追及(2)
「落ち着け、木場」ガマ警部が見かねたように言った。「徒に頭を捻っても錯綜するだけだ。ここは論点を絞って考えるんだ」
「論点を絞るって……どこにですか?」木場が困惑しながら尋ねた。
「今問題となっているのは、岩井と藍沢を同一人物だと証明できるか否かだ。それを証明できれば、今までのお前の論証も合わせて、裁判所も奴の緊急逮捕を認めざるを得ない」
「そうですけど、どうやってそれを証明するんです? 署内には藍沢の指紋は残っていないんですよ?」
「確かに、署内に奴の指紋はない」ガマ警部が頷いた。
「だが、逆に考えてみろ。署内に指紋がないということは、署以外のどこかであれば、藍沢の指紋が残っている可能性はある」
「署以外の、どこか……?」
木場が当惑した顔で繰り返した。だが、その言葉を頭の中で反復しているうちに、次第にガマ警部の言わんとすることが呑み込めてきた。
「あ、そうか! もし藍沢の指紋が残っていれば、それをあいつの指紋と照合して……!」
「そうだ。両者が一致すれば、奴が藍沢だということを証明できる」
ガマ警部が頷いた。絶望的だった状況に一筋の光が差した気がして、木場の内側から再び闘志が漲ってきた。ソファーの周囲をせかせかと歩き回りながら、可能性のある場所を一つ一つ思い浮かべる。
「藍沢が住んでいたマンションはどうでしょうか? 大家さんの話では、藍沢は退院直後に転居して、今は別の人が住んでるっていう話でしたが」
「病院への照会によれば、奴が退院したのは事故から半年後、つまり今から四年と半年前のことだ。それだけの時間が経っていて、なおかつ他の人間が住んでいるのであれば、指紋が見つかる可能性は低いだろうな」ガマ警部が憮然として言った。
「じゃ……じゃあ、被害者の会社はどうでしょうか? 藍沢が使っていた机とか椅子に指紋が残っているかも……」
「それも五年も前のことだ。今はとっくに他の人間が使っているだろう」
「そんな……。それじゃあ、どこにも指紋は残ってないってことじゃないですか!」木場が悲痛な声を上げた。
「紙類であれば、数年以上指紋が残っていることもあるが……何十人もが手を触れる会社の書類から個人を特定するのは難しいだろうな」
ガマ警部が渋い顔で言った。となると、指紋が残っている可能性があるのは、藍沢が触れた可能性があり、かつ、その指紋が藍沢のものだと特定できるような紙だ。だが、そんなものが本当にあるのだろうか?
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