第29話 愛は金より重いのか!?カリスマ美容師カミキレー!3

 ギリギリと、ハサミとアホ毛の引き合いが、危うい均衡きんこうを保つ。

 桃色オーラを発するコイチローとアイリを見て、カリスマ美容師カミキレーはふっと笑った。


「あらあら。運がいいわ。その奇妙なバカげた能力と、アタクシたちの信念に反するラブラブっぷり。

 あなたたちが、アタクシたちの野望を砕く救世主というわけね」


「その発言、まさかてめぇ、自由恋愛禁止軍団の……!」


 ちょきん、と、ハサミを閉じる音。


 かろうじて、ツッコの防御が間に合った。

 さっきのスピードを見た上で構えていたから、ツッコはコイチローたちの前に割り込んで、守ることができた。

 そのツッコの盾として構えた槍の中央に、残像すら伴うようなカミキレーの長い足が蹴りを決め、そのまま反転して飛び上がり、空中を走るロープの上に立った。


「ふふ、その通り。アタクシは自由恋愛絶対禁止暗黒幹部が一人。

 改めて名乗るわ、アタクシはカリスマ美容師――」))すすいー


「動いてる!! ロープ動いてる!! ロープに流されて画角から外れてるぞオイ!?」


 流れるロープを均整の取れたカリスマ足さばきで逆走し、カミキレーは改めてポーズをキメた。


「改めて名乗るわ、アタクシはカリスマ美容師、カミキレー・ドー――」))すすいー


「だから流れてるって!! なんなんだよその上で名乗らなきゃいけない決まりでもあんのか!?」


「ねーねーコイチロー、わたしもあそこに乗りたーい! 楽しそーう!」


「はっはっは、仕方ないなーアイリ。じゃあ一緒に登ろうか」みょいーん


「ここにいるのはバカばっかりか!? つかアホ毛でロープにつかまって登るの気持ち悪いな!?」


 並行して流れる二本のロープに、バカップル二人とカミキレーは、向かい合って立った。


 カミキレーが名乗った。


「アタクシはカリスマ美容師、カミキレー・ドーゼンノカチ」


 ちょき、ちょき。

 ハサミを鳴らす。

 ハサミの裁断圧力により、空気がプラズマ発光し、カミキレーの周囲をきらきらと彩り。

 美しくも尊大な笑みを浮かべて、宣言した。


「お金より価値のあるものなどないと、思い知りなさい」


 コイチローはアイリを抱き寄せ(アイリの声「やぁん♡」)、アイリの興奮エンジンを作動させた。


「僕はコイチロー、バカップルの彼氏の方。

 そしてアイリ、バカップルの彼女の方」


 二人のアホ毛が、ハートマークを形作った。


「ここからは、愛が世界を救う物語だ」


 カリスマ美容師とバカップルは、互いににらみ合い。


 雷光、のようだった。

 攻撃が交錯し、また交錯し、交錯する。

 はじける桃色オーラ旋風と、輝くカリスマオーラ閃光。

 ツッコは見上げて驚愕した。


「す、すげぇ、なんてハイレベルな戦いだ!

 コイチローとアイリは前にもやったかっこいいポーズからのアイリ興奮エンジンだけど、カミキレーの鮮やかな足技! 美容師離れしたあの戦闘力は、いったいなんなんだ!?」


 コイチローには見えていた。

 カリスマ美容師の左手、札束が握られている。

 それが足技の瞬間、右手のハサミを打ち鳴らすたび、泡のように消えてゆくさまを。


 カリスマ美容師カミキレーの嘲笑!


「カーリスマスマスマ(笑い声)! これぞカリスマ美容師の真髄よォーッカリスマ!

 さっき言った輝きのハサミ『クラウシザーズ』の特性、『捧げた金額に応じた美しさを与える』特性!

 美しさとはすなわち、単に見てくれの話だけじゃないのよぉカリスマ!」


「技のキレ、流麗な動き、機能美、そういった『美しさ全般』を付与できる、ってわけだね……!」


「ご名答ォ!」


「ぐはっ!」


「コイチローっ!!」


 カミキレーの美しいカリスマ飛び蹴りがコイチローに突き刺さり、アイリと一緒に吹き飛んでまだら模様のレンガ屋根の上にめり込んだ。

 その衝撃によるダメージは、桃色オーラのクッションで軽減した。

 その桃色オーラは、攻撃を食らった際のコイチローの苦悶の声や乱れた服といったダメージセクシーチャンスによるアイリの興奮によるものだ。


 カミキレーはひらりとロープに着地し、金髪をさらりとかき上げて微笑んだ。


「美しさは、すなわちかけたお金の量で決まる。

 自由恋愛なんていうものはまやかしで、自分を磨くのに使った金額、それが釣り合う相手というのが運命の相手なのよ。

 ルックス、地位、知性、優しさ、心の豊かさ、それらはすべてお金でまかなえる」


 地上からツッコが声を上げた。


「ふざけんな! 金がありゃてめーみてーに顔がよくて美容師の技も身につくのかよ!?」


「『クラウシザーズ』の効果でガッツリ整形済みだしサイボーグ化もして技術を身につけてるわよカリスマ〜!!」機械の腕から蒸気ぶしゅー


「筋金入りのマネーパワーだった!?

 あとやっぱロープ動いてるからだんだん離れてってるぞ!?」


 コイチローは蹴られた箇所を押さえながら、カミキレーに目を向けた。


「残念だよ、カミキレー。ハカリマ・クルゾもドエィム・ニシチャールも、戦闘技術は本人の能力だったのに」


 カミキレーはコイチローに目を向け、ふっと笑ってみせた。


「だから二人は負けた」))すすいー


「だから流れてるって!! シリアスやる気あんのか!?」


 コイチローは目で追った。

 カミキレーは流れていく。離れていく。

 街の中心。物流の中心。

 街全体へとロープを送り出す、歯車とレンガのつぎはぎの塔のもとへと。


「お金で回る価値の原則、ひとつ教えてあげるわ。

 それは必要な金額を払うことができるなら、あらゆるものは、買収できるということ」


 別のロープから運ばれて、カミキレーに合流する。

 大量の札束。


 ちょきんと、カミキレーはハサミを鳴らした。

 札束が消滅し、塔の一本に、魔力が浸透した。


――――――


・ラブバカ豆知識


この世界の貨幣価値は日本円と同じ感じで読んでればだいたいオッケー。

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