第34話 愛は金より重いのか!?カリスマ美容師カミキレー!8

「まだ……まだァ!」


 赤熱するレンガマグマに照らされて、カリスマ美容師カミキレーはプラズマ発光し飛翔する。

 すでに右手以外の機械化四肢は魔法行使のコストとして溶け落ち、さらにはサラサラの金髪も、美しい整形カリスマフェイスも、グズグズに崩れだした。


 コイチローは向かい合う。

 アイリを抱いて桃色オーラを噴出させ、マグマの赤光しゃっこうにも負けない愛の輝きで灼熱のバトルフィールドを駆けめぐる。

 音速を超えた愛とカリスマがソニックブームを巻き起こし、マグマが跳ね散る。

 渾然一体こんぜんいったい。レンガと歯車のつぎはぎだった街並みが、溶けて継ぎ目がなくなってひとつになる。


「カミキレー。きみにもゆずれないものがあるんだね。負けたくない理由があるんだね」


 強く、バカップルは抱き合い、真摯しんしな目でカリスマ美容師を見すえた。


「だからこそ、もう終わりにしよう。

 きみのすべてがすり減る前に、僕たちはきみを倒す」


 超音速の激突!

 愛の桃色とカリスマのプラズマが、ロープの間を行きかいながら空中を幾度と激突し衝撃波を散らし、マグマが水しぶきのごとく舞い上がる。


「アタクシは負けない! 負けない! 負け……うぐぅッ!?」


 カミキレーの体が突如、空中で静止した。

 何かが体にからんでいる。ロープ? 違う、目で見てきちんとよけていた。

 それは細く、透明な。


「ガラス!? ガラスの糸が、アタクシにからみついている!?」


 それは舞い上がったマグマが愛のオーラで精製され、空中で冷やされ形成された、糸状のガラスであった。

 継ぎ目も何もない、純粋で透明な輝き。

 それがカミキレーの動きを、完全に奪っていた。


「カミキレーっ!!」


 呼びかけられ、カミキレーは見た。

 薄曇りの空を背景に、空中浮遊するバカップル。違う。ガラスの糸に着地している。

 透明なガラスの糸が張りめぐらされ、きらきらと愛とマグマの光を反射する。赤く。

 赤い糸。


「これで、終わりにしよう」


 輝く。クモの巣のごときガラスの糸の群れ。空中で精製マグマが冷え固まり、雪のように舞い落ちるガラス片。

 愛の精製ガラス片が、この空間を万華鏡のように彩っていた。

 眼前を降るガラス片に反射して、カミキレーは自分の顔を目視した。

 グズグズに崩れた顔。


(あ……)


 その顔が、遠い記憶とつながった。


(ママ……)


 バカップルは抱き合った。

 アホ毛をハートマークにして、高まる愛の桃色がマグマの輝きと共鳴し、ガラスの繊維内を駆け抜けた。


「つどえ、愛の輝きと熱量よ」


 幾百、幾千ものガラス繊維が光ファイバーのように熱量を集め、カミキレーに向けて集積し、放射した。


「食らえ必殺ラブラブ奥義! バカップル☆バーニングフラーッシュ!!」


「ぎゃあああアアァァーーッ!!」


 灼熱の光線のシャワーが降りそそぎ、カミキレーはその熱量に爆炎を上げて吹っ飛んだ!

 煙の残像を引きながらガラス片の空間を突き抜け、飛び去って星になり、軌跡は余分な熱量によって上昇気流を巻き起こし、雲を刺激して雨を降らせた。

 マグマと化した街は冷やされ、ガラス状に継ぎ目なく固まって、きらきらとした前衛的で芸術的な街並みになって平穏を取り戻した。


 愛は、勝ったのだ……!


「ねぇねぇコイチロー、これ勝ったって言っちゃっていいの!?

 わたしたちの愛の力で、街の景色が今までと全然違うふうになっちゃったよ!?」


「はっはっは、問題ないじゃないかアイリ」


 コイチローはアイリのほおをなでて、ささやいた。


「この街は愛を知って、生まれ変わったんだ。

 愛を知って美しくなるのは、人間だって、きみや僕だってそうだろう、アイリ?」


「コイチローっ♡♡♡ そうだよねっ愛を知ったらきれいになるのは自然の摂理!

 この街がこんなにキラキラに生まれ変わるのも、愛を知ったんだから当然だよねっ♡♡♡」


 二人の愛の桃色オーラを受けて、ガラスの街並みは輝く。

 きらきらと。桃色に。


「……ところでアイリ、しばらくツッコの声を聞いてないね。

 住民の避難をしてくれたと思うんだけど、今どこに……っ!?」


「どうしたのコイチロー……え? えっ……えっ!?」


 二人は西を見た。

 ツッコの説明によれば、街の西には山脈がある。ゴンドラに乗ったときにもちらりと見えた。

 そして今、街並みは透き通ったガラスになり、遠くの景色も見渡せる。


 街の、西。

 山脈が、ない。

 空気の抜けた風船のように平らな土地が、べったりと広がっていた。

 山だった痕跡が見てとれる。もともと山があったものが、そのままぺしゃりとつぶれたような、そんな風景に見えた。


「いったい……何が……」


 コイチローは感じた。

 戦いが終わり強者が去って、だからまぎれることなく伝わってくる、さらなる強者の気配。

 感じた者を無条件にひれ伏させるような畏怖を与える魔力が、空気に満ちていた。


「何と、戦ってるんだ……ツッコ……!!」


 コイチローはガラスの糸を跳び渡り、西へ急いだ。

 強大なる魔力の奔流ほんりゅう、それにあらがい食らいつくように、その出どころのすぐそばにツッコの気配を感じた。


――――――


・ラブバカ豆知識


以降この街は、レンガと歯車の街ではなく、ガラスの街として観光地化されていく。

観光業による収入はこれまでの十倍以上にふくれ上がり、もともとの機械技術もあいまってどんどんと発展していく。

愛の力が、経済をも制したのだ!

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