地道な竜とインチキ占い師

「あの人……とは……どんなかたなのですか?」


 ミルヤの瞳がオレを覗き込む。

 何故か懐かしい気持ちになるのは、瞳の色のせいなのだろうか……


「……たぶん“あの人”もドラゴンに殺されて……生まれ変わってどうなったかはわからない……オレの外見もずいぶん変わった……そもそもこっちの世界に転生してきているのかも……

 名前だって、オレは何故か覚えているけど、別のものになっているのが普通だし……」


「…………」


「だから、もしかしたらさっきのパーティーの中に“あの人”の生まれ変わりがいたかも知れない……

 確率はめちゃくちゃ低いだろうけど……

 金貨の山でも爪のカケラでも“あの人”に届く可能性が、ほんのわずかでもあるのなら……」


 山々を染める朝日が目にしみる。

 やけに清々しい気分だ。

 地球の景色もここのように綺麗だったのかもしれないけれど、前世ではそんなの全然気にしてなかった。


「それであなたはご自分の爪を……」


「……自然に伸びたものを切っただけだ……」


「ではあの金貨は……」


「……錬金術で作った……」


「まじで!?」


 日本語に置き換えればたった三文字の、ミルヤのその一言で、神妙な空気が吹き飛んだ。


「まじで作れるの!? 金貨を!? やりかた教えて!!」


 ミルヤがオレの襟首を掴んでガクガクと揺さぶった。

 ちなみにオレの服は鱗を変化させて作ったものなので、変身をくり返しても着たまんまだし、脱皮の要領で脱ぐこともできる。


「ちょっ、よせっ。ただでさえあれは人間の寿命で覚えきれるようなものじゃないのに、もうすぐ死ぬオレに、教えている時間なんて……」


「顔色よくなったし、解毒剤が効いたみたいだから大丈夫よ」


「へ?」


「遺言についてはしっかり書き留めておいたから、いつ使うのかしんないけど、大事に預かっておいてあげるわ」


「え? え? え?」


「それにしても、やっぱ座薬は効果が早いわー」


「えええええええええっ!?」






 まだ少しだけフラつきながらもミルヤの細い腕で支えられてシエルボの村に戻ったオレは、一ヶ月後、オソの村の農民をドラゴンの姿で追いかけ回していた。

 農民が怪我をしないように、めっちゃ気を遣いながら。

 逃げ足の早そうな人を選んで、近くに石造りの教会とかの、逃げた人が隠れられる場所があるタイミングを狙って。



 村人がちゃんと討伐依頼を出したか確認するために、人間に化けて入った酒場兼冒険者ギルドで――


「面倒くさいことしてるわねー」


 ミルヤが待ち構えていた。


「巣はどこ? ウワサではドラゴンは東のほうへ飛んでったってなってるけど?」


「アソの山の火口のちょい下」


「それじゃ真東より北にズレちゃってるわね。見つけてもらえるまで時間がかかりそー」


 言うやいなやミルヤはヒョイと椅子に飛び乗り、酒場全体に響き渡るように大声を張り上げた。


「聴きたまえ、みなの衆! あたしの占いによれば、ドラゴンが住んでいるのはアソの山よ!」


 冒険者たちの反応は様々だったけれど、バカにしつつも闇雲に捜すよりも試しに乗ってみようみたいな声がチラホラと聞こえた。


「ねえ、リューイ。すごいと思わない? ドラゴンの巣の場所を百発百中で当てる占い師」


「え? あ。うん」


 ???


「あたし、決めたの。リューイについてく。そして世界一の占い師として名を馳せてみせるわ!」


「えええ!?」


「嫌がっても無駄よ。これは運命。占いにもそう出ているわ」


「たった今、オレの目の前でインチキの占いをやったばかりでそれを言う!?」


 とりあえずオレは、酒場の店員の目線も気になり、席についてギムネマ茶を注文した。

 ミルヤが飲んでいるのはマンゴージュースのようだ。

 この世界の植生は実に多彩だ。


「リューイの想い人だって、あたしの占いで見つけられなくもないと言えなくもない可能性は皆無だとは言い切れないわ。

 てゆっか実はその想い人の生まれ変わりってあたしだったりして」


「それはない」


 オレは即答で断言した。

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地球にいたのにドラゴンに喰われたので腹いせに転生先のドラゴンを滅ぼします ヤミヲミルメ @yamiwomirume

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