AtomA社AF生産工場破壊依頼②(報酬:500万グリッド)

 地点防衛用兵器Cyclops-Mk2サイクロプスマークツーは四本の足で大型ウェポンプラットフォームを支えていた。地面ではCyclopsを囲むように赤い粒子が稲妻を走らせており、不可視の粒子シールドが発生していることが分かる。無理やりくっつけたシールド発生器がある背部からは上空に向かって粒子が放出されており、それによってホロシールドと呼ばれる一番分厚い層が作られていた。

 粒子シールドへの対抗手段は限られる。一つ、高い火力を瞬間的に撃ち込みシールド発生器に負荷をかけてシャットダウンさせる。二つ、同じ粒子シールドを接触させて接触部に開く穴から攻撃。三つ、エネルギーが切れるまで待つ。攻撃すれば多少エネルギーの消費量が増える。

 Cyclopsは門の前でASにひたすらに火力を投射する。

 持ち替えたレールガンを試しに脚部へ撃ち込むが、途中で赤い障壁に防がれて金属杭が地面に転がる。支給品のミサイルであってもシャットダウンさせるには足りない。どれだけ操縦技術があろうが粒子シールドが相手では無意味。機体が接触すれば粒子によってあっという間に破壊される。


「どうやってシールドを……」


 Cyclopsのエンジンでは粒子シールドの電力を賄うことは不可能なはずだ。周りを走行しながら全体を見回していると皿状の受信機を見つけた。その先に視線を向けると、門の向こう側にマイクロウェーブによる送電装置を見つけた。

 砲撃を避けながら移動し続けるが圧倒的弾幕によって装甲の下、内部シールドにまでダメージが入り始める。


「壁の中に送電装置がある」


『マズい!』


 Cyclopsがいる限り門から中に入ることはできない。

 壁に目を向けると壁の中間、地面から20mほどの所に出っ張りがあった。ASの脚がギリギリ乗る程度の段差だ。ASの高さは8m、垂直跳躍なら30m、壁は約40m。


「壁を上る」


『どうやって!?』


 壁に進路を変えて邪魔になる武器を持った腕を背部に回す。壁の近くに来たところでブースターが火を吹き、段差に向かって飛ぶ。飛び上がると同時に右手をSAレバーに移し、HMDに映し出された機体下部の映像を見ながらSAレバーを細かく動かして調整、段差に脚が乗ると同時に衝撃が機体を揺らす。

 頭部が壁を擦る。

 ペダルを素早く踏み変えてSAレバーを入力。機体の胴体前方のブースター、背部のブースターが同時に噴射して垂直方向に飛び上がる。ディスプレイ一杯に広がっていた壁が下方へと流れて消え、パイプが張り巡らされた工場の内部が見えた。

 前に少しだけ推力を発生させ、壁上に着地する。壁上では対地砲キッペルの装填作業をしていた人達が逃げまどっており、驚愕の表情を浮かべていた。

 門のある方向に向き直って対地砲に弾丸を撃ち込みながら疾走、途中で工場内部に向かって飛び出す。下を向いた機体のディスプレイには門の外に気を向けているAFや作業員が映った。

 ロックオン警告が鳴り、自動迎撃システムによる射撃がほぼ同時に行われる。対空砲ではないため、口径は小さい。内部シールドは貫通しないことを確信してスイッチを押す。ミサイルが前を向き、一発発射された。ミサイルは送電装置に直撃し、近くにいた作業員の肉片ごと部品をまき散らした。

 すぐに回避機動を取りつつ工場内部に着地する。地面を滑りながら状況が呑み込めず固まっているAFに手当たり弾丸を浴びせる。


「シールドはどうだ?」


『剥がれた。凄いな!』


 門前を荒らして味方二機の為に門から外へ飛び出す。目の前で射撃を続けるCyclopsの真下に潜り込んで胴体と脚部を繋ぐ関節にレールガンを向け発砲。金属杭は関節とウェポンプラットフォームを貫通した。

 体勢を崩したCyclopsに潰されなようすぐさま走り抜ける。Cyclopsは水平を保てずに傾き、撃たれた足をさらに破壊しながら倒れた。残った三本が虚しく空を切っているが、放っておけばすぐに立ち上がるだろう。


