第50話 握れ種族の壁を超えて!寿司職人ツマゴ!7

 月のない夜に、静けさが戻った。

 その中で星明かりに照らされて、バカップルは寿司を食べる。


「おや、こんなところにもお寿司があるね。

 みずみずしくてふんわりとしていて、これはなんのお寿司だろう? ぱくり」


「やぁんコイチロー♡ それはわたしのほっぺただよぉ〜♡」


 理知の光はとうになく、セレブ仕込みのテーブルマナーもほっぽり出して、アイリはコイチローとイチャイチャしながら寿司を食べた。

 垂れ流しの桃色オーラは村に広がって、壊れた建物や道が愛のときめきにより接合して、きれいに直っていった。


 そして寿司職人ツマゴと、ダイコン人間改めタクアン人間のダイコ。

 二人はツッコとトワに頭を下げた。


「ぼくも自由恋愛禁止軍団を抜けて、やり直そうと思います。トワさんたちもお達者で。

 機会があれば、またお寿司をごちそうしますよ」


「ツマゴ……道こそたがえたけど、仲間として過ごせた時間は、私にとって大切なものだった……

 間違った行為だったとしても……私は、自由恋愛禁止軍団で得た縁は、大事にしたいと思ってる……」


「なんかいい話っぽくまとめようとしてるけど、いいのか? そんな感じの戦いだったか?」


 寿司職人ツマゴはそれから、バカップルの方に向き合った。


「異世界からの救世主さん。ウーマシーカーさんのいる風雲・自由恋愛禁止城はですねぇ、もう目前です。

 ぼくもウーマシーカーさんの事情は知らないんですけども、お手柔らかにお願いできますか」


 コイチローはツマゴを見返して、けろりと言った。


「まあ、相手の出方次第かな。

 正直まだ面識もないし、軍団の行動はともかくとして、個人としては怒るも許すもないからね」


 そしてコイチローは酢飯味の指をなめ、ついでにアイリのほっぺをなめて(アイリの声「やぁん♡」)、西の山を見た。


「ここを越えたら、もう本拠地なんだよね。

 すぐに攻め込むか、連戦になるからもう少し体を休めてからにするか――」


 考えようとしたところに、声。


「――お、追いつきましたですよぅ! 救世主さぁん!」


 バカップルたちはその声の方を見た。

 息を切らせて駆け寄ってくる、幼女。

 アイドルのようなフリフリの衣装には見覚えはない。

 けれどツノ族の証である二本角、そして背中にしょった大きな赤いロウソクは。

 以前ミミ族の雲樹都市うんじゅとしで戦った。


「きみは確か、デビル幼女のドエィム・ニシチャール?」


 コイチローたちの前で、デビル幼女ドエィムははぁはぁと息をついた。

 その息が整う間もなく、ドエィムは懇願した。


「お願いですぅ……! あたしも一緒に、連れてって、それで明日じゅうに、ウマちゃんのところに行ってくださぁい……!

 明日じゃないと、ダメなんですぅ……!」


 コイチローは、ドエィムを観察した。

 荷物。箱がひとつ。軽くかかえる程度の大きさ。

 中身はあまり、重くはなさそうだ。




   ◆




 同時刻。風雲・自由恋愛禁止城。暗黒の帝王ウーマシーカーの自室。


 執事のシッツージは絵本を閉じて、ベッドに目をやった。

 ウーマシーカー。眠りについている。

 今日は寝つくまで、時間がかかった。


「無理もないでシッツージ……

 態度には出さないようにしてるのでしょうが、明日が来るのがゆううつなのでしょうシッツージ……」


 寝つくウーマシーカーの頭を、シッツージはながめた。

 黒いずきんは今も、かぶりっぱなし。

 赤い一本角だけが、ずきんを貫通して外から見える唯一の部位。


「……ゆっくりお眠りください、ウーマお嬢様。

 シッツージはずっと、ウーマお嬢様をお守りしまシッツージ」


 シッツージはそして立ち上がり、そっとドアを開けて退室した。


 廊下を歩きながら、シッツージは窓に目を向ける。

 月のない夜空を見上げて、シッツージはつぶやいた。


「ドエィムさんは、今どうしているでシッツージ……

 彼女と仲良くなってから、ウーマお嬢様も明るさを取り戻したと思っていたのにシッツージ……」


 夜は、ふけていく。

 日付が、変わる。


――――――


・ラブバカ豆知識


ロマネスコは、ブロッコリーやカリフラワーの仲間の野菜。

フラクタル形状と呼ばれる幾何学模様を描く外観は、非生物的で数学的な美しさを持つ。画像検索されたし。

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