第20話 心とろける炎となれ!デビル幼女ドエィム!4

 ドエィムは笑いながらロウソクを振り回す!


「ゴーミクズクズクズ(笑い声)! この忍耐のロウソク『キャンドルテイン』の能力、『ロウを浴びるとドMになる』のですよぅ!

 おまえたちも熱々のロウを浴びて、ゴミクズみたいにはいつくばるがいいですよぅ!」


「うおおおおッめっちゃロウを飛ばしてきた!?」


 雨あられと降りそそぐ灼熱のロウを、ツッコはかわそうとした、が!


「グフフ兵士のにいちゃんもこの快感を味わうといいチンピラぁ〜……!」


「げっ、さっきのチンピラ!? ロウを食らってたのか!?」


 赤いロウをしたたらせてだらしなく笑うチンピラたちに、ツッコは抑え込まれた!


「危ないツッコ! 買っててよかったお土産パラソル!」


 コイチローが割り込み、パラソルを開いてロウを防いだ。


「一般人の多いここで戦うのは不利だね。いったん距離を置こうか」


「どこへ逃げようというんですぅ?」


 ドエィムに問われて、コイチローたちは周囲を見渡した。

 樹上の立体的な街並み、そこらじゅうにすでにロウがまき散らされ、ペンキをひっくり返したような有様!

 そして!


「うおぉぉんこの熱さと苦しみ、こんな快感は初めてだカンコーキャク〜……!」


「まだ味わってない人間に、同じ快感を味わわせたいボッタクリ〜……!」


「あそこの人間、まだロウがついてないイッパンシミン〜……!」


「抑え込んでロウをかけるモトモトドエム〜……!」


「やべぇ囲まれる!?」


 木の枝をはいずり、ある者はぶら下がり、ある者は幹をよじ登って、真っ赤なロウに染まり快感によだれを垂れ流しながら、コイチローら三名を取り囲まんと寄ってくる!

 さながらゾンビパニック映画だ!


「ひょえええ怖いよ怖いよコイチロ〜! このままじゃ逃げ場なく捕まってドMにされちゃうよ〜!

 わたし熱くて苦しいのなんてイヤだよ〜!」


「はっはっは、何言ってるのさアイリ」


 コイチローはアイリの手を取って、甘くささやいた。


「僕らはもうすでに、愛に熱く焦がれて、恋に胸を苦しくしてるじゃないか」


「コイチローっ♡♡♡ そうだよねっわたしたちは何よりも熱い恋の苦しみの無間地獄にとらわれてるんだもんねっ♡♡♡

 今さらロウソク一本くらいの熱さなんて、生温なまぬるのぬるぬるでくしゃみが出ちゃうよぉ〜♡♡♡」


 バカップルは抱き合い、熱い桃色オーラをほとばしらせた!

 あまりの熱量にドエィムがひるむ。


「むぅぅっ、すごいエネルギーですぅ……!

 なるほどこれですか、ハカリマさんを退けた力! そのバカップルのイチャイチャパワーがかたきということですねぇ!」


 オーラの放射熱は周囲の人間を加熱し、ロウをさらにとろけさせて流れ落とした!


「ハッ、俺は何をモトモトドエム!?

 正気に戻ったモトモトドエム!」


「一番正気かどうか分かんねーヤツが反応しねーでくれねーかな!?」


「逃げようアイリ! ツッコ! まだドMゾンビの数が多い!」


 アイリとツッコを引き連れ、コイチローはパラソルを開く。

 逆さにしたパラソルを雲の水路に浮かべ、即席のボートにした。

 ヨーソロー!


「逃げても無駄だと言ってるんですよぅ!」


 ドエィムはロウソクをぶんぶん振ってロウを飛ばす。

 ロウは白い雲の中を流れ、赤い線を引く。

 そのロウにおかされドMになったのは!


「げっ、魚だ!? 雲の中で養殖してる魚をドMにしやがった!?」


 赤く染まった魚が踊り狂い、逃げるパラソルボートを追う。

 この街の特産品・魚肉ソーセージの原料、「スケベソウダラ」だ!


「熱さがカ・イ・カ・ンなのだスケベ〜!!」


「魚が喋ってんじゃねぇーー!?」


「あのロウ、雲の中に流してもなお温度を保ってるんだね。

 雲は微細な氷の粒の塊だっていうのに、すごい保温効果だ」


「なぁコイチローそこか!? そこなのか!? 感心するトコそこでいいのか!?」


「ともかく追いつかれるとまずいね。加速しよう。

 というわけでアイリ、背中からぎゅっ」


「はふぅんコイチローの大胆なハグで大興奮の出血大サービスぅぅーー!!」


「鼻血噴いたーー!?」


 アイリの鼻血噴出をジェットエンジン代わりにし、パラソルボートは加速!

 大樹に巻きつく雲の水路を滑りゆき、縦横無尽に駆け抜ける!


「逃げるのはいいけどよコイチロー! 最終的に勝つよな!? 倒す算段はあるのか!?」


「ロウソクを振ってロウを飛ばすだけなら射程はたいしたことないし、二百メートルくらい離れてアイリの鼻血噴射で狙撃しようかなぁ」


「アイリの鼻血、二百メートル先まで届くの!?」


「えっへん! 愛の力だよ!」


 雲の上を滑りながら狙撃ポイントを探す。

 枝が入り組んで見通しが悪く、いい場所がない。


「……いや、違う。これは」


 コイチローは見た。

 枝が三人の進路をふさぐように折り重なる。

 現在進行形で、折り重なってゆく。

 その枝に、赤くどろりと垂れ下がるのは。


「まさか、木まで!? 生きた樹木である、この都市自体をドMに!?」


 コイチローたちは見上げた。

 まき散らされたロウが、大樹全体にぶちまけられている!

 そしてとどろく地響きのような声!


『我が名は大樹メッチャスッキャネン……改め、メッチャドエムヤネーン!!』


「木が喋ってんじゃねぇーー!?」


 振り上げられる、文字通り道路並みの太さの枝!

 コイチローたちは水路ごと打ち上げられた!


「どわーーっマジかーー!?」


「コイチローっ!」


「アイリ……!」


 手を伸ばそうとしたバカップルの間に、枝が割り込む。

 分断された! コイチロー一人、別の場所へ!


「くっそ、アイリつかまってろ!」


「やだやだコイチロー以外と手をつなぐなんてやだ〜!」


「こんなときに文句言うんじゃねぇーー!!」


 アイリをかばいながら、ツッコは木造家屋の屋根に転がり落ちる。

 その二人の前に、ドエィムが歩み寄った。


「あなたたちの強さの源が、バカップルの愛の力だというのならぁ……

 二人を別々にしちゃったらぁ、どうなるんでしょうねぇ?」


――――――


・ラブバカ豆知識


人間の血液量は、体重のおよそ十三分の一。

愛の力で大興奮したアイリなら、体重の十三倍くらいの出血はわけないし、射程距離も十三キロや。

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