第52話 愛と祝福と絶望と!暗黒の帝王ウーマシーカー!2

 アトラクションを(力技で)乗り越え、城の上階へ! 奥へ!


「あとちょっとですよぅ、もう少しでウマちゃんのいる部屋へ……っ!」


「部屋への扉に立ちふさがる……あれは……」


 両手を広げて足を踏みしめる男性。

 彼はふるえながら声を張った。


「わたくしめは執事のシッツージ! ここは通しませんシッツージ!

 誰にもウーマシーカー様を傷つけさせたりはウギャーッ!?」


 一撃撃破!


「ごめんなさぁいシッツージさんん……! でもあたし、ウマちゃんに会いたいんですぅ……!」


「いろいろお世話になった恩はある……でもそれはそれとして、私たちはウーマシーカーと決着をつけなければ……うっ!?」


 ボロボロになったシッツージが、トワの体にしがみついてきた。


「行かせはしませんシッツージ……! 絶対に……!」


「おいてめー!? トワにくっついてんじゃねー!?」


「ドエィム、アイリ、コイチロー……申し訳ないけど、先に行ってて……」


「仕方ないね。気をつけて!」


 三名が先行して扉をくぐる。

 トワとツッコはしがみつくシッツージを引きはがそうとする。


「シッツージ、離してほしい……あなたにも恩はあるから、傷つけたくはない……」


「……なんで……!」


 しがみつきながら、シッツージはぼろぼろと涙を流した。


「なんで、今日なんですかシッツージ……! よりによって、今日……!

 いえ、ドエィムさんには教えたんでしたねシッツージ……でも今は……自由恋愛禁止軍団を抜けた今では、ドエィムさんが会いに行くのは、逆効果でシッツージ……!」


 シッツージの言葉を聞いて、トワとツッコは、顔を見合わせた。




   ◆




 風雲・自由恋愛禁止城の最上階、最奥。大広間。

 暗黒の帝王ウーマシーカーは、部屋の奥で窓によりかかり、空をながめていた。

 空は晴れている。ウーマシーカーの心は、晴れない。


「ウマちゃん……!」


 声をかけられて、ウーマシーカーは振り向いた。

 部屋の反対側。入口。そこから入ってきた、三人の人間。

 バカップルのコイチローとアイリ、その二人より前に出る、デビル幼女ドエィム。


「……よくおめおめと戻ってきたものじゃのう、


 ウーマシーカーのその冷え冷えとした声に、ドエィムは一瞬たじろいだ。

 けれど気を取り直して、ひとつの箱をかかえて、さらに一歩進んだ。


「あ、あのねぇウマちゃん。勝手に軍団を抜けて、ごめんねぇ。

 でもね、でもねぇ、あたし、ミミ族の街で頑張って、それでね、アイドルとしてデビューしたんだよぅ……!

 ミミ族の人たちとも仲良くなって、ツノ族のあたしでも、受け入れてくれてぇ……!

 ゴミクズだと思ってた人たちが、本当はそうじゃなくて、それで、もっともっと、みんな仲良くなれそうだって、思ってねぇ……!」


 どもりながらもしっかりと顔を上げて話すドエィムを、ウーマシーカーは冷めた目で見る。

 ドエィムはそして、部屋を横切っていって、近寄った。


「それでねぇ、ウマちゃん。勝手なんだけどねぇ、前にシッツージさんから、聞いたから。

 今日だって、聞いたから、だからあたし、戻ってきて、それでねぇ」


 持ってきた箱を、開ける。差し出す。

 ホールケーキだった。イチゴの乗った。


「ハッピーバースデー、ウマちゃん。

 一緒に、お祝い――」


 ケーキが、叩き落とされた。


 後ろで見守っていたコイチローとアイリが、緊迫して駆け寄った。

 尻もちをついたドエィムは、状況を飲み込めないという顔をして、ぼうぜんと見上げた。

 ウーマシーカーはただ、冷たい視線でドエィムを見下ろしていた。

 その足は、落ちたケーキを踏みつけていた。


「あ、う……ウマちゃん……?」


 呼びかけても、ウーマシーカーは返事をしない。

 何か言おうとして口をぱくぱくさせるドエィムを、駆け寄ってきたアイリがさっと抱き寄せて、コイチローが前に割り込んだ。


「初めまして、ウーマシーカーさん。

 イチゴは嫌いだったかな? ショートケーキじゃなくてチーズケーキとかの方がよかった?」


 にっこりと、コイチローは笑いかける。

 ウーマシーカーは冷たい表情のまま、小さな体躯を見上げさせてコイチローと視線を合わせた。


「救世主か。神のお告げに呼び寄せられて、自由恋愛を守る救世主たらんとする」


 その目が、嫌悪を浮かべるように細められた。


「まこと、くだらんものじゃ」


 コイチローは笑顔を保ったまま、ゆったりと目を細めた。


「そっか。けっこう頑張ったんだけどな。

 おかげでいろんな人が仲良くなったし、きみが従えてた幹部たちも、どんどん新しい生き方を見つけたりしてるんだけど」


 そしてコイチローは、笑うように尋ねた。


「それできみは、何をなすことができたのかな?」


 ぴしりと、空気が割れるような感触がした。

 魔力だった。

 ウーマシーカーの強大な魔力が、一気にふくれ上がる予兆だった。

 瞬間、コイチローはアイリを、ドエィムごと抱きしめた。


 裂ける。

 空間が、部屋の、城の壁や天井を巻き込んで、断裂する。

 次元の裂け目が無数に現れて、空間そのものとそこに存在するすべてを破壊しつくさんと切り刻んだ。


 コイチロー。アイリを抱き寄せる。

 ハグ。キス。なでる。ささやく。愛を高めるあらゆる動作の、その洗練された所作のすべては一秒にも満たず完了した。

 次元をゆがめる神速イチャイチャにアイリの恋愛エンジンはオーバーヒートし、急上昇した体温が噴き出させた汗は恋のスパークにより電気分解し、生じた水素は恋の炎に着火して爆発した。


 水素爆発。


 爆発エネルギーが次元破断のエネルギーと相殺し、バカップルとドエィムは破壊から守られた。

 爆煙が晴れる。天井が吹っ飛んだ頭上に、真昼の青空が広がる。

 その風景の中で暗黒の帝王ウーマシーカーは、次元の裂け目を足場にして、黒いシミのように黒装束の体を空中に置いていた。

 黒いずきんから突き出る赤い一本角が、鮮やかに存在感を主張する。


「質問に答えるが、イチゴは好きじゃ。

 つぶして食べるのがうまいのう」


 赤く光る目で、ウーマシーカーはバカップルたちを見下ろした。


「おまえらのツラは、イチゴに似ておる」


――――――


・ラブバカ豆知識


昔はイチゴに砂糖や牛乳をかけ、つぶして味をなじませて食べたものである。

最近のイチゴは甘いから、その食べ方をする機会も減ったよね。

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