第26話 絶望の具現・暗黒の帝王ウーマシーカー

 空には暗雲が立ち込める。


 アイシテルノサ大陸の辺境、山々に囲まれた険しい土地、そこにそびえる小さくも荘厳そうごんな都市、竜巣都市りゅうそうとしチューニチャニチャ。


 今この都市の周囲では、激しい戦闘が行われていた。


「ワールモッノッノ(笑い声)! この街も我ら自由恋愛禁止軍団が占領してやるギャーッ!?」


 多数のドラゴンが飛来! 自由恋愛禁止軍団を蹴散らす!

 そのドラゴンたちの中でもひときわ大きな個体の背中、キンキラの鎧を着た筋骨隆々の騎士!

 彼は上半身をドラゴンの背中にべったりとつけ、下半身を持ち上げ大きく反らして足先を頭の前に持ってくる、いわゆるシャチホコのポーズをして高笑う!


「シャーチホコホコホコ(笑い声)! 自由恋愛禁止軍団など恐るるに足らずシャチホコ!

 この竜操騎士りゅうそうきしンパス・グラは、シャチホコのポーズをしている間だけドラゴンを自在に操れるシャチホコ!

 ドラゴンは並みの兵士十人分の戦闘力! それを一度に百体操って、これにて俺様は一騎当千だシャチホコー!」


 ドラゴンの咆哮ほうこうがとどろく! 攻撃が飛び交う!

 自由恋愛禁止軍団の軍団長も、戦力差とンパス・グラのキンキラキン具合にたまらず目を細める。


「ぐぬぬ、なんということだチョンマゲ!

 この自由恋愛絶対禁止暗黒幹部が一人、チョンマゲシャーマンのブーン・メイカイカーが押されるとはチョンマゲ!」


 ドラゴンたちが一斉攻撃する!


「強くて栄養満点なドラゴンの力を味わえシャチホコー!!」


「ギャーーッやられたー!! ウーマシーカー様許してチョンマゲー!!」


 ブーン・メイカイカーはチョンマゲを切られ、ざんぎり頭になって敗北!


「たわいもないシャチホコ! 自由恋愛禁止軍団なんて、俺様の力で全部倒しきってやるシャチホコ……ん?」


 空。

 ンパス・グラは見上げた。

 暗雲に、切れ目。

 雲の切れ目ではない。時空間の切れ目。

 閉じられたまぶたが開くように、空にいくつもの、異次元へとつながる時空の裂け目が生じていた。


 詠唱が聞こえる。


「悲しみこごえて災禍さいかとなせ。罪をてんじて不遇となせ」


 ンパス・グラは見た。

 天に生じた次元の裂け目、そこから降り注ごうとする高エネルギーの塊たち、隕石の群れを。

 それらを背景に背負い、今まさに自分を攻撃しようという存在、自由恋愛禁止軍団の大将を。


 少女。

 黒装束に身を包み、黒いずきんで頭をすっぽりと覆い隠す。

 ずきんを貫通するように、真っ赤な角が一本、ひたいから生えている。

 強大な魔力の流れ。


 次元の裂け目を足場に立ち、少女は歌うように述べた。


「ワシの名は暗黒の帝王ウーマシーカー。

 そしてワシの魔法、あらゆるものを破壊する最強の暴力、絶望の具現『ギャラクティックホルン』」


 指先をひとつ、ドラゴンの群れに向けて。

 あふれた魔力の光を瞳からほとばしらせながら、暗黒の帝王ウーマシーカーは告げた。


「生まれてきたことを後悔するがよいのじゃ」


 号泣するように。

 隕石の群れが、流星群が、ドラゴンたちとンパス・グラに迫る。


「ああ……あ……」


 ンパス・グラは、うめいた。

 うめくしかなかった。

 この地域最強の実力者、その彼の実力が、正確に、その実力差を読み取ってしまった。


「あああああ、あああああああーーッ!!」


 圧倒的な破壊力が降り注ぎ、その空間全体を平らげた。


 平定された灰色の大地。

 ドラゴンたちと黄金の騎士が、黒こげアフロになってぶすぶすと煙を上げて横たわる。

 

 その大地に、ウーマシーカーは降り立った。

 乾いた風が、一陣。

 黒装束のすそを揺らす。

 その背中に、執事のシッツージが走り寄ってきて、伝えた。


「報告しまシッツージ。

 デビル幼女ドエィム・ニシチャール、救世主に敗北し……自由恋愛禁止軍団を離脱、雲樹都市メッチャスッキャネンに定住するとのことシッツージ……」


 ざり、という音を、シッツージは聞いた。

 足元の砂利を、ウーマシーカーが踏みしめた音だった。

 その足をシッツージは見て、視線を少し上げて、小さな手がぐっと握られているのを見た。


 返ってきたウーマシーカーの返事は、そっけない。


「そうか」


 ウーマシーカーは振り返らず、歩き出した。

 シッツージは付き従った。

 顔を一度もシッツージに向けることなく、ウーマシーカーは淡々と言った。


「どうでもいいのじゃ。その程度の人間だったというだけじゃ。

 ドエィムはワシを裏切るバカな人間で、ワシはそれを見抜くこともできなかったバカな人間じゃった。それだけのことじゃ」


 握られたこぶしは、固く。


「……それだけのことじゃ」


 乾いた風が吹く。

 戦闘によって荒れた大地を見すえながら、ウーマシーカーは歩いた。

 空には暗雲。次元の裂け目は、もうない。

 まぶたを閉じて視界を閉ざしてしまったように、ただ暗雲だけが、そこにあった。


――――――


・ラブバカ豆知識


竜巣都市チューニチャニチャは、セクシー族が主要民族である国の一都市。

ンパス・グラもセクシー族らしく、恵まれた肉体を持っているぞ。

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