第12話 放課後
それから数日後の放課後。「後」で韻を踏んでいて楽しい。うん、つまらないことを言った自覚はある。
シノの体調はもうすっかりいいらしい。
「うおおお部活いくぞおお」
男子がはしゃいでいる。そう、期末テストが終わって部活が再開されたのだ。特にヨウたちは中学三年生。もうすぐ引退、ということでみなそれぞれ部活動にいそしんでいた。
あんなに辞めたい、なんて零していた人もみんなこぞって部活に燃えている。不思議な話だ。
もう終わるなんて思うと人間は俄然したくなるのだ。まだまだ続くと思ったら辞めたくなるのにね。人間て不思議な生き物だ。多分、心理学とか勉強したら面白いんだろうなあ。知りたい。知りたい。知りたい。
そういえば。目の前のシノを見遣る。この少女、部活は?
「そういえば、シノは部活してないの? あんまりそういう噂をきいてないけど」
もしシノがある部活に入っていたら、何かしらの噂が流れるはずなのだ。この少女にはコンテンツ力があるので。彼女の生き様はいろいろな人に歓迎され興味を持たれ、注目の的となる。
きっとそういう星のもとに生まれたのだ、シノは。なんてね。
「ええ、してませんよ」
「そうだよねー。してたら今頃もうどっかに引っ張られて行ってるよね。でも何で? ちょっと意外かもー」
シノはにこりと笑う。
「意外ですか? ヨウが私のことをどう思ってるのか気になりますね」
悪戯っぽい笑みがちらりと垣間見える。でも、それは会話と一緒でさらりと流れて行く。
「……部活をしない理由は大したことありませんよ。生徒会の活動が忙しいだけです」
「ああそっか。生徒会ってなんか忙しそうだよねー。挨拶運動とか」
生徒会長であるシノは校門の傍に立って他の生徒会執行委員と挨拶をしている。それも毎朝。雨の日も風の日も、猛暑の日も。
おはようございます。なんて透き通った声に輝かんばかりの眩しい笑顔。
その麗しい美貌を見るために遅刻する生徒が減ったとかいう都市伝説もあるくらいだ。
「そうかもしれませんね。まあ、それなりに充実しているのでいいんですけれど。それに、私はそれ以外にもしなければならないことが沢山ありすぎるので。したいことが多すぎて、三体くらいに分身出来たらいいなーなんて思うことはよくありますね」
そのせいでこの前体調不良を引き起こしていたし。この少女は人間の限界を早めに知るべきだ。間違っても限界を突破する方法を知ろうとしてはいけない。
でも、きっとこの少女には馬耳東風だろう。シノは賢い上に自分の信念を持っているから。
ヨウは無駄なことは言わない主義だ。
「あは、分身って面白いねー。将来研究してみようかな。クローンを作るのは現在の技術を駆使したら多分いけるけど、脳の記憶の統合とかできるようにしたいねー」
分身なんて夢がありすぎる。人の記憶についていろいろ考えたい。クラゲについても研究したいし。あっでも、先に分身つくってから研究した方が効率がいいのかな。いや、でもクラゲも気になるし……。
――それだけ研究するには莫大なお金がいる。それまでに稼いでおかないと。
いい仕事ないかなあ。一攫千金みたいな職業あったら是非つきたい。その分リスクは大きい仕事なんだろうけど。でも、金がないと人間は何もできない。
金がなくても幸せになれるというのは綺麗事だ。
「いいですね。そのときはぜひ、教えてくださいね」
「うん、もちろん」
「ふふっ、楽しみにしています。そういえば、ヨウは何か部活してます? 確か帰宅部だったような気がするんですけれど」
「うん、そうー。よく知ってるね。帰宅部だよー」
なんとここにいる二人はどちらも部活をしてなかった。お互い知っていたけれど。
「まあどうせもう引退だもんねー。それに、ヨウにはバイトがあるし」
「ああ、そうですよね。忙しいですか?」
「忙しいけど、その割にお金は稼げてないかなー。まあ、仕方ないけどね」
「ふふっ、じゃあ、大きくなったら二人で大儲けしましょうか」
「前もそれ言ってたね」
数日前、渡り廊下で喋った時だったっけ。
全てを記憶が出来るというのはやっぱりこういう時に便利だ。記憶力はあるに越したことはない。ごめんね、天才で。自分がUSBメモリになれる。歩く辞書にだってなれる。
でも、それに何の意味があるのだろうか。コンピューターと何の違いがあるんだろう。
どこか暗い思考はシノの言葉に遮られる。
「あてがないわけでもないですよ」
「え?」
何かを思い出したようにシノは言う。
「ヨウは、夜の学校に興味はありませんか」
そうだ、突拍子もないことを何の前触れもなく言うのだ、この少女は。
最近ようやく慣れてきたかと思えば、全くそんなことはなかった。シノという少女は予想を大きく裏切ってくるのだ。
こんな綺麗な顔をして彼女は、爆弾どころかダイナマイトを抱えている。
その爆発は、ヨウにとってどんな影響があるのだろう。
でも、損得勘定でつきあう人間を判断するのは、少し虚しいんじゃないか考えてる今日この頃。少しくらい身を任せても良いのではあるまいか。
――自己分析なるものをしてみると、多分一般の中学三年生よろしく人生の在り方について考えてしまっているのだろう。
所詮、自分は中学三年生だ。いくら勉強が出来ようとも、知識を蓄えようとも経験には劣るのだ。
夜の学校? それもどこか不思議な美少女に誘われて?
そんな青春小説みたいなシチュエーション、そりゃあ、行くしかないだろう。
「もちろん興味あるよー」
「ふふっ、ヨウならそういうと思っていました。ねえ、明日の夜は空いていますか」
バイトもなければ、家事も不要の日だった。たまたま妹のアオが友達と食べて帰ってくるはずから。
「うん、空いてるよ」
「まあ、それは嬉しい。本当に行ってしまいますか?」
悪戯めいた笑み。
「うん、行く、行きたいなー」
「では、決まりですね。ふふっ、明日の夜はよろしくお願いしますね」
くれぐれもこのことはご内密に。
すらりとした指を艶めいた口元に添えて言う。
それは反則だろうと思った。
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