第24話 心とろける炎となれ!デビル幼女ドエィム!8
大樹はすっかりドMでなくなり、落ち着いた。鼻血で赤いけど。
街の人間たちも一人残らず正気を取り戻し、大樹の街の片隅では、話し合うコイチロー・アイリ・ツッコの三人と、正座して縮こまるデビル幼女ドエィム。
「……んで、どうするよ、コイチロー、アイリ」
相談しているのは、戦意喪失したドエィムの処遇だった。
「もう戦う気はないんだから……」
「けど、放置してて何かあったら……」
目の前で話される相談を、ドエィムは聞くとも聞かず、縮こまってうつむいていた。
「おい」
不意に声をかけられて、ドエィムはびくりと振り返った。
いかつい顔でにらみ下ろす人影は、ミミ族のチンピラであった。
「このクソガキィ〜、ずいぶんと派手なことしてくれたなチンピラ〜?
街がメチャクチャになって、商売が上がったりだチンピラ〜!」
「ひぃっ、ごめんなさぁい!?」
すごまれて、ドエィムはびくびくして、ツッコがとっさに割り込もうとした。
それより早く、チンピラはドエィムの服を引っ張った。
「おまえみたいな薄汚いクソガキは、こうだチンピラー!!」
「あ〜れぇ〜!?」
引っ張られてぐるぐると回ったドエィムは、次の瞬間、ぼろきれのような服装からカラフルでフリフリのかわいらしい服装にチェンジした。
見事なる早着替え!
「うちの店で仕立てた超かわいい服だチンピラ!
これを着て店に立って、ガンガン宣伝してもらうチンピラ!」
「え、え、えぇ〜!?」
困惑するドエィムの顔面に、紙束が投げつけられた。
借金の借用書!
「その服の代金だチンピラ! 相場の百倍の値段だチンピラ!」
「え、え、えぇ〜!?」
困惑するドエィムの顔面に、鍵束が投げつけられた。
チンピラの店の合鍵!
「その借金を返すために、これからおまえには住み込みで働いてもらうチンピラ!
衣食住完全保証週休二日有給ボーナスありのぬるま湯で、じっくりどっぷりデトックスのようにしぼり取ってやるチンピラ〜!」
「え、え、えぇ〜!?」
困惑するドエィムの顔面に、ビラ束が投げつけられた。
フルカラー印刷された、新生アイドル登場の広告!
「そしてうちの看板娘として働いて、ゆくゆくはこの街のアイドルに育て上げるチンピラ!
最終目標はこの街を飛び出して国一番、いや大陸一番のトップアイドルになることだチンピラ〜!」
「え、え、えぇ〜!?」
困惑するドエィムに返答せず、チンピラはきびすを返した。
ドエィムは声を上げた。
「アイドルって、その前に看板娘って、そんな、ここはミミ族の街で、あたしはツノ族なのに……!?」
チンピラは振り返って、つまらなそうに答えた。
「それに何か問題があるチンピラ?」
ドエィムは答えられず、言葉に詰まった。
チンピラはそれから、間に入ろうとしていたツッコに目をやった。
「俺が勝手に決めちまってまずいなら、今すぐこの街の憲兵を呼んできてお叱りを受けるチンピラ。
俺はそれでもいいけど……あんたらはどうするチンピラ?」
ツッコとチンピラは向かい合って、やがてツッコが、ふっと笑った。
「いや、俺らも文句はねーよ。
大口叩いたんだから、マジに衣食住完全保証してトップアイドル目指せよな?」
ツッコとチンピラは、通じ合ったように笑った。
バカップルも、様子を見ていた元ドMゾンビの一般人たちも、納得したようにうなずいた。
一人当事者のドエィムだけが、目を白黒させていた。
「え、え、あの、え、えぇ……」
そのドエィムに、コイチローが寄り添った。
「やってみたらいいんじゃないかな、ドエィム。
この世界の人間は思ったほど、ゴミクズだらけじゃなかったみたいだよ」
「あ……」
背中をそっと押されて、ドエィムの目から涙が、ぽろ、ぽろとこぼれ落ちた。
歩き始めたチンピラが、声を張った。
「おーいドエィムー! どうするんだチンピラー!
やるのか、やらないのか、はっきり決めろチンピラー!」
ドエィムは顔を上げて、答えた。
「や、やりますぅ、やらせていただきますぅ!
これからよろしくお願いしますですぅ、プロデューサー!」
歩くチンピラに、ドエィムはとてとてと走り寄って、連れ添った。
歩きながら、ドエィムは空を見上げ、心の中で決意した。
(ウマちゃん、ごめんなさい。あたし確かめてみるねぇ。世界を、愛を、信じてもいいのかどうか。
今は離れちゃうけど……絶対に、ウマちゃんのところに、帰るから)
歩き去るドエィムたちを、ツッコとバカップルは、静かに見送った。
街と人の営みを支える大樹は、雲の水路を身に巻いて、堂々とたたずんでいた。
おだやかさを取り戻した木の上の街に、あたたかな日差しが、降り注いでいた。
――――――
・ラブバカ豆知識
その後ドエィムは、この雲樹都市メッチャスッキャネンでアイドルとしてデビューする。
この街のどこかで、今日もまた「踏んでくれー!」「熱くしてくれー!」とコールするファンたちのかけ声が、聞こえてくるだろう。
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