第5話 バカップル参上!4

 マッチョーネは大胸筋をピクピクさせた!


「アホなこと言ってるバカップルも、マッスルでハッスルだマッスル! 筋肉魔法マチョカリプス!!」


「よけるよアイリ!」


「リードしてねコイチロー!」


 マッチョーネから放出されるビーム攻撃、それを二人は社交ダンスのような華麗なステップでよける! よける!

 フィールドを優雅に駆け回り、桃色オーラの軌跡が残り香のように足跡を残す!


「なかなかやるマッスル! だがまだまだマチョカリプス!」


「このままよけ続けるよ……はっ!?」


 かわしたビームが、突如反射してきた。

 いったい何に反射を? コイチローは目を向けた。

 それはオイルのびん! さっき塗って投げ捨てたものだ!


「まずい、よけられな――」


「危ないコイチロー!」


「アイリっ!?」


 とっさに位置を入れ替えて、アイリがマチョカリプスの光線を食らった!


「ああーーッ!!」


「アイリーっ!!」


 アイリはうずくまって苦しみ、そして。


「ああァァーッ!! マッスルハッスルー!!」


 筋肉もりもり肥大化し、両腕が胴体より太くなり、体と顔のサイズ比率がしゅうまい本体とその上のグリーンピースみたいな状態のムキムキマッチョに変身した!


「うえ〜んコイチロー、マッチョになっちゃったよ〜! こんな変わり果てたわたしじゃ、コイチローに愛してもらえないぃ〜!」


「ははは、何言ってるんだよアイリ。きみの何が変わり果てたって?」


「だっ、だって、こんな筋肉モリモリでシルエットの何もかも変わっ、んむっ!?」


 コイチローは唐突に、アイリのもりもりの肩に腰かけ、はち切れそうな胸筋にうずもれたあごをクイッと持ち上げ、キスをした。

 熱烈な口づけ。絡み合うくちびる。官能的な水音。

 腕立てをしていたツッコも思わず中断し、きゃーっと両手で目を隠した。

 そしてぷはっと吐息とともにくちびるが離れると、コイチローは優しくささやいた。


「ほら、くちびるの感触は変わらない。そうだろう、アイリ?」


「コイチローっ♡♡♡ うんっなんにも変わりなかったよ! くちびるの感触もあなたの愛の熱さも、わたしがあなたを愛する気持ちも!」


 桃色オーラを展開して、二人はイチャイチャした。

 ときめきによってアイリの女性ホルモンがモリモリ高まり、そして。


「なっ何ィィーマッスル!? 女性ホルモンがマチョカリプステストステロンの作用を上回って、筋肉が中和されたマッスル!?」


「僕たちの愛の力があれば、望まない筋肉くらい簡単に分解するよ! そして!」


 マッチョーネは足元を見て、気づいた。

 地面に残る桃色オーラ、その軌跡はハートマーク! 社交ダンスのステップで描かれていた!

 その軌跡は結界としてマッチョーネの脱出をはばみ、そして中にはアイリの筋肉の分解産物が満ち満ちる!


「筋肉を愛するきみなら分かるはずだね。筋肉の原料、それはプロテインだ。

 そしてプロテインは窒素を含む。窒素はそして、爆薬の原料にもなる!」


 愛の化学変化によって生じた爆薬ニトロが、バカップルへの嫉妬で引火!

 コイチローはアイリを抱きしめ、アホ毛をハートマークにして唱えた。


「世界の嫉妬が僕らに求める、すなわち『リア充爆発しろ』と――食らえ必殺ラブラブ奥義! バカップル☆ボンバー!!」


「ぎゃああああマッスル〜〜!!」


 愛と嫉妬の爆発が炸裂!

 マッチョーネは逃げ場なくその爆発を受け、全身黒こげになって空の彼方へ飛び去り、星になった。

 アイリとコイチローは抱き合い、夕焼け(夕方ではない)に赤く染め上げられながら、その星をロマンチックに見上げていた。


 その横で、兵士ツッコが叫んだ。


「……なんなんだよこの戦いはーーッ!!」


「あ、ツッコさんも元の体型に戻ったね」


 ツッコミ疲れたツッコはぜーぜーと息を乱し、そして。


「正直、わけ分かんねーしふざけ倒してるけど……でも、自由恋愛絶対禁止暗黒幹部を倒したのは、事実だ……!」


 顔を上げ、バカップルと向き合った。


「コイチローさん! アイリさん! あんたたちを救世主と見込んで、この兵士ツッコ、お供します!

 どうか、暗黒の帝王により自由恋愛を奪われんとするこの世界を、救ってください!」


 そう言って頭を下げるツッコを、コイチローはまっすぐに見た。

 それからふっと笑い、アイリを抱き寄せた。


「愛しかなくて生きられなかった僕たちが、愛の力で世界を救う存在になるなんてね」


 アイリはコイチローに微笑みかけて、それから空を見上げた。

 夕焼け(夕方ではない)の赤さに目を細めながら、言った。


「わたしは『あの日』、コイチローに救われた。そのわたしたちが、死んでからも役目をもらえるんなら、わたしたちの愛は大きな意味があるんだよ。

 やっちゃおうよ、コイチロー。世界は、愛の力で救えるって、証明しちゃおう」


「アイリ……ああ、そうだね。前の人生でやりきれなかったこと、やってみせよう」


 二人は寄り添い、アホ毛をハートマークにして、夕焼け(夕方ではない)に向かって、宣言した。


「「ここからは、愛が世界を救う物語だ」」




 ――これは、世界を救う物語。

 そしてひたすら、バカップルがバカをやる物語。

 バカップルのコイチローとアイリ。そして兵士ツッコの冒険が、今、始まった。


――――――


・ラブバカ豆知識


以後マガリカドデパン村は、いつでも夕焼けが見られる村となり、観光名所として発展した。

今日も村のどこかで、夕焼け(夕方ではない)に照らされてパンをくわえ、曲がり角でぶつかる観光客がいるのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る