猫のお菓子屋さん廃業目前と夏休み計画について。
「いよいよヤバくなってきたよね」
ミケ支店長面目まるつぶれ—— 猫のお菓子屋さん閉店の危機は、すぐそこまで迫ってきています。
商売上手を見込まれて支店長に抜擢されたのに、日に日に売り上げは落ちていき、廃業はもう目の前。下り坂を一気に転げ落ちるとはこのことです。
お店再生の切り札だった例の企業秘密も、近頃はぜんぜん
「ここまで人気がなくなって誰も来ないと、笑えるよね。アハハ」
「笑えないよ、ミケちゃん」
ひらがなのくまぱんちゃんことウルスス・マリティムス支店長代理は、即座にミケ支店長を
しかし、そのくまぱんちゃんも、あんまり深刻な顔をしていません。それどころか、なんだかうきうきと楽しそうなのです。
実はですね。くまぱんちゃんは、お店がどんどん
いくら猫がマイペースでクマがのんびりしているとはいえ、閉店の危機を前にして、仮にも支店長・支店長代理と名の付くものがこんなんでいいのでしょうか。
猫の神さまに申し開きができないし、カタカナのクマパンちゃんにだって合わせる顔がないはずです。
カタカナのクマパンちゃんは、ひらがなのくまぱんちゃんの従兄。猫のお菓子屋さん本店の隣にあるパン屋さんの元オーナーのブーランジェで、ミケちゃんの一番の親友でもありました。
カタカナのクマパンちゃんは真面目で勉強熱心。パンの勉強のためにお店を休業して留学したのですが、成績優秀で
ミケちゃんの情けない現状と比べたら、雲泥の差です。
パン屋さんのオーナーが、カタカナのクマパンちゃんからウサギのラパンさんになった
『くまのパン屋さんとうさぎのパン屋さん』
https://kakuyomu.jp/works/16816452220652521266/episodes/16817330651078448248
それで、ひらがなのくまぱんちゃんはパニ先生に会いに行く旅行計画を立てているのです。パニ先生の学校も夏休みだし、久しぶりに従兄弟そろって思う存分一夏を遊び倒そうというわけです。
現時点で決まっていることは、先生の案内で地元のパン屋さんやお菓子屋さん巡り。ちょっと遠出してキャンプや海水浴。博物館や科学館、コンサートと観劇のチケットは手配済み。ワクワクな予定は、これからまだまだ増えそうです。中でも一番の楽しみは、予約が3年先までいっぱいのRホテルのアフタヌーンティーのお席をパニ先生が
それと、そうだ。また、言うのを忘れるところだった。廃業目前とはいえ、猫のお菓子屋さん支店は(今の所まだ)営業しています。「オバケのお菓子特集」は継続中で、引き続きボンボンショコラの一口アイスをご賞味できます。
「引き続きご賞味できます」なあーんて気取っても、ぶっちゃけ閑古鳥以外、誰も来ないからね。当然、お菓子だって売れ残る。せっかくの美味しいお菓子を捨てるには忍びないから「オバケのお菓子特集」は一口アイスが売れるまでずっと続きます。アイスクリームには賞味期限がないんだもの、だいじょうぶ、だいじょうぶ。お腹が痛くなることはありません。
いや、待てよ。
食べてみなきゃ、何が入っているのかわからない一口アイス…… 中にはだいじょうぶじゃないものもあるかもしれない。オバケが入っていることもあるかもしれない。あんまりだいじょうぶじゃないかも……。
それなら、うん、肝試しに打って付けじゃないですか! 酷暑の夜に冷たいアイスを恐る恐る食べてみる。冷や冷やすること受け合いですよ。
*—— オバケならぬオマケのお話——*
会議の途中でミケちゃんがお手洗いに行くと、くまぱんちゃんは今がチャンスとばかり、ミケちゃんのノートPCをこっそりのぞきました。
あっ、また書き忘れがあった。
今回のお話の冒頭。ミケちゃんとくまぱんちゃんはお店再生の会議をしていたのです。お店が暇すぎて、ふたりで無駄話をしていたわけではありませんよ。
ミケちゃんのノートPCには、くまぱんちゃんでさえ見せてもらえない企業秘密のファイルがあります。ご存知のとおり、そのファイル名にはくまぱんちゃんの本名「ウルスス・マリティムス」と書かれていました。ミケちゃんのことだから、何を書いているかわかったもんじゃありません。不安に駆られたくまぱんちゃんが、盗み見したくなるのもわかります。(だからといって良い子はそんなことしちゃいけませんよ。後悔することになりますからね)
くまぱんちゃんはファイルを盗み見して、驚いてしまいました。
ファイル名がくまぱんちゃんの本名から、カタカナのクマパンちゃんの本名「ウルサ・パニス」に変わっていたからです。
あんなに自分の名前が付いているのが嫌だったのに、いざ変更されてしまうと、くまぱんちゃんはホッとするどころか複雑な心境になってしまいました。従兄のカタカナのクマパンちゃんと比べて、ひらがなのくまぱんちゃんは役立たずだとミケちゃんに見限られた気がしたのです。
楽しみにしていた従兄との再会も無条件では喜べなくなりました。楽しい夏休みの計画に一気に水を差された気分です。(ほらね。言わんこっちゃない。だから、盗み見、覗き見なんて、するもんじゃありません)
くまぱんちゃんがモヤモヤしていると、後ろから音もなく忍び寄る気配がします。
慌てて、ノートPCを閉じて振り返ると、黄色い目を爛々と光らせ、真っ赤な口が耳まで裂けた化け猫が!
「ぎゃあぁ!」
くまぱんちゃんは腰を抜かしました。
お察しのいい読者さんは、もうおわかりですね。
そう、なんのことはない、化け猫の正体は三毛猫ミケちゃん。
盗み見なんて後ろめたいことをしたくまぱんちゃんの心の目が見せた幻覚です。もっとも、ミケ支店長が怒ると、並の化け猫より怖いのは周知の通りですが。
そして、これからがこのお話の怖いところです。
くまぱんちゃんはミケちゃんに怒られるのを覚悟しましたが、いつまでたってもミケちゃんは何も言いません。
ただ、くまぱんちゃんを見て、ニヤリと不気味に笑っただけでした。
くまぱんちゃんは背筋が凍りつきました。
そして、後ろに立っていたのがミケちゃんではなくただの化け猫だったらどれだけ良かったことかと、この先ずっと悔やみ続けることになるのでした。
つづく
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