第21話 心とろける炎となれ!デビル幼女ドエィム!5

「くっそ……! アイリ、俺の後ろに隠れてろ! ここは俺が守る!」


「邪魔ですよぅゴミクズ」


「女王様ぁぁー!!」


 ツッコはロウを食らってドMになり、ひれ伏した。

 デビル幼女ドエィムはツッコを踏みつけながら語る。


「正直、ヘドが出るんですよぅ。愛とか恋とかのたまう、自由恋愛を謳歌してるのゴミクズたちにはねぇ」


「ありがとうございます女王様ッ……! くっそ、体の自由が効かねえ……!

 おいドエィム! なんでそんなに自由恋愛を憎む!? 誰かが誰かを好きになって、それになんの不都合があるってんだ!?」


「あるから禁止しようというのですよぅ!」


「ありがとうございます女王様ッ!!」


 ドエィムはツッコを踏みつけ熱々のロウを垂らし、憎々しげな視線を向けた。


「その自由を勝ち得るために、どれだけの人間がゴミクズのように踏みにじられてきたか考えたことがありますかぁ?

 自由を謳歌する人間がいる影で、そんな権利すら得られないゴミクズのような人間がいるってこと、考えたことありますかぁ!?」


「えーとつまり、自分たちは恋愛弱者だから恋愛強者が憎らしいってか?」


「翻訳どーもありがとうですよぅ!!」


「ありがとうございます女王様ッ!!」


 ツッコを踏みにじりながら、ドエィムは正面、アイリへとロウソクを突きつけた。


「バカップルさんには分からないと思いますぅ。あたしたち恋愛弱者が、どれだけの絶望をかかえてきたかなんて。

 ゴミクズみたいに見下して、なんにも知らずにのほほんと自由恋愛を楽しんで、そんな存在が、心底憎たらしいのですよぅ」


 アイリはきょとんとした顔で、座り込んでいた。

 ドエィムは冷たい目をして、ゆがんだ笑みを向けた。


「群れなきゃなんにもできない、ゴミクズのクセにですぅ」


 赤いロウに染まる、樹木。木造家屋。

 ツッコはドM。ドエィムの足の下。コイチローはいない。

 アイリは今、一人、孤立していた。


 そのアイリのくちびるが、動いた。


「――『きみの』」


「ん?」


 アイリの輪郭に、オーラがまたたく。

 桃色の。


「『きみの素敵な笑顔を、二十四時間見ていたいな』」


「へぶぅッ!?」


「アイリからの桃色のオーラ光線がドエィムをはじき飛ばしたー!?」


 ドエィムはずべしゃあと枝の上を滑って、何事かと顔を上げた。

 桃色オーラに満ちあふれたアイリが、にっこりと微笑みを返した。


「コイチローが言ってくれた愛の言葉は、いつでもわたしの中で息づいてるんだよっ」


「まさかっ、言われた言葉を思い返すだけで、これだけのラブラブオーラをほとばしらせているのですかぁっ!?」


 アイリは微笑みながら、朗々と声を出した。


「『光る涙も綺麗だけど、それより輝く笑顔が見たいな』」


「ぶべら!?」


「『きみの笑顔を守るためなら、誰を敵に回したってへっちゃらだよ』」


「ほげっぺ!?」


「『他の誰が何を言おうと気にならないくらい、僕がきみを夢中にさせるよ』」


「ぽきゃるられー!?」


 桃色オーラにボコボコにされるドエィム。

 その様子を見やりながら、ドMツッコはいぶかしんだ。


「なんか、セリフの内容が……」


 アイリは喋り続けた。


「『僕がぴったりと貼りつくよ。きみの心の傷を癒す、絆創膏になってね』」


「じょんどぅ!?」


「『泣き疲れたら、僕がきみの休む止まり木になるよ。でもそうなる前に、どんどん僕を頼ってほしいな』」


「えいどりあん!?」


「『きみの人生に色がないというのなら、僕が絵の具になって、きみの最初の彩りになるよ』」


「いぬくぼぅつなよしー!?」


 ドエィムはボコボコにされる。

 ドMツッコはうめいた。


「このセリフを……コイチローはアイリに言ったのか?

 こんなセリフを言われるような状況に、アイリはなったのか!?」


 アイリは桃色に光って、微笑んで。

 ドエィムに向かって、穏やかに言葉を吐いた。


「『自殺なんて考えるくらいなら、僕にその人生を預けてよ』」


 桃色の光爆が、ドエィムを打ちすえた。

 その衝撃よりも強烈に、ドエィムの目にアイリの姿が映った。


「絶望は」


 アイリは穏やかに、微笑んだ。


「あなただけのものじゃないよ」


 ぞうっと、ドエィムは寒気立った。

 アイリは穏やかだ。

 その表情が、異様に恐ろしかった。


 歯ぎしりひとつで体勢を立て直して、ドエィムは怒鳴った。


「絶望が! あたしだけのものじゃなかったとして!

 あたしの絶望が、軽くなるかァァァァ!!」


 ロウソクを振る。

 降りそそぐ真っ赤なロウの弾幕。スコールのように隙間なく。

 空が落ちるようなドM化圧力が、迫る。


「ハロー、ハロー。今日はあいにくの天気ですね」


 アイリに傘が、差し出された。


 叩きつけるロウの雨音が、パラソルの表面をバラバラとかき鳴らした。

 赤い雨の壁が、パラソルの縁に沿って垂れ下がって、二人の存在をちっぽけに切り取った。

 二人。男女。バカップル。


「きみを傷つける雨が降るなら、僕はいつでも、傘を届けにやってくるよ」


 座り込んで見上げるアイリの前で、黒髪のさわやかな青年、コイチローはパラソルを持って、笑いかけた。


 なおツッコにもパラソルが渡されたが、今のツッコはドMなので、みずからパラソルを捨ててロウの雨に打たれにいった。


――――――


・ラブバカ豆知識


ロウの融点は約70度。

一般的にプレイ用のロウソクは、さらに融点が低いものを使用する。

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