第57話 祝福はきみのために!愛されし子ウーマ!1
攻撃が、とめどなく広がった。
輝く月と星空(今は昼間)の下。
ウーマは次元の裂け目を展開する。折り重ねる。二重三重四重と。
バカップルは迎え撃つ。愛の力を高める。
「ちゅっちゅちゅっちゅ」
「はぁんコイチロ〜♡♡♡」
アイリの理知と決意に満ちた顔つきは一気にラブバカへんにょりフェイスに変わり、その急激な温度差で空気に断裂層ができた。
飛びきたる隕石を空気の層が拒絶し、大気圧で粉砕させ、さらに飛びきたる隕石への防御膜として機能。さらに愛の熱量による上昇気流が、空に立つウーマへと隕石を押し返した。
ウーマは追撃する。折り重ねた次元の裂け目から間断なく隕石をはなち、返ってきた隕石を砕くのみならずさらに押し下げてすべての質量を攻撃とした。
攻撃が、エネルギーが、炸裂し続ける。
その超パワーのバトルの下で、ツッコとトワは逃げまどった。
「うおおおやべえやべえ逃げるしかねぇ!? 相手は空だしちょっと割り込める状況じゃねぇよ!?」
隕石と桃色オーラが、がんがん降り注ぐ。
城はボコボコに叩き壊されて、どんどん残骸へと成り果てていく。
「くっ……なんかめちゃくちゃ強そうなオーラ『ツエインヘリヤル』!」
「ヒィィィこんな怖そうな人の足をわずらわせて申し訳ないオシロノザンガイ〜!」
トワのオーラにより、でこぼこしていた残骸が歩きやすく平らにならされた。
ツッコはドエィムをかかえている。そのドエィムは、青い顔をして放心状態でつぶやいた。
「あたし……知らなかった……知らなくて、ウマちゃん、傷つけた……どうしよう……」
ふるえるドエィムを、ツッコは持ち上げて顔を突き合わせて怒鳴った。
「知らなかったもんを後悔して立ち止まってんじゃねぇ!!
てめーはウーマを祝いたかったんだろ!! 喜ばせたかったんだろ!!
だったらこれからどうすりゃいいか、どうすりゃウーマに笑ってもらえるか、それだけ全力で考えて前に進め!!」
飛来してきた流れ隕石を、トワが切り払った。
トワにかかえられた執事のシッツージが、ぐじぐじと泣き腫らして声を漏らした。
「ドエィムさんに祝ってもらえたら、ウーマお嬢様も嫌いになってしまった自分の誕生日をまた好きになれるかもと思ったのでシッツージ……!
こんな最悪のめぐり合わせにしてしまったのは、ドエィムさんに誕生日を教えたわたくしめの浅慮でシッツージ……!」
「シッツージ、黙って……」
さらに迫る隕石を叩き割って、トワは低く言った。
「これを最悪のめぐり合わせだなんて、言わせない……終わらせない……」
その目に涙を光らせて、空のウーマを見上げた。
「私も……あの子の……ウーマの誕生日を……生まれてきて、めぐり会えたことを、祝福したい……!」
次元の裂け目。隕石。
あふれる桃色オーラと激しくぶつかって、なお砕ききれずに流れ弾がどんどん飛んでくる。
逃げ場もないほどに、絶望的に。
そこに割り込む、声。
「――また楽しい測定を、したいものですな」
白く細い、帯状の物体。巻き尺。
それらが宙をかけめぐり、迫りくる隕石に巻きついて、測定して、そのまま粉砕した。
ツッコは驚愕した。
隕石を砕いた者。ツッコらに背を向けて堂々と立つ、全裸の全身に巻き尺を巻きつけたその姿。
「おまえはっ、防衛都市ツキガキレーで戦った!
暗黒幹部の一人、神業測定士ハカリマ・クルゾ!!」
「久しいですな、あのときの王国兵士、そしてかつての同志たち」
全裸巻き尺こと神業測定士ハカリマは、口ひげをたくわえた彫りの深い顔で振り向いて、にやりとダンディに笑ってみせた。
隕石がさらに来る。
そして響く、声。
「――お金より価値のあるものを、今度こそ守りたいわね」
澄み渡るように響く、ハサミを閉じる音。
隕石は切り絵のごとく繊細な飾り模様がほどこされ、繊細さゆえに空気抵抗に負けて空中分解した。
トワはその背中をぼうぜんと見た。
手足は粗末な義手と義足に置き換わり、美しかった金髪はボロボロで、何か重そうな袋を肩にかけて、まっすぐと立つ、その姿は。
「カリスマ美容師、カミキレー・ドーゼンノカチ……」
「別にアタクシは、あなたたちを助けたくて助けたわけじゃないわよ」
カリスマ美容師カミキレーは振り向いて、ぼろぼろの跡がついた顔面を、すねたような冷ややかな表情にしてみせた。
そしてひょっこりもう一人。
「ぼくもお寿司の材料をそろえて来ましたよぉ」
「寿司職人ツマゴ!?」
ツッコは戸惑った。
「なんで、おまえらここに!? しかも俺らを守って……何するつもりなんだ!?」
「ドエィムに呼ばれたのよ」
カミキレーは答えて、ドエィムにむすりとした顔を向けた。
「パーティーをするからって。みんなでお祝いをしようってね。
こんな状況になるなんて、思ってもみなかったわ」
神業測定士ハカリマは、空のウーマを見上げた。
「事情は把握しております。測定の力を使って、そこらの残骸にレコードのように残ったこの場の音の記録を読み取りましたからな。
……ウーマシーカーさん。少しでも事情を教えてくれていればよかったものを」
ハカリマが神妙な顔をするのを、ツッコは見やった。
カミキレーは不服そうに鼻を鳴らした。
「だだをこねる子供の事情になんか付き合ってられないわ。
アタクシたちは誕生日パーティーに呼ばれたの。祝うとなったら祝うだけよ。
そうでしょう、ドエィム?」
カミキレーに水を向けられて、ドエィムは胸が詰まるように縮こまった。
「あたし、でもぉ……お祝いしようとして、ウマちゃんのこと、傷つけちゃって……
ケーキも潰されちゃってぇ、でもそれは、ウマちゃんのこと、知らなかったから……」
「今さら何言ってんのよ」
カミキレーはあきれたように、そして自嘲するように言った。
「アタクシら自由恋愛禁止軍団が、今まで相手の事情を考えて活動してたとでも思ってるの?
勝手にこっちの思想を押しつけてたんでしょ、ウーマの主導でね」
「道理ですな」
ハカリマはうなずき、ツマゴも柔和に微笑み続けた。
「ウーマさんの流儀にのっとって、ウーマさん自身にこちらのエゴを押しつけたところで、何も文句は言えないですねぇ」
「そういうこと」
どさりと、カミキレーは肩にかけていた袋を下ろした。
中身は、小麦粉。
「せっかく作り方を覚えたし焼きたてパンでも振る舞おうかと思ってたけど、予定変更よ」
カミキレーは、ハカリマは、ツマゴは、激しく戦うウーマの姿を見上げた。
「思いっきり祝ってやろうじゃない、アタクシたちの自分勝手にね」
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