第3話 バカップル