるか? セルベット」


 スピーカーからくぐもった声が聞こえてきた。


『お前も……同じとは』


「スラスターまで改造する馬鹿が俺以外にもいたとはな」


『ハハハ。俺のセリフだ。まだ強くなるのか、ジョン』


「強くなる気はないんだがな。ところで大丈夫ではないよな? じゃないと困る」


『安心しろ。お前のせいで……下半身が……』


「セルベット?」


『……』


「はぁ。今度こそ成仏してくれ」


 溜息をつくと遠くからヘリの音が聞こえてくるのが分かった。ようやく来たらしい。


******


 格納庫を見渡せる部屋の窓際、カウンターのようになった場所にある椅子に座りながら損傷激しいASを見る。


「酷い有様だ」


 修理される機体を見ていると依頼主である第二営業部の部長が近くに座った。男の言う通り自分の機体はかなり損傷している。かなりの手練れを相手にしたのだから無理はない。


「あの二人もだ。まったく、失敗するなと言ったはずだが」


「目的は達成した。成功じゃないのか?」


「生きて帰ってこそ“成功”だ。死んだ奴は二度と働けん」


 そう言うと男はテーブルの上にケースを置いた。報酬だろう。受け取って中身を確認する。


「残った敵AFは0だった。今回はよくやった」


「多くないか? 600万入ってる」


「私個人からのチップだ。お前のように強く、“戦場に住む”傭兵は貴重だ。金の為に戦うのではなく戦う為に金を受け取るからだ」


「俺がどんな奴か考えるのは自由だ。好きにしろ」


 ケースを閉じて足元に置く。


「企業間の緊張が高まっていると聞いたんだが、よければ理由を聞かせてもらえないか?」


「恐らくSupelion社とLineboxIndustryが原因だろう。ある遺物の回収作業サルベージで揉めている」


 過去の遺物の回収作業サルベージなんて昔からどこでも行われている。大規模な戦争が起こるかもなんて言われるほどのものではない。


「たかが回収作業サルベージでか?」


「そこに世界を破壊した元凶があるらしい」


「メガフォートレスの類か。勘弁してくれ」


 メガフォートレスは荒廃前に大量に生産されていた超大型兵器だ。ASと同じだがより大きいラムダエンジンとAGDアンチグラビティデバイスを搭載した破壊の為だけにある化け物。しかも大虐殺を名に持つカーネイジウェポンも搭載されている。

 世界を破壊するにはうってつけの兵器。


「それがメガフォートレスかは分からん。それについて分かっているのは“バード”と呼ばれていることだけだ」


「バードか」


「次の仕事の参考になればうれしいよ」


 男はそこまで言って仕事に戻っていった。

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傭兵のジョン・ドウ Ohm @obein1226

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