第58話 祝福はきみのために!愛されし子ウーマ!2

 愛のオーラと破壊の隕石が、ぶつかり続ける。

 ウーマは次元の裂け目を踏み渡り、満月(今日は新月)の夜空(今は昼間)をゆく。

 バカップルはイチャイチャを深め、愛の熱量による空気膨張によって空中へと押し出され、空を飛来してウーマを追った。

 ウーマは赤く魔力をほとばしらせながら、歯噛みした。


「しつこいヤツらじゃ……!

 そんなにもワシをどうにかしたいか! おまえらの自己満足のために!」


 アイリが叫び返した。


「自己満足なのかもしれない! それでもわたし、あなたに救われてほしいよ!」


 ぽろぽろと涙をこぼしながら、叫び続けた。


「わたしと一緒に、救われてよ……!!」


 コイチローはアイリを後ろから抱きしめ、ついばむようにキスを繰り返した。

 シリアスとイチャイチャのすさまじい温度差に、空気がきしむ。生じた圧力が推進力になる。

 ロケットのように接近したバカップルを、ウーマはレールのように展開した次元の裂け目でそらし、さらに呼び寄せた隕石で攻撃する。

 飛行機雲のように軌跡に残った桃色オーラが、隕石を取り囲んで愛に目覚めさせ、隕石同士で濃厚なキスをして墜落していった。


 戦いの中で、ふとコイチローは地上を見やった。

 そこで行われている光景を見て、ウーマに告げた。


「ウーマ。さっき僕が尋ねた質問で、答えてないものがあったね」


 ウーマは眉根を寄せた。

 コイチローはふっと笑って、言った。


「きみは何をなすことができたか。

 その答えが、どうやらあそこにありそうだ」


 ウーマは、そしてアイリも、地上を見た。




 地上。城の残骸の上。

 神業測定士ハカリマがまず動く!


「まずは型が必要ですな……! 測定の真髄、見せましょうぞ」


 巻き尺が振るわれ、城の残骸を積み上げて成型していく!

 見上げるほどの大きさに作られた型は、円筒形を何段も重ねたような形!


 続いてカリスマ美容師カミキレー!


「材料は小麦粉……これに美しさを与える!

 パン屋で働いて得たなけなしのお給料、全部注ぎ込むわ!」


 ハサミの音とともに手持ちのお金がすべて消え、その価値が小麦粉に付与される!

 円筒形の型の中でふくらんで焼き上がる!


 そして寿司職人ツマゴ!


「焼き上がったら、型を外しますねぇ」


 魔法の握力により型を『握っ』てはずすと、中から焼きたての円筒形の生地が出てきた!


 さらには純白騎士トワ!


「今日も生クリームを、ドラム缶で持ってきてる……

 本当は自分で食べるつもりだったけど……みんなで食べた方が、きっとうれしい……!」


 美しい剣さばきで生クリームを自在に飛ばし、焼きたての生地に塗ったくってコーティングする!


 最後にデビル幼女ドエィムが!


「あたし、やっぱり、ウマちゃんの誕生日を祝いたいからぁっ……!

 届いてぇ! ウマちゃん! あたしたちの気持ち……!」


 王国兵士ツッコと執事のシッツージが踏み台になり、ドエィムは飛び上がった。

 クリームを塗られた塊の頂点に、ドエィムは自身の巨大ロウソクを突き立てた!


「ハッピーバースデー!! ウマちゃんッ!!」


 ロウソクに火がともる。

 見上げるほどの巨大なバースデーケーキが、完成した!


 空から見下ろすウーマは、複雑に感情を揺り動かした。怒り、驚き、嫌悪。

 それがまとまった形になって発露するより早く、ドエィムが、トワが、叫んだ。


「ウマちゃん!! あたしはウマちゃんに会えてよかった!! 生まれてきてくれてよかったよ!!」


「【神に愛されし者ラヴド】の私が絶望せずに今いられるのは、同じ【神に愛されし者ラヴド】のあなたに会えて、つらさを分かち合えたから……!!

 私は、あなたがいたから、救われた……!!」


 叫ぶ。それは空中のウーマに届く。

 ウーマの中で瞬間的にわき上がるのは、怒りの感情。

 その怒りは空回りして、うまく発露できない。


 その隣、愛のラブラブ浮かれポンチちからで空中浮遊するコイチローは、静かに告げた。


「ウーマ。僕は決して、何かを成した人間が生まれた意味のある人間だとは言わない。何も成せなかった人に価値がないなんてはずがないから。

 けれど今は、あえて言う。きみの意図はいざ知らず、きみの行動が、こうして祝福されるほどに誰かを救うことができたんだ」


 静かに、噛みしめるように、コイチローは断言した。


「きみは、生まれてきてよかったんだ、ウーマ」


 ウーマの感情が、怒りの形をなして発露した。


「……ふざ、けるなッ……!

 ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなッ!!

 会えてよかったなどと!! 生まれてきてよかったなどと!!

 そんなもの、そんなものッ……!!」


 ウーマはひたすらに、わめいた。


「ふざけるなッ……!!

 ふざ……けるなァーーッ!!」


 爆発的。魔力がほとばしる。

 赤く光る魔力が、次元の裂け目が、広がる、伸びる、伸びゆく。


「やべえやべえやべえ……!」


 ツッコら地上の面々は、それぞれに広がる裂け目から身をかわす。

 空間は裂ける。引き裂かれるようなウーマの心の叫びのように、裂け目は伸びる。遠く。地平線の向こうまで、裂け広がっていく。大地がきしむほどに!


 ウーマは叫ぶ!


「ワシは! ワシは!! 祝福などいらぬ!!

 ただずっと、パパとママといたかった、それだけなのじゃァァァーー!!」


 魔力が押し広げられてゆく。大陸じゅうに。


 大陸が……割れた!

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