俺は不死身だ

黒白 黎

俺は不死身だ

「手段は問わない。確実に殺せ」

 墓標を埋め尽くすほど数えきれないほどに至る。多くの犠牲者がこの世界のどこかで死に、身体はここへ長い眠りの世界へと誘われた。この地に来て、もはや数千年と経っていた。何年経とうが何十年過ぎようが、ここは変わらない。変わるのは墓標の数が増えるくらいだろう。

「手段は問わない。必ず殺せ」

 数千年前、俺を庇って死んでいった親友(ダチ)のセリフが頭の中で繰り返し思い出していた。親友(ダチ)は敵を殺すことに関しては容赦なく、無常に冷静で極悪非道ともいえるほど相手に容赦なく命の灯を断ち切る偉大なる男だった。だが、その男でさえも俺という存在の前ではむごたらしく散るだけだったらしい。俺は不死身で何度傷つけられようが死ぬことはない。親友(ダチ)にも話したにもかかわらず、アイツは俺を庇って死んでいった。

 バカな奴だ。俺が死んだ親友(ダチ)の墓標に向けて愚痴った。親友(ダチ)が死んだことで、俺はここを見守らなくてはならなくなった。墓守だった親友(ダチ)が死んだからだ。

 まあ、不死身だから死ぬことはない。ここで何千年と過ぎ、色々な人たちを見て来ただけもあって案外楽しかったりもする。だけど、やっぱ孤独というのは寂しいものだよ。

 親友(ダチ)が死んで五十七年後、親友(ダチ)の妹が訪ねてきた。長年兄の存在なんて綺麗に忘れていたっていう奴が死ぬ間際にやって来たんだぜ。俺は鼻で笑い飛ばしながら「死ぬ直前になって兄に会いに来るなんて、とんだ兄不幸者だな」って言ってやったら「兄は極悪非道な人でした。すぐに罪と決めつけ、罰する。そんな人が家族だと世間からの目は冷たいものです。永らくの逃亡の末、病気になってようやく、覚悟ができてきたんです」そう言って、妹は自ら毒を飲んで、兄の墓標の上で死んでいった。

 親友(ダチ)はどう思うのだろうな。しばらく家族とは会えなかったはずだ。そういえば、親友(ダチ)は一言も家族のことを話していなかったな。ああ見えて、照れくさいところでもあったのだろうか。

 二百十七年後、のっぺりとした人間が訪ねてきた。彼は「ロボット」だといっては、墓標を見たいという面白おかしな奴だった。「自分はロボットなので死ぬときは機能が停止するか壊れたときです」というのだ。見るからにロボットというよりは人間そのもの。骨や皮、肉つきと人間と大差がない。それがロボットだっていうのだから、おかしな奴だなと嘲笑った。

 だが、奴が毎週訪れる度に墓標の作り方を教えてほしいとか、この人はどこで死んだのかとか聞いてきた。退屈だったから適当なことを混ぜながら話してやったら大喜びするもんだから、しばらくの間、暇をもてなすことができた。

 しばらくして、ロボットが墓にやって来た。自ら墓の前で眉間に銃を打ち込んで倒れた。俺は「なにやっているんだよ。ガラクタが」と罵り、ロボットを土に埋めて隠蔽した。

 それからすぐロボットのことを訪ねてくる男らが来た。どうやら奴はスパイだったらしい。長年ロボットの工場に勤めているうちに自分もロボットだと思い込むようになったらしい。ロボット工場の機密情報を探るはずが、ロボットたちを助けるとか革命的なことを言い、機密情報を漏洩したあげく、ロボットたちを率いて大騒ぎとなったらしい。脱走したロボットはすべて処分し、最後は奴だけとなった時、「自分はロボットです」と周りのロボットたちのように機能が停止すると思っていたらしいが、結局は確かめることなく自殺した。

 アイツがいまになって、ロボットだと思い込むのなら自ら眉間に向かって銃なんて打ち込まない。なぜならロボットたちは自ら殺すというプログラムはないのだから。

 それから数えきれないほどの出会いを重ね、そして隕石がこの地に堕ちるというところまでやって来た。世間では世紀末やら終末やら大騒ぎだ。俺からしてみれば大したことはない。この地表をきれいさっぱりと掃除してくれる人だと思っている。

 黒く漆黒の雲を裂き、赤い光が地表へ向かってくる。「ああ…終わりだな」とようやく不死身であり死なないからだとオサバラできるのだと思い目をつぶった。

「手段は問わない。確実に殺せ」

 懐かしい声が聞こえてきた。目を開くほど力はない。ただ懐かしい声だけが近くから聞こえてくる。

「手段は問わない。必ず殺せ」

 ああ、もう一度懐かしい声が聞こえてくる。俺は瞼に力を加えなんとか開けようと試みた。そして真っ白い光に包まれ、目の前で親友(ダチ)が背にしているのが見えた。

「手段は問わない! 確実に殺すんだ!」

 親友(ダチ)は核爆弾を背負って俺に向かって今すぐ振り下ろそうとしていた。

「コイツを殺さなければ、世界は終わる―――」

 そう聞こえたのを最後に、二度と蘇ることも再生されることもなかった。

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