断章 ―仮面の裏側―

 私はその光景を、屋敷の上階から見下ろしていた。


 優男風の新米刑事と、強面の年配刑事が屋敷に向かって歩いてくる。一見いびつな組み合わせに見えて、あの二人は意外と息が合っているようだ。


 彼らは現場で何を見たのだろうか。死の黒煙が燻るあの場所で、奪われた命に対する義憤を強めただろうか。


 だが、いずれ彼らにもわかるだろう。あの男は追悼に値するような存在ではない。むしろ駆逐されるべき怪物なのだ。その本性を知れば、彼らも私が正義の鉄槌を下したに過ぎないことがわかるだろう。


 彼らは屋敷に舞い戻り、聞き込みを再開するようだ。今もなお屋敷に息を潜める殺人犯を前に、彼らは嗅覚を研ぎ澄ませ、優秀な狩人のように獲物を喰らわんとするのだろう。


 裁きの手は私に届くだろうか。計画が破綻したとは露ほども思わないが、それも素人考えに過ぎない。まして事は殺人なのだ。いくら周到に計画を重ねたところで、どこかに綻びが生じることは避けられまい。殺人に玄人などいない。勝敗を決するのは知謀と策略。だがそれ以上に重要なのは、幸運の女神が微笑むか否か。


 それでも私は確信している。彼らがいくら法の手を差し向けようと、その手が私に届くことはない。なぜなら彼らは私の正体を知らない。特にあの若い刑事。一見無辜むこな仮面の裏側に、私がどれほどの狂気を秘めているかなど、彼は知る由もないのだ。


 私は微笑みを浮かべながら彼らを見下ろした。ゲームは第二幕に突入する。この新しい舞台において、彼らはどのような喜劇を演じてくれるのだろう。


 刑事達よ、せいぜい私の手の中で踊るがいい。もがけばもがくほど沈んでいく蟻地獄のように、君達が真相に近づこうとすればするほど、真実は闇へと葬られることになるのだから。

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