第31話 愛は金より重いのか!?カリスマ美容師カミキレー!5

 ロボの上。

 破壊される街並みを満足げに見下ろし、カリスマ美容師カミキレーは笑った。


「カーリスマスマスマ(笑い声)! お金の力を思い知ったかしらカリスマ〜!

 やっぱりマネーパワーこそ絶対最強なのよカリスマ〜!

 この調子ですべて破壊してアタクシの支配下に……ん?」


 カミキレーは見た。

 今動かしているのとは別の塔。うなっている。歯車と蒸気。

 そしてがばりとパーツが動き!


「な、なにィィーッカリスマ!? 向こうの塔もロボットに!?」


 がしょーん! がしょーん! ブッピガァン(謎の効果音)!

 無骨な歯車が駆動しレンガと鉄のつぎはぎの手足がどっしりと動く、荒々しくも洗練されたデザイン!

 この街の塔の変形ロボ、その真の姿、「ガーディアン・オブ・アカイイートー」の起動である!


「まさか、正規の起動ができるなんて!? けどアタクシのマネーカリスマに強化されたロボ相手じゃ、しょせん素体のロボなんて……来た来た来た、ぎゃわーッ!?」


 ガーディアンの重厚なパンチが、カリスマロボに激突した。

 関節の動きを見極めた、絶妙にガードの間に合わない一撃だ!


「くぅっ、こうなったら本気でやるわカリスマ〜!」


 ロボの上から頭部内へと入り、操縦席に座って拡声装置で叫ぶ。


『金より強いものなどないのよカリスマー!!』


 カリスマロボがカリスマ駆動し、カリスマパンチをカリスマ繰り出す。

 ガーディアンは――まるで予知していたかのように――腕を合わせ、受け流し、内側に入り、タックルで反撃。

 人体とはスケールの違う巨大ロボゆえに、全体の工程がゆったりと見える格闘戦だ!


『なんてこと!? アタクシのマネーパワービューティフルアタックが通用しない!? どうして!?』


『――単純に、操縦者の技量、あるいは』


 対面のガーディアンから、操縦者音声。

 中で操縦するのは、くりくりとした瞳に理知の光を宿し、それまでのアホ面ではない冷淡な表情をした、アイリだった。


『かかってるお金の差、なのかもね』


 操作レバーを複雑に動かし、アイリはガーディアンを駆動!

 カミキレーもカリスマロボに金の力を付与し流麗な動きをさせる。通じない。いなされる。


『どういうことなのカリスマ!? マネーパワーによる最高級のビューティフルムーブが、こうもあしらわれるなんて!?』


『だって、きれいすぎるから』


 淡々と操縦しながら、アイリは語る。


『完璧に計算された美しい動きは、完璧に計算できれば予測はしやすいよ。

 あとはそれに合わせて、最適な機械の動かし方を割り出して対応していけば、簡単に勝てちゃう。

 っていっても、それを計算できるのは、それなりの脳みそを持って、それなりの学力をつけないといけないのかもしれないけど』


 ふっと、悲しそうに、アイリは言った。


『そういう子供にするために大金をつぎ込んだ、親に感謝ってことなのかな』


 ガーディアンの計算されつくした戦闘駆動が、カリスマロボを打倒する。圧倒する。


 その光景を、地上からツッコは見上げて口をあんぐりと開けた。


「おいおいおい……アイリいったいなんなんだよ? どういう才能……才能? なんだよあれ!

 いつもバカップルでバカっぽい感じなのに、何が起こってるんだ、コイチロー!?」


 話を振られ、横で見上げていたコイチローは、ゆっくりと口を開いた。


「元の世界に、とあるセレブがいた。名前は梵々律血ぼんぼんりっち瀬麗武太郎せれぶたろう


 切なげな顔で、語る。


「大企業経営者で能力優秀、文武両道で容姿端麗。けれど彼は自分のセレブっぷりに満足しなかったんだね。

 より優秀な才能がほしい。完全に完璧なセレブになりたい。けれど自分がそうなるには限界があった。

 だから、彼は考えた。完璧な遺伝子を持った子供を作って、完璧なセレブに育て上げようと」


 ロボが、うなりを上げて格闘する。

 コイチローは語り続ける。


「遺伝子だけで、母体を選んだ。金にものをいわせて手に入れた、愛も何もないひたすら優秀な妻。

 そして作った受精卵に、その男はさらに遺伝子改造をも加えた。違法な技術を、金の力で取り入れてね」


 ツッコにその単語の意味までは分からない。

 けれどニュアンスは伝わった。倫理的によくない方法で、子供を作ったということだ。


 コイチローは格闘するロボを見上げ、言った。


「彼女の名は梵々律血ぼんぼんりっち藍莉アイリ

 愛を知らずに産み落とされた、デザイナーベビーだ」


 ガーディアンのパンチがカリスマロボのカリスマ顔面に炸裂! カリスマロボはたたらを踏む。

 そしてガーディアンからの音声、アイリの声。


『ねぇ、カリスマ美容師さん。これで満足?

 たくさんお金を使って生み出された、お金の力のかたまりみたいなわたしの能力で叩きのめされて、これでお金の力が証明されて、あなたは満足する?

 にいいようにされて、それでいいの?』


 アイリの操るロボが圧倒する。

 コイチローは見上げ続けた。


「愛のひとつも与えられず、ひたすら優秀であることを強要されたアイリは、疲れちゃったんだ。

 だから僕とバカップルになり、アホになって優秀な知能を封印した。

 そのせいで怒った梵々律血の経済制裁に対抗できずに、五千億円なんていう国家予算みたいな借金を背負わされたのは、皮肉な話だけどね」


 アイリのロボは躍動を続ける。カリスマロボを追い込む。

 それを見やりながら、コイチローは動いた。


「アイリを補助する。ツッコは街の人の安全確保を頼むよ」


「あ、おいコイチロー!?」


 コイチローは引き合う愛の奇跡により、しれっと空中浮遊してアイリのもとへ飛んでいった。

 ロボの戦闘の余波により、街全体が揺れる。


「くそっ! ともかく安全確保は必要だよな、市民のみなさん避難を――」


 ぞわり、と、ツッコの肌があわ立った。


 空気の重さが、百倍にも増したようだった。

 立ちくらみのように視界が暗くなり、狭まるような感覚がした。

 それは、気配。魔力の。

 強大な力の予感が、まるで物理感覚を持つように押し寄せてきた。


 ツッコは気配の方向に、目を向けた。

 曲がりなりにも王国兵士として訓練を積んだツッコだから、耐えられた。

 目を向けるまでに視界に入った周囲、一般人や自警団(カリスマ美容師顔)は、威圧感にやられてへたり込んでいた。


 道の向こう。

 赤錆色のレンガ造りと歯車の、パッチワークのような大通り。

 その先から、歩いてくる。

 漆黒の鎧と兜に身を包んだ、いっさいの顔も素肌も見えない暗黒の騎士。


「私は自由恋愛絶対禁止暗黒幹部が一人……暗黒騎士、ホーン・トワ・イ・イヒト」


 あふれんばかりの強者のオーラを引っさげて、暗黒騎士ホーンは宣言した。


「力の差に、絶望するがいい」


――――――


・ラブバカ豆知識


アイシテルノサ大陸に住む種族のひとつ、ヤサイ族。

その名の通り、体が野菜でできている種族だ。

大陸全体のビタミンと食物繊維をまかなって、健康管理はヤサイ族にお任せ!

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