独白(3)

「でも……そんな僕のところに、ある日吉報が届いたんです」


 藍沢がふっと表情を緩めた。


「僕が退院してから一年半後のことでした。秘書の仕事を紹介してくれた知人に会う機会があったので、それとなくあの男の現状を尋ねてみたんです。彼は屋敷に移り住み、住み込みで働ける運転手を探しているという話でした。

 それを聞いて、僕の中で恐ろしいほどのスピードである計画が組み上がりました。運転手としてあの屋敷に入り、再び雨宮を抹殺する計画です。顔面の整形手術により、僕の顔は以前とは全く変わっていましたから、正体を隠してあの男に近づくことができる。まさに千載一遇のチャンスだと思ったんです」


 木場は思わず眉を下げた。もし、宗一郎が運転手の求人を出さなければ、そして藍沢が知人と会う機会がなければ、彼の復讐の炎はいずれ鎮火したかもしれない。それなのに、皮肉なほどの偶然の連鎖が、彼の復讐心を再び燃え上がらせることになってしまった。


「僕は知人から求人の場所を聞き出し、運転手の仕事に応募しました。面接で雨宮の顔を見た時には、憎悪が漲ってくるのを感じましたよ……。

 絶対にこのチャンスを逃がすわけにはいかないと思い、彼に気に入られるよう、寡黙で真面目な男を演じました。採用が決まった時には、運命の女神が僕に微笑んでくれたのだと思いましたね」藍沢が顔を歪めて笑った。


「それであんたは、『岩井一匡』という偽名を使い、屋敷に潜り込んだわけか……」ガマ警部が苦い顔で呟いた。


「はい。本名を並び替えたわけではありませんから、気づかれる心配はないと思いました。運転免許証についても、偽造は驚くほど簡単でした。

 それでも最初は、いつ正体が見破られるのではないかと不安でしたけどね……。なるべく屋敷の人間との関わりを少なくし、無口な人間を装いました。幸い、雨宮も他の人間も、僕の正体に気づいた様子はありませんでした」藍沢がふっと息を漏らした。


「すぐに計画を実行に移すつもりはありませんでした。次に失敗すれば、僕が復讐を果たす機会は永遠に失われる。だから慎重に慎重を重ねて時期を待ちました。雨宮の行動パターンを把握し、彼が一人になるタイミングを探りましたが、なかなか好機は訪れませんでした。

 あの晩……それを目撃したのはほんの偶然でした。昼食の後、彼はロビーで昼寝をしていました。そこで霧香がやって来て、車椅子のポケットにプレゼントを忍ばせたんです。

 彼女が夜に、あの崖でプレゼントを渡すつもりでいることは何日か前に聞いていました。プレゼントを抜き取っておけば、雨宮を一人にできるかもしれないと僕は考えました。だから霧香がいなくなった後で、ポケットからプレゼントを抜いておいたんです。

 その後、夕食後に霧香達が外出するのを見計らって、僕は二人の後をつけました。まずは森に向かい、そこで身を潜めて二人の様子を窺いました。霧香はプレゼントがないことに焦った様子で、雨宮に一言二言囁くと、急いで屋敷の方へ帰って行きました。この場にいるのは、僕と雨宮の二人きり……。ついに待ちに待った機会が訪れたわけです」


 藍沢が憎悪に満ちた笑みを浮かべた。彼はその時、何を思っていたのだろう。最愛の人を奪った相手を目の前にし、今までにないほどに憎悪を滾らせていたのだろうか。それとも、五年越しに復讐の機会を得て、正義の刃を振り翳せることに喜悦を感じていたのだろうか。

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