『ミサイルを撃つ。離れろ』


 その発言を聞いてぐにCyclopsから離れる。味方ASから発射されたミサイル二発がウェポンプラットフォームに直撃し、大規模の爆発によってシールド発生器とCyclopsを制御するAIもろとも破壊された。

 動かなくなったCyclopsを横目に門から内部へと再度侵入、三機のASによって門前に集まっていたAFは掃討されていく。


『別れるぞ。急いで潰せ』


 味方と別れて工場内を走行しながらAFを撃つ。


「物足りんな」


 遮蔽物が無かった外に比べれば工場内は遮蔽物だらけだ。遮蔽物があればそれだけ沢山の敵を相手出来る。

 全方位から鳴るロックオン警告を聞きながら時に飛び、時に弾薬節約のため打突ブレードを突き立てながら対空砲を潰していく。


『こちら第一空挺部隊、これからそちらに向かう』


 AFの相手をしていると通信が入ってきた。自分が潰していない残り8門は味方がやってくれたようだった。工場内はすでに戦えるAFがほとんど残っていない。


『よし。空挺部隊が来る前に――』


 機体の爆発音と着弾音が工場内に響いた。ラムダエンジンから放出された無価値で有害なラム粒子が辺り一面に散らばる。


『AS1大破! 何だ!?』


「どうした、何があった!?」


 マップディスプレイを確認すると味方ASの反応が一機消失していた。残った味方の位置を確認するとかなり高速で移動を始めていた。その動きは回避機動。


『ASだ! 赤い虎のエンブレム、傭兵が――』


 また爆音が響く。

 機体を爆発があった方向に向けるとロックオン警告が鳴った。空へと飛び上がり反転、ARを連射する。地上を高速で飛翔した何かが、建物を破壊して崩壊させた。

 ブースターで下降し建物裏へと隠れる。

 一瞬だが敵ASを目視で捉えた。背部右側から長い一本の砲身が伸び、反対側には多銃身のガトリング。右手にレールガン、左手に打突用を兼ねたマズルブレーキが付いたSMG。胴体右側に赤で描かれたエンブレムは三角フラスコを咥える虎。重装甲ゆえに太って見えるそれは見間違えるはずがない。

 通信をオープンチャンネルへと切り替えてパイロットに喋りかける。


「この仕事を紹介したお前が敵としてここにいる。これは偶然か、セルベット?」


『偶然な訳ないだろジョン』


「いくら貰った?」


『900万グリッド。お前みたいな手練れのおかげでぼろ儲けさ』


「またとんでもない仕事だろうとは思ったが、まさかお前が出てくるとはな。傭兵は止めたんじゃなかったか?」


『そのつもりだった』


 その声に混じってレバーの音が聞こえた。機体を走らせると隠れていた建物を金属杭が貫いた。建物に隠れながら金属杭の弾道から場所を割り出す。


『だがやめられんな。これは』


 割り出された方向に視線を向け、映った敵ASをロックオン。R付き照準が向く前に敵ASは加速、照準から逃れるように走り出す。建物の裏に隠れたASを追って機体を走らせる。建物の角を曲がったところで背部右側の砲身を前に伸ばしたASが目に映った。反射的に飛び上がった機体の下方を高熱の熱線が通り抜ける。

 粒子ビームは建物の壁を一瞬で溶解させ、飛び散った粒子がさらに辺りを焼いていく。

 敵AS背部のガトリングがこちらを向き、弾幕を張る。加速して敵ASの照準補正よりも早く移動しながらARを向ける。だが発砲する前にビームキャノンが自分の少し前を狙っていることに気が付いた。手動で補正しているのだ。

 右手をSAレバーへと映してペダルを小刻みに踏む。機体の胴体が後方斜め下に推力が発生すると同時に脚部からは前方斜め上へと上昇する推力が発生し、機体が横へと倒れる。すぐにディスプレイが粒子ビームの光で埋めつくされ、度重なる戦闘で装甲が破損し剝き出しになった内部シールドが焼かれた。内部破損を示す警報灯ワーニングライトが点灯してけたたましい警報がコックピットに響く。


『避けるのか!?』


 回転する機体の中でディスプレイを見ながら反撃。敵ASは被弾したものの致命傷にはならず加速してまた隠れる。

 姿勢を急いで戻しブースターで減速するも完全には速度を殺せず、地面に大きな音を立てながら着地。ASの39tトンもの重量からくるエネルギーが地面にヒビを入れる。

 長期戦は圧倒的に不利だ。

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