第33話 愛は金より重いのか!?カリスマ美容師カミキレー!7

 街中で戦いを見上げていた自警団(カリスマ美容師顔)は絶叫した。


「ギャーーッ我々の街が火の手に包まれるジケイダンーー!?」


 愛の熱量により機械油が燃え広がり、レンガと歯車の鉄錆色の街並みに、張りめぐらされたロープに、炎が広がる。

 カミキレーのカリスマロボはなおも駆動。


『炎のひとつやふたつで、この巨大ロボが止まるかカリスマー!!』


 ハサミを鳴らす。金を消化する。

 流麗なるカリスマロボの駆動が火の粉を蹴散らし、バカップルへの攻め手を緩めない!


「止めてみせるさ! 愛の力で!」


 火の輪くぐりをするように燃えるロープの間を飛びかい、バカップルはアクロバティックにイチャイチャする!

 炎の照り返し、流れる汗、セクシーに浮かび上がるコイチローのシルエットにアイリの興奮は止まらない!


「ハァハァハァハァ愛の炎がメラメラギラギラバーニング〜♡♡♡」


 爆炎! 爆発!

 愛の炎(物理)が止まらない!


『何が愛の力よカリスマ! そんなもの! 金の力で! 全部ねじ伏せて! ねじ伏せ……あ?』


 ハサミを鳴らすカミキレーはいぶかしんだ。

 ロボの動きが美しくない。美しさを付与できていない。魔法行使のコストである、金がない!?


『そんな!? アタクシがカリスマ美容師ぢからでカリスマかせいだカリスママネーはいったいどこに!? ハッ!?』


 カミキレーは気づいた。街全体を覆う炎。カリスマロボにもまとわりつく炎。

 金が! 燃えている!


「見たかカミキレー! これが愛の力! お金に完全勝利する愛の力さ!!」


『いやただの物理的単純火力〜!?』


 金が燃える。ロボがにぶる。

 すべて燃える。街も。


「ねぇねぇコイチロー!? このままだとカリスマ美容師さんに勝てても、わたしたちも焼け死んじゃうよ!?

 急いで炎の激しいところから逃げ出さないと!」


「はっはっは、逃げるってどこへだい、アイリ?」


 炎の照り返しの中で、コイチローはアイリをやさしくなでて、ささやいた。


「だってこの場で一番熱いのは、恋に燃える僕たちの心、そのものじゃないか」


「コイチローっ♡♡♡ そうだよねっわたしたちが情熱の中心! 焦熱の爆心地!

 マントルだって目じゃないくらい、世界で一番アッツアツの愛の炎は一兆度!

 逃げも隠れもしようがない、この心こそこの世で一番いっちばん熱い場所なんだから!」


「そうさアイリ! だって僕たちは!」


 びしり。ロープの反動で飛び上がったバカップル、そのアホ毛がハートマークを形作る。


「「バカップルだから!!」」


 ばばーん。二人の愛の桃色オーラが、ハートの形に広がる。

 それはレンズのように周囲の炎の光と熱を集積し、屈曲し、ビームのように一か所に向けて照射した。

 カリスマロボへ。


『あちゃちゃちゃちゃちゃちゃカリスマーー!?』


 カリスマロボは、溶けた。

 レンガと歯車が赤熱し、発光し、溶解した。

 その操縦席で、カミキレーは熱にのたうち回り、苦悶した。


(こんな……これが愛の力!? 金の力に勝つ……

 愛の力が、金の力を……上回るというの……!?)


 酸欠。チカチカとする視界。

 もうろうとする意識が、走馬灯を見せる。


――母の手。母の顔。やけど跡の残る。


 操縦席の開閉ハッチを、カミキレーは蹴り開けた。


「愛が金に勝てるっていうなら!!

 その力をどうして!! アタクシたちは持てなかったのよォォォーー!!」


 コイチローははっとしてアイリを抱きしめた。

 プラズマ放電すらともなうカリスマ流麗なるカリスマ飛び蹴りがカリスマ飛来し、ハグによって高まった瞬間ラブラブ桃色オーラバリケードを貫通する寸前までめり込み、すぐに飛び離れて再びの攻撃モーションに入った。

 コイチローはいぶかしんだ。


「まだ能力のコストにできるお金が残っていたのか!?

 いや違う……あれは!」


 コイチローは見た。

 打ち鳴らされる魔法のハサミ。

 その音が響くたび、カリスマ改造されたカミキレーの機械化手足が、泡に変わるように溶け落ちていく。


「この義手も! 義足も! なんなら美貌もォ!

 価値に換算してコストにしてやるわ!

 あんたたちに! 勝つためにねェェェ!!」


 身をすり減らしながらカミキレーはカリスマ空中機動!

 ロープを跳ね飛び、残光を糸引き、亜光速で飛ぶ線香花火のような様相でカリスマ華麗アタックを仕掛ける。

 コイチローたちは愛を高め、桃色の輝きでもって対応する。


「カミキレー……! 全部、使い切るつもりか!

 きみの持つすべての価値を、あぶく銭のごとくここで使い切ってしまうつもりなのか!」


 戦いが加速する。温度が上昇する。

 機械油への発火、カリスマ機動によるプラズマ放射、愛の桃色ラブバーニング。

 すべてがすべてを加熱し、熱をぶつけ合ってさらに加熱し、過熱する。


「ギャーーッ我々の街が溶けるジケイダンーー!?」


 歯車とレンガの街が溶け、マグマのようになり果てるほど……!


――――――


・ラブバカ豆知識


マグマの温度は千度前後。レンガの耐熱温度は千度以上。

バカップルの愛の温度は一兆度(自称)。

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