第23話 心とろける炎となれ!デビル幼女ドエィム!7

 ドMドエィムは喜色浮かべて喝采した。


「あははははっ♡ おまえらもぉ、一緒に気持ちよくなっちゃえぇ!!♡」


「くっ、これは……!」


 パラソルとサブリミナルイチャイチャで、コイチローたちはギリギリかわす。

 ロウの空間侵略が、それまでの比ではなく厳しい。


「あははははっ♡ あたしはぁ、負けないよぉっ♡」


 ドMドエィムのロウソクさばきは流麗だ。神域のごとく。


――魔法の武器があろうとも、結局は技術がなければ宝の持ち腐れですな。

  わたくしの巻き尺さばきのように、自身の力量あってこそ、武器は真価を発揮するのです。


――はいっ、ハカリマさん! あたし、頑張りますですぅ!


 ロウ、が降る。

 ロウ、のように取り囲む。

 ラブラブ鼻血スプラッシュでギリギリ切り裂き、なんとか脱出する。

 ドエィムの神がかりは止まらない。


――あのぅ、執事のシッツージさん、ウマちゃんの誕生日とか、知ってますかぁ……?

  ウマちゃん、そういうの全然教えてくれなくてぇ……


――あー、本当はウーマシーカー様、イヤがるでしょうけど……

  そうですね、ドエィムさんなら、きっと。いいでしょう、教えまシッツージ……


 神がかりは止まらない。


「あっはははは♡ 壊れろ♡ 壊れちゃえぇ!♡」


 ロウ、が襲い来る。

 ロウ、のように食らいついてくる。

 樹木も建物も空気も視界も何もかも、赤く染め上げていく。


「くっ、なんとか反撃を……! アイリ、鼻血!」


「コイチローのハグで心臓バクバク血流ドクドク〜♡♡♡」


 鼻血狙撃がドエィムに直撃。

 効かない。ロウがはじく。

 それだけでなく、ダメージが快感に変わってしまうのだ。ドMだから!


「はぁぁぁん♡ 熱いのがぁ、痛いのがぁ、快感だよぅ〜♡♡♡」くねくね


「なぁおい絵面ヤバくねーか!?」


 ドMドエィムはさらに攻め手を苛烈にする。

 コイチローはきりきり舞にしのぎ続ける。


 ドエィムは大樹を調教、枝を操る! 枝に自分自身をぶっ叩かせ、その勢いで宙を舞う!


「ハァハァハァハァ熱くて痛くて楽しいなぁ〜!♡」


 宙を舞いながら、ドエィムはロウソクを振るう。

 ゆらめく炎は絵筆だ。溶け落ちるロウは絵の具だ。

 ロウを浴び、枝に叩かれながら、描き出す。ドエィムの意地とエゴを。

 それがどんな形なのかは、ドエィム自身にももう分からない。


――ウマちゃんのために、頑張るからぁ、あたし……!


――別に、無理して戦わなくても、ワシはただ、ドエちゃんには……


「きゃはははは♡ 楽しい楽しい♡ 楽しいよぉ♡」


 降ってくる、笑い声。

 コイチローはその姿を見上げた。


 ロウ、だけじゃない。

 ロウ、する赤は、血。ドエィムの血。

 枝に叩かれたことによる出血。


「あはははは……♡ 知らなかったなぁ♡」


 ドエィムの意識に、かつて言われた言葉がリフレインする。


――ツノ族ってさー他の種族より火に強いんだろー?


「あたしって、熱いの、へっちゃらなんだなぁ……♡」


 全身にロウを浴びて、ドエィムはうっとりと笑う。

 あふれてきた涙がなんなのか、今のドエィムには分からない。


「コイチロー」


 隣で声がして、コイチローは目を向けた。

 ドエィムを見上げるアイリ、その目には、理知の光が宿っていた。


「わたし、あの子を止めたい」


 コイチローはアイリを見つめて、うなずいた。


「ああ。僕も、一肌脱ぐよ」


 ドエィム、笑いながら宙を舞いロウを降らせ続ける!

 赤く赤く、視界の確保も困難なほどに。


「きゃははははは……! あぇ?」


 ドエィムは見た。

 下の方、バカップル。

 その彼氏の方、コイチローが、おもむろに服を脱いで上半身裸になった!


「これはアイリの体への負担も大きい禁断の技だ!

 いくよアイリ! 究極奥義、『素肌でハグ』! ぎゅー!」


「はふゥンコイチローの素肌がじかに触れてっ♡♡♡ 興奮ウルトラマックスハァハァハァハァ鼻血ビッグバンーー!!♡♡♡」


「螺旋軌道の鼻血でバカップルが飛んできたーー!?」


 右の鼻の穴、左の鼻の穴、それぞれから高圧鼻血水流を噴き出し、抱き合うバカップルは垂直上昇!

 あまりの鼻血迫力にドエィムも正気に戻り、ロウを降らせて迎え撃とうとするが!


「と、止まらない!? ロウを浴びてるのに!?

 なんで、ドMにならないんですかぁ!?」


 その光景を、ドMツッコは見上げた。


「水と油なんだ……!

 ドエィムがロウで鼻血をはじいたように! アイリもまた、鼻血でロウをはじいてるんだ!」


 真っ赤に染まるバカップル(鼻血)!

 恍惚の表情で迫るアイリ(鼻血)!

 ドエィムはビビりながらも冷静に考える!


「た、たとえ接近されたところで! ドMであるあたしに、攻撃は無意味……」


「ドクドク鼻血でハグハグ密着ぅ〜〜!♡♡♡」


「ごぼがぼげべがば〜!?」


 ドエィムは、溺れた。鼻血で。

 異次元超水量鼻血を噴き出したままのアイリに抱きしめられて、逃げ場なく鼻血にさらされた。

 ドM変換で痛みは快感に変わっても、溺れてしまっては普通に死ぬ!


(あ……あったかい……)


 溺れて意識がもうろうになりながら、ドエィムは鼻血のぬくもりを感じた。

 ロウの熱に比べれば、ぬるい熱。

 けれどそのぬくもりは、不思議と体の芯まで届いた。

 そのぬくもりに、ドエィムは覚えがあった。


(ママ……)


 それは原初の愛。


「もう、いいよ。自分を傷つけたりしなくても、大丈夫」


 慈愛の顔をしたアイリ(鼻血)が、優しく抱きしめて、告げた。

 そのあたたかな抱擁ほうように、鼻血のぬくもりに、ドエィムは母を見いだした。


(そっかぁ、あたし……)


 親に愛されていた記憶。

 あのときドエィムは、確かに。


「あたし、ゴミクズなんかじゃ……なかったんだなぁ……」


 ぽろぽろと、涙を流しながら。

 ドエィムはアイリの胸に、優しく抱かれて。

 その二人を抱きしめたコイチローがパラソルを開き、ゆるやかに落下していった。

 真っ赤なロウに染まった大樹は、真っ赤な鼻血に洗われていった。


――――――


・ラブバカ豆知識


ドMドSの関係性は、互いに信頼関係があってこそ成り立つものである。

ドMを自称しているからといって、同意なく攻撃するようなことはあってはならない。

読者諸兄には愛と誠意をもって、すこやかなプレイを楽しんでいただきたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る