第30話 愛は金より重いのか!?カリスマ美容師カミキレー!4
ゴゴゴゴと、地響きが鳴った。
ツッコはきょろきょろと見回した。
「な、なんだ……? 何が起ころうとしてる?」
みしり、みしり。濃淡まだらなモザイク模様の石畳がきしむ。
コイチローは見回して、ツッコに叫んだ。
「ツッコ! 一般人の安全確保を!」
「チクショウまたそういう感じの展開かよ!」
石が割れる音!
街じゅうを走るロープがめちゃくちゃに動き、それを支える支柱にとんでもない負荷がかかって石畳が割れ、すっぽ抜けて建物の屋根にぶつかって破壊する。
逃げまどう住民、おびえる悲鳴。
騒ぎの街を見下ろして、塔の上、カリスマ美容師のカリスマ高笑い!
「カーリスマスマスマ(笑い声)! 塔を買収してやったわカリスマ〜!
この塔は今から、アタクシの手足となって動くのよカリスマ〜!」
コイチローが怒鳴った。
「カミキレー! これがきみの考える美しさか!?
買収した塔で街を荒らして、これのどこが美しいんだ!」
「あせるのはまだ早いわよォ! ここからが真の美しさよカリスマ〜!」
カミキレーがちょきんとハサミを鳴らし、塔はそれに呼応!
いたるところからブシューと蒸気を噴き出し、歯車が目まぐるしく回る!
そして次の瞬間、パーツが大胆に
「あれは!?」
がしょーん! がしょーん!
パーツ分けされては移動し、ただの塔だったそのシルエットに腕が! 足が! 頭部が!
引っこ抜けたロープが頭部に集まり、サラサラヘアーとなる!
そして細かな歯車が複雑に稼働して顔面を形成し、完成したのは!
「超☆機☆動! このカリスマ美容師カミキレー様の美しさを存分に再現した、こだわりのディテールと関節駆動!
カリスマ巨大メカ『キョダイタワーカミキレー』! 爆☆誕ッ!!」ブッピガァン!!(謎の効果音)
「自分のクソデカ顔面やりたかっただけだろてめー!?」
「体も改造だらけなら、技も美容師のくせに格闘にロボにと節操がないね。
存在自体がパッチワークみたいだ」
ツッコミをしたツッコやコイチローの横を駆け抜けて、街の自警団たちが向かっていく。
「街を荒らす悪者だジケイダン! 退治して街の塔を取り戻すジケイダン!」
「おい待て!? 相手は自由恋愛絶対禁止暗黒幹部だ、生半可な強さじゃ……!」
自警団たちは屋根を跳びロープを跳び、サーカス団のように見事な動きでカミキレーに向かう!
カミキレーはふっと妖艶に笑い、ちょきりとハサミをひと鳴らし。
「ぐわあああ〜〜っジケイダン!?」
「自警団ーーっ!?」
なんと複雑かつ鮮やかな機械駆動!
ロボの両腕とロープが自在に動き、自警団たちをはじき飛ばすと同時に髪の毛を切る!
そして自警団の顔は!
「う、うわあああ〜〜俺たちの顔がカリスマ美容師になっていくジケイダン〜〜!?」
「なんでそうなる!?」
全員一様にカリスマ美容師フェイスになり、カミキレーはますます高笑い!
「カーリスマスマスマ(笑い声)! アタクシが与えるべきは究極の美! 究極の美とはすなわちアタクシ!
ならばすべてをアタクシの顔にするのは至極当然でしょうカリスマ〜!」
「もともと整形した顔だから、他人を同じ顔にするのもわけないんだろうね」
ちょきん、ちょきん、ハサミの音とともに歯車が周り、ロープがせわしなく動く。
巨大ロボが駆動! 大地を踏みしめ、街を砕いていく!
「カーリスマスマスマ(笑い声)! これぞ金の力よカリスマ!
金こそ正義! 金をかけたものがすべてにおいて絶対の勝者!
世界のルールをかみしめて、マネーパワーにひれ伏しなさいカリスマ〜!」
ロボの
「ヒィィィ〜ッ潰されるパンヤ〜!」
「危ないパン屋さーん! ぐわーっ!」
「コイチローっ!?」
コイチローはロボのカリスマパンチに吹っ飛ばされ、どさくさイチャイチャによる桃色オーラでかろうじて受け身を取った。
「いたた……まずいね。どうにも相性が悪い」
「相性ってなんだよコイチロー!? いつもならラブラブパワーでなんでも解決してるじゃねーか!」
コイチローは神妙にうつむいた。
「僕たちは元の世界で、五千億円の借金に追い詰められていた。
転生してこの世界に来て愛の力を得たけれど、借金は結局解決してはいなかったんだ」
ロボと破壊される街を見上げ、コイチローは深刻な顔で言い切った。
「つまり僕たちは、前世の宿命でお金の力に弱くなっている!!」
「マジでか!?」
話している間にも、ロボは暴れ回る。
ツッコたちや自警団はわたわたと逃げ出した。
「ちくしょう、どう止めりゃいいんだよこれ!?
ただの塔がロボットになるとか反則だろーが!」
「あの塔がロボットに変形するのは仕様ですジケイダン! だってロマンがあるから!」
「街のインフラにロマンとか求めてんじゃねぇー!?」
説明した自警団(カリスマ美容師顔)に対し、コイチローは尋ねた。
「つまり……他の塔も、ロボットに変形する?」
「そ、そうか! ロボットにロボットで対抗できるんなら、勝ち目はあるな!」
「それが、操作が難しすぎて街の誰も動かせないジケイダン……
操縦マニュアルもあるけど、設計者ですらチンプンカンプンな難解な内容なんですジケイダン……」
「マジで何考えて作ってんだよ!?」
「カミキレーが魔法の道具の力で動かしてるように、僕らもラブラブパワーで動かせば……けど金の力への宿命が……」
話していて、ふとコイチローはアイリを探した。
隣にいない。離れた場所で立ち止まり、暴れるロボを、壊される街並みを、逃げまどう市民を、じっと見ていた。
「……お金の力が、そんなに強いっていうのなら」
ふと、つぶやいて。
アイリは自警団(カリスマ美容師顔)に走り寄って、頼んだ。
「あの。ロボットのマニュアル、読ませてもらってもいいですか」
「お、おい、アイリ?」
ツッコは普段と違うアイリの雰囲気に、声をかけた。
コイチローは黙って、アイリを見た。
アイリは理知の光が宿った目でコイチローを見返して、切なげな表情で、笑ってみせた。
「ごめんね、コイチロー。
わたし、今からちょっとだけ、バカじゃなくなるね」
――――――
・ラブバカ豆知識
機工都市アカイイートーの自警団は、トラブルの現場にすぐに駆けつけられるよう、熟練のロープ渡り技術を身につけているぞ。
ロープの上で訓練している自警団の姿は、観光の目玉のひとつだ。
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