第53話 愛と祝福と絶望と!暗黒の帝王ウーマシーカー!3

 次元の裂け目が次々と生じ、空間が断裂する。

 もはや部屋とは呼べなくなったこの場所に、ツッコとトワも飛び込んできた。


「コイチロー! どうなった!? メチャクチャだけど何が起きてる!?」


「イチゴのおかわりを所望してるよ。どうやらご機嫌が悪いみたいだ」


 執事のシッツージは、トワにしがみついたまま。

 ウーマシーカーは魔力をほとばしらせる。


「悲しみこごえて災禍さいかとなせ。罪をてんじて不遇となせ」


 鳴動。コイチローは周囲を見渡した。

 次元の裂け目が、まぶたを開くように次々と広がる。幾十。幾百。

 その奥から、高エネルギーの塊が接近してくる。

 トワが警告した。


「ウーマシーカーの魔力は、私より強い……

 この攻撃は、私の『ツエインヘリヤル』で、おびえさせられない……!」


 ウーマシーカーは、ささやくように唱える。


「愛などいらぬ。祝福などいらぬ。

 ただ生まれてきたことを、後悔するがいいのじゃ」


 瞳から赤い魔力の閃光がはじけ。

 指揮するように、指を打ち振った。


「降り注げ隕石よ! 絶望の具現『ギャラクティックホルン』!!」


 幾百の次元の裂け目から、幾百の隕石が降り注いだ。

 一点を目がける。コイチローとアイリ。

 ひとつひとつが致死の高エネルギー体。逃げ場なし。絶体絶命。


 そしてコイチローは、笑ってみせた。


「一手、遅かったね」


 ウーマシーカーは、そしてツッコは見た。

 アイリ。その全身に浮かび上がる。幾十。幾百。

 それはキスマーク。


「さっきの水素爆発のうちに、仕込んでおいたよ。

 とびっきりの僕の愛をね」


 アイリの体温が上昇する。それは迫る致死的攻撃への緊張感と、さっきから絶え間なく続いているコイチローのピアニストのように繊細な触れるか触れないかのフェザータッチ全身なでなで。

 愛と生存本能の高まりが、アイリの体温を急上昇させ肌に残したキスマークをくっきりと浮かび上がらせた。


「コイチローへの愛のドキドキが高まりすぎて……わたし、おかしくなっちゃうぅ〜♡♡♡」


「アイリがおかしくねーことの方が珍しくねーか?」


 キスマークが紅潮する。皮膚の赤みの範疇はんちゅうに収まらないほどに。

 赤熱する。発光する!


「さあ、愛の噛み跡を残そうか」


 隕石が迫る。

 その中の一瞬、地に立つコイチローと空中に立つウーマシーカーの視線がかち合った。

 バカップルのアホ毛が組み合わさってハートマークになり、コイチローは唱えた。


「食らえ必殺ラブラブ奥義! バカップル☆プロミネンス!!」


「ぬぅッ――!!」


 アイリの全身のキスマークひとつひとつが高密度桃色オーラを放射し、幾百ものキスマーク型レーザービームとなって周囲に放散した。

 それは迫る隕石のすべてを漏らさず撃ち抜き撃墜し、なお余剰のビーム放射がウーマシーカーをも襲った。


「くうッ……!」


「ウマちゃん……!」


 その間ずっとアイリに抱きしめられていたドエィムが声を上げた。

 ウーマシーカーは地上に落下し、かろうじて受け身を取った。

 ラブバカビームに焼き切られ、かぶっていたずきんが、はらりと落ちた。


「……!」


 ドエィムは息を呑んだ。

 ツッコも、トワも、そこに見えたものに一瞬思考が止まった。

 執事のシッツージはトワにしがみついたまま、くやし泣きをするような表情でうつむいた。


「……見たな」


 ウーマシーカーは面々を見返して、手で側頭部を押さえた。

 ずきんの取れた頭。赤い一本角。ウェーブがかった銀髪。そして、とがった耳。


 ツッコがまず声を上げた。


「え、あれ!? あの耳、ミミ族か!?

 でも角はどう見てもツノ族の特徴……あれ!?」


 コイチローが考えるように眉根を寄せて、言った。


「……ハーフか?」


 ウーマシーカーは立ち上がり、冷めた目を面々に向けて、答えた。


「見られてしまった以上、隠し立てする意味もないのう。

 ……そうじゃ。ワシは父がツノ族、母がミミ族」


 ただ冷めた目をして、ウーマシーカーは語った。


「種族間の敵対を越え、自由恋愛によって生まれたのが、このワシ……ウーマという人間じゃ」


――――――


・ラブバカ豆知識


第19話などでも触れたが、ツノ族とミミ族は戦争時代、敵対していた種族の代表格であった。

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