第39話 愛は力の差を超えて!暗黒騎士ホーン!2

 上半身の服は早々に脱げて逃げ出してしまい、ツッコはズボンだけは必死に押さえて死守した。

 暗黒騎士ホーンは淡々と喋った。


「あきらめた方が身のため……文字通り、見ぐるみはがされて恥をかくことになる……」


「そう言われて引き下がれるかよ……!

 素っ裸になろうが、俺はあんたの前をどいてやらねぇ……!」


「そういうことでしたら、わたくしは逃げさせていただきますねズボン〜!」


「逃げんじゃねぇてめーは逃げんじゃねぇちゃんと隠すモンは隠さねーとダメだろーが!!」ぐぎぎ


 ズボンと格闘するツッコを前に、ホーンは特に動いたりしない。


「そこまで立ちはだかりたいのなら、勝手にすればいい……どちらにしろ、周りがそういう状況にさせてくれない……」


「あん?」


 ツッコの足元の石畳が、ガタガタと鳴り出した。


「こここここんな怖い相手にすぐ踏まれるような位置にいたくないイシダタミ〜!

 まことに勝手ながら逃げさせてもらうイシダタミ〜!」


「踏まれてなんぼの存在がビビってんじゃねぇーー!?」


 石畳がツッコを乗せたままズルズルと動き、ホーンから距離をとってゆく。

 ホーンは見送る構え。


「そうはいくかよ!!」


「む……」


 ツッコはズボンを手に持って振り回した。

 投げ縄のようにホーンに引っかかり、ホーンはもろとも引きずられた。


「ヒィィィ怖い人もついてくるイシダタミ〜! 全速力で逃げるイシダタミ〜!」


 にんじんをぶら下げられた馬のごとく、石畳は猛スピードで駆けてゆく。

 街を突っ切り、巨大ロボの戦いを横目に、ツッコ(パンツ一丁)とホーンは西の郊外へ。


「無駄なあがき……」


「そうかよ! こうしてバカップルから引き離されて、それも無駄かよ!」


 街の外、レンガと歯車の街並みを抜けて、針葉樹林の山地へ。

 ホーンは強そうなオーラを発し続ける。


「ヒィィィなんでこんな場所にこんな強そうな人が来るシンヨウジュ〜!

 ブルブルふるえて葉っぱが落ちちゃうシンヨウジュ〜!」


 針葉樹林が一瞬で落葉し、はげ山に。

 枯れた山の中で、ツッコ(パンツ一丁)はホーンと対峙した。


「はっはァ! だいぶ距離が離れたぜ!

 これでだいぶ時間稼ぎができて、バカップルがあんたとカリスマ美容師の両方を一度に相手しなくてもよくなりそうだな!」


「この程度で、時間稼ぎなど……」


「足りねえか? ならもっと粘るだけだぜ。

 覚悟しなよホーンさんよォ、俺はまだまだ……」


 言いかけたツッコの周囲を、剣撃が舞った。

 五……十……二十連撃。

 言いかけた言葉ごと、ツッコは息をのんだ。

 あまりに素早い剣閃だった。

 パンツしかはいていないツッコの素肌に、二十の切り傷が、赤く浅く、走った。


「……今のであなたは、二十回死んだ」


 淡々と告げたホーンに、ツッコは牙をむくように口角を上げてみせた。


「死んでねえが?」


 バチリと、視線が火花を散らすようだった。

 荒涼とした背景の中で、ホーンの漆黒の兜が、ツッコをまっすぐに見すえた。


「……なら、これから本当に殺す」


 剣が突き出された。

 ツッコはかわした。

 顔を狙った突きはひたいからこめかみをかすめ、わずかに血と若草色の髪をちぎり飛ばすにとどまった。

 ホーンの突き出された手に、わずかに動揺するようなふるえがあった。

 ツッコは笑った。


「あーあ。簡単にかわせたぜ。なんでか分かんねーけど、どう攻撃するかすげえ分かりやすかった」


 ツッコの口は笑っていた。

 目からは涙があふれていた。

 牙をむくように、いっそ悲壮に、ツッコは強く、笑い叫んだ。


「なんでだろうなあ!! あんたの剣筋、すげー分かりやすいんだよなあ!!

 どっかで見たことあったっけか!? どっかで会ったことあったっけか!?

 なぁ、暗黒騎士のホーン・トワ・イ・イヒトさんよォ!!」


 暗黒騎士ホーンは、立ち止まったまま黙して何も言わない。

 ツッコの視界に、幼なじみの姿が――純白騎士トワ・イ・ライトの姿が、ずっとちらついていた。


――――――


・ラブバカ豆知識


ホーンのオーラにおびえて逃げ出したツッコの槍は、その逃亡先で素敵なデザインの剣と出会い恋に落ちるが、それはまた別の話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る