第6話 暗黒の帝王と暗黒幹部!

 大陸の西の果て。暗雲に閉ざされた暗黒の山脈。

 雷が、ときおり落ちる。

 その頂上にたたずむ、暗黒の城。

 暗黒の帝王ウーマシーカーが住む、風雲・自由恋愛禁止城である。


 その中。一室。

 暗黒の部屋で窓から外をながめる、一人の人間。

 黒装束をまとい、頭は黒いずきんですっぽりと覆う。

 ずきんを貫通するように、赤く大きな一本角が、ひたいから生える。

 そんな容姿の、ちんちくりん幼女――暗黒の帝王ウーマシーカーは、静かに笑った。


「ウーマシカシカシカ(笑い声)……この世界に現れるという異世界からの救世主じゃが、暗黒幹部が一人であるマッチョマジシャンのマッチョーネ・キンニクールを派遣し、きっとブザマに筋肉敗北しているはずなのじゃ。

 ワシの偉大なる自由恋愛禁止計画、とどこおりはいっさいなしなのじゃ。

 そうじゃろう? 執事のシッツージ」


「は! 報告しまシッツージ!」


 かたわらに控える、執事のシッツージが報告した。


「マッチョマジシャンのマッチョーネ・キンニクール、異世界からの救世主に敗北! 再起不能との情報が入りまシッツージ!」


「バカなーーッ!?」


 ウーマシーカーはずがびんとショックを受けて絶叫した。

 それからぐぬぬとうなった。


「おのれ、異世界の救世主め! いったいどんなヤツなのじゃ!

 あのマッチョーネを倒すくらいじゃ、きっとものすごく強くて、気高くて、品行方正実質剛健まさしく英雄といったいでたちのザ・救世主という人間に違いないのじゃ!」


――――――


「うふふっ愛してるよコイチロー♡」


「あははっ僕もだよアイリ〜♡」


 イチャイチャイチャイチャちゅっちゅちゅっちゅ。


――――――


「望むところじゃ救世主! ワシらの全力全霊でもって、叩き潰してくれるのじゃ!」


 まだ見ぬ救世主に闘志をみなぎらせるウーマシーカーは、黒装束をばさりとひるがえし、部屋の中央に顔を向けた。

 大部屋、そこにある円卓へ、ウーマシーカーは声を張った。


「そうじゃろう!! 我が同士よ!!

 ともに自由恋愛禁止を成就させるべく集まった、自由恋愛絶対禁止暗黒幹部たちよ!!」


 落雷がひとつ。

 まばゆい光が、円卓につく面々を白く照らした。




「私は強い……誰よりも……

 私に相対すれば、どんな強者の戦意も、ただ折り取られる……」


 漆黒の鎧と兜を身にまとい、肌も顔もまったく見せない黒ずくめの騎士。

 暗黒騎士ホーン!




「あ、あたしに期待してもぉ、無理だからぁ……あぅぅ、あたしなんてぇ、そこらのゴミと同じ、というかそれ以下のぉ、ゴミクズだからぁ……」


 ぷるぷるふるえて卑屈な表情をする、ぼろきれをまとった二本角の少女。

 デビル幼女ドエィム!




「救世主がどんな髪をしているのか、アタクシとっても興味があるわ。

 その偉業に見合う美しい髪なのか。アタクシが切る価値のある髪なのか。会って、見定めてみたいわね」


 ハサミをチョキチョキと鳴らす、美しい金髪を流したうるわしい男性。

 カリスマ美容師カミキレー!




「結局はですねぇ、おいしいものを食べるのが、一番の解決策なんですよねぇ。

 誰もがうなるおいしいお寿司を食べることができたら、争いなんてなくなるって、ぼくはねぇ思うわけですよ」


 白い職人服をまとい、円卓に見事な握り寿司を並べる柔和そうな男。

 寿司職人ツマゴ!




 また落雷が光って、室内を照らした。

 ウーマシーカーは面々を見やり……それから、じとりとした目を向けた。


「……いや、全員そろっておらぬぞ!? なんで四人しかおらんのじゃ!?」


 デビル幼女のドエィムが、おずおずと声を出した。


「あ、あのぅ、ここ大陸のすみっこで遠いからぁ、まじめに働いてる幹部さんほど集合しにくいっていうかぁ……

 あぅ、つまり、あたしは全然働きもしないゴミクズってことでぇ、おこがましくもウマちゃんと同じ空気を吸ってごめんなさいっていうかぁ……」


「何言ってるのじゃドエちゃん!!」


 ウーマシーカーはドエィムの手をひしりと取った。


「ドエちゃんはめちゃくちゃかわいいからいるだけで働いてるのじゃ! 爆アドなのじゃ!

 ドエちゃんがいるだけで、我ら自由恋愛禁止軍団は勝利も同然なのじゃ!」


「ウマちゃんっ……! ありがとうぅ……!」


 ひしっ。幼女と幼女は抱き合った。

 それを横目に、カリスマ美容師カミキレーはハサミの手入れをしつつ言った。


「ま、確かに『ハカリマ』ちゃんはまじめよねぇ。

 救世主が現れるってうわさの場所に、マッチョーネちゃんを除けば一番近い場所にいるわけだし。

 今もあの街で潜伏を続けて、救世主を待ち伏せしてるはずよ」


 暗黒騎士ホーンは、窓の外に顔を向けた。


「ハカリマほどの実力者ならば……マッチョーネを破るほどの強者に対しても……不足なく戦えるだろう……」


 寿司職人ツマゴは柔和な笑みを崩さず、ふところから写真を取り出し、語りかけた。


「ただおいしいお寿司を食べてさえいれば、愛や恋で悩んだり争ったりすることもないと思うんですけどねぇ。

 ねぇ……おまえも、そう思うでしょう……」


 窓の外、暗雲は立ち込め続ける。

 また落雷が、面々を白く照らした。


――――――


・ラブバカ豆知識


ツノが生えてるのはそういう人種。

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