第59話 祝福はきみのために!愛されし子ウーマ!3

 ツッコは逃げ回りながら叫んだ。


「おいおい待て待てこれマジでやべえよ!? あっちもこっちも裂けちまう!?

 ちょ、これ……トワっ!?」


「ツッコ……!」


 互いに手を伸ばす。届かない。

 二人の間を次元の裂け目が走り、引き離していく。

 ドエィムも、シッツージも、ハカリマやカミキレーやツマゴも、みんな裂け目によって区切られ、バラバラに離されていく。


 次元の裂け目が駆けめぐる。世界中に。

 もしも空高くから見ていれば、大陸が分割されるさまが見てとれるだろう。

 それはまるで、ホールケーキが切り分けられるように。


 魔力を真っ赤にほとばしらせながら、ウーマは叫び続けた。


「祝福なぞいらぬ!! 愛なぞいらぬ!!

 パパとママが生きられなかった世界なんて、バラバラになってしまえばいいんじゃァァー!!」


 空間を埋め尽くす裂け目と隕石をかわしながら、ハカリマやカミキレーやツマゴは、ケーキを持って逃げ回る。

 そうしながら叫び返した。


「束ねたのはウーマさん、あなただということをお忘れなのでしょうな!!」


「アタクシやハカリマちゃんはナガーイ族で、ツマゴちゃんやホーンはカラフル族で、ドエィムはツノ族で、マッチョーネちゃんはセクシー族で!!」


「ぼくたちみんな種族はバラバラなんですよねぇ!!

 ウーマさん、あなたがぼくたちを見つけて束ねたんですよねぇ!!」


「黙るのじゃァァー!!」


 轟音。千の隕石。狙いすら定まらず、全方位に爆炎を上げる。

 その破壊の爆風に、元幹部の面々は吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされながらも、それぞれの特技で、ケーキだけは傷つかないよう守りきった。


 そして、その全力攻撃直後のスキ。

 爆炎を桃色オーラで割り裂いて、バカップルがウーマに接近した。


「……アイリ。いける?」


「うん。わたしは、わたしが救える人を救いたい」


 一瞬の、理知の瞳。

 そして次の瞬間には、アイリはその表情をへんにょりとバカなマヌケ面にして、コイチローにすり寄った。


「どどどどうしようコイチロー!? 世界がバラバラのビリビリになっちゃうよ!?

 このままじゃみーんな離れ離れになって、世界に愛がなくなってスッカスカのスポンジケーキみたいになっちゃうよ!?」


「はっはっは、何を心配してるのさアイリ」


 コイチローはケーキのようにアイリをふんわりも抱き寄せ、ケーキのように甘く優しくささやいた。


「だって僕らの愛が大きすぎて、どんなに世界が広がろうと僕らの愛だけで埋まっちゃうんだから」


「コイチローっ♡♡♡ そうだよねっわたしたちの愛は無限大の無限質量の無量大数♡♡♡

 どんなに世界から愛が消えてもわたしたちのラブパワーでいつでも愛の六方最密充填構造だよぉ〜〜♡♡♡」


 とろけるアホ面。

 そしてその表情の下から、こらえきれずににじみ出すように、涙と一緒に、理知の表情が現れた。


「だから。わたしたちの愛で、この世界を、救えるかなぁ?」


 桃色オーラが広がる。傷口から血が染み出すように。

 愛のオーラはどんどん広がり、世界に走る次元の裂け目に寄り添うように広がっていく。

 世界が愛に共鳴していく。大地が愛を求め出す。


「こんな素敵な愛の熱にあてられて、じっとしてられないダイチ……!

 オイラももっと、愛し愛されてハグしてチューしていたいダイチ〜!」


 裂けた大地が、愛の万有引力によって引きつけ合う。

 互いに抱き合うようにしてくっつき、裂け目をつなぎ合わせて元通りになっていく。

 勢い余って、海の向こうの別の大陸まで引き寄せられる。


「おいおいおいおい、えらいことなってるぞ!? 大丈夫かこれ!?」


 ひとりでに動く大地に、ツッコたちは翻弄される。

 足を取られ、大地にはさまれかけ、その体を桃色オーラがふんわり包み込んで無傷で助かった。


「ツッコくん!!」


 空からツッコに声がかかった。

 アイリが叫んでいた。


「わたしね!! この世界に来て、すっごく楽しかった!!

 いろんな国を見て、いろんなバカやって、バカップルやれて、楽しかったの!!

 ありがとうね!! この世界でわたしたちを迎えに来てくれて、この世界を案内してくれて!!

 わたしの世界は!! すっごくすっごく、広くなったよ!!」


 ツッコはその姿を見上げた。

 アイリはそのまま、コイチローと向かい合った。


「コイチロー!! わたしを見つけてくれてありがとう!! バカップルでいてくれてありがとう!!

 コイチローに愛されて、コイチローと一緒にここまで来られて、本当によかったって思ってる!!」


「アイリ……きみは……」


 一瞬、困惑の色を見せたコイチローにそのまま背を向けて、アイリはウーマの方に向き直った。


「ウーマちゃん!! あなたにとってはイヤなことかもしれないけど、わたしたちは、あなたのおかげで今ここにいるの!!

 あなたがわたしたちを助けてくれた!! 心の底からそう思ってる!!

 だからわたしは、たとえ拒絶されたとしても、あなたに言うよ!!

 ありがとう、ウーマちゃん!!」


「黙れ……!」


 赤い魔力が不規則に揺れる。

 ウーマは歯をむくように顔をしかめて、おびえるように拒絶して、次元の裂け目の上を後ずさりするように下がって、叫んだ。


「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れッ!!

 ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなッ!!

 そんなふざけたことがあるかッ、ワシのこの絶望が、誰かの希望になるなどと……!」


 明滅するように不規則にゆらめく魔力を、ウーマはしいて高めて、爆発させた。


「そんなバカなこと、認められるかァァァーーッ!!」


 周囲の次元が裂けに裂け、隕石の奔流が針を通すほどの隙間もないほどの弾幕となり、バカップルをいっせいに襲った。

 アイリは動かない。じっと隕石のカーテンの向こう、ウーマを見続ける。

 アイリのそばに浮遊して、コイチローは空を見上げた。


「愛のオーラが……空に……」


 ツッコも見上げた。

 桃色オーラは空に届く。

 夜空(今は昼間)、その中心に輝く、満月(今日は新月)まで。


「熱い愛のほとばしりを感じるツキ……!

 わらわも熱烈な抱擁をしたいツキ〜!」


「オイラが受け止めるダイチ〜! 来るがいいダイチ〜!」


 月が大きくなる。違う、あれは!


「月が降ってきた〜〜!?」


 月、大地に降り立つ!

 ウーマのはなった隕石の弾幕も豆鉄砲のようにはじき飛ばし、大地と熱い抱擁をかわす!

 その間に、ウーマも巻き込んで!


「なっ!? ちょ、これ無理なのじゃ、防ぎようがないのじゃ、こんな、ちょ、バカな〜〜ッ!?」


 ケタ外れの魔力量を持つウーマですら対応不能!

 特大ダメージが、叩き込まれた!

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