第32話 愛は金より重いのか!?カリスマ美容師カミキレー!6
アイリ駆動のガーディアンのパンチが、またカリスマロボに食い込んだ。
「ぐっぬぅぅ……! アタクシのカリスマが、マネーパワーが、こんな……!」
操縦室内で、カミキレーはうめく。
さっき言われたアイリの言葉が、頭の中で反響する。
――
ギリリと、歯ぎしりひとつ。
「いいとか、悪いとか……!」
幼少期。母の姿。ざらついた手。
反響とともにちらついた、それらの思い出に封をして、操縦レバーを強く傾けた。
「そんなの関係なくッ!! それが事実なんだから!! しょうがないでしょうがァァァァ!!」
カリスマ駆動するカリスマパンチが、ガーディアンに迫る。
ガーディアンの操縦席で、アイリはにこりと微笑んだ。
「そうだよね」
パンチが、ガーディアンを打ち抜いた。
崩れるロボ。散るがれき。
その中心で舞い落ちる、アイリの姿。
「美容師さんも、お金の力にいいようにされるのは、本当はイヤなんだね」
アイリの自由落下に、コイチローが寄り添った。
カリスマロボの視界の先で。
抱き寄せる。見つめ合う。
愛する人の笑顔に至近距離で詰められて、アイリのセレブ優秀頭脳はラブバカおつむに塗り変わり、へんにょりとアホ面をさらした。
とろける愛の高まりが空気を発熱させ、膨張させ、エアバッグのように落下の衝撃をゆるめた。
コイチローは、落下の中でカリスマロボの方を向いた。
「カミキレー。終わらせよう。お金の力を乗り越えよう。
僕たちはきみを倒して、前世の業を乗り越えて、愛の力を証明する」
逆さまの姿勢で、バカップルのアホ毛がハートの形になった。
「ここからは、愛が世界を救う物語だ」
ふわりと落下した二人の体を、街に張られたロープが受け止め、たわんで戻り、宙に送り返した。
浮き上がるバカップルを視界に収めて、操縦席内のカミキレーは、牙をむくように鼻筋にしわを寄せた。
「何が愛の力よ。ただ魔法を発動する媒体になってるだけで、結局魔法の力でしょう」
「そうだね。きみのお金の力と同じだよ」
決然とした表情で、コイチローは言い切った。
「だから魔法の力で定量化した、愛とお金の代理戦争ってことで、いいんじゃないかな」
跳躍の頂点、重力加速度が落下へと転じさせるその一瞬の静止の中で、バカップルはロボ内のカリスマ美容師と向かい合った。
カミキレーは操縦桿を握る。カリスマロボが動く。パンチを繰り出す。
バカップルは愛を高める。桃色の爆発。
二人の愛の生存本能が高まる。迫り来る致死性カリスマ攻撃の威圧による吊り橋効果だ。
ラブラブ空気膨張による回避。街に張るロープにぶつかり、反発力で飛び、また飛び、池の中のオタマジャクシのごとく飛び回る。
飛び回りながら、アイリはコイチローと向かい合って叫んだ。
「コイチロー! わたしはコイチローと出会って、バカップルになれてうれしかった!
勝手なエゴで作られちゃったわたしの人生に彩りが生まれた!
バカップルだったから、借金地獄にして自分の元にすがるしかないようにしようっていうあの男の策略からも、こうして違う世界に転生して逃れられたんだよ!」
カリスマ致死攻撃がカリスマ的に二人をかすめる。
街に張りめぐらされたロープの繊維が、二人の愛に感化されて繊維同士で激しく絡み合い、ロープの張りを強めて二人をパワフルに押し出す。
愛の力で、街の構造が徐々に二人に味方していく。
コイチローは叫び返した。
「アイリ! 僕の方こそ、きみを
長い入院と車椅子の生活の中で、きみと出会えたから僕は未来を夢見ることができた!
きみとバカップルになれたから、僕たちにはこうして未来が広がり続けているんだ!」
かわしたカリスマロボの攻撃が、アイリの操縦していたロボやレンガ造りの街並みを崩してゆく。
散る残骸が、鉄錆色のレンガが、愛の桃色オーラに照らされる。
愛の高まりにみょいんみょいんとふるえるロープたちが、残骸をはじき、一般市民への被害が出ないように振り分けて落としていく。
崩れゆくロボからオイルが噴き出し、桃色の空気層に沿って広がって虹色の油膜を作った。
「僕たちは愛を背負って戦う! だって僕たちは!」
虹色を背景に、二人はロープを踏んで飛び上がり、アホ毛をハートマークにしてポーズを決めた。
「「バカップルだから!!」」
ばばーん。桃色オーラがよく分からない効果音を発した。
それは爆発音。愛の力を火薬とした、燃え上がるハートの小爆発。
そしてバックに背負う虹色は、油膜。
愛の爆発が、油に引火し、燃え上がった。
――――――
・ラブバカ豆知識
アカイイートーの街の若者の間でホットな遊びは、高所から飛び降りてロープを踏み、飛び上がって元の場所に戻るという遊び。
うまく成功できなきゃ強い大人になれないというぞ。
(成功しなかったら大人になる前に死ぬので)
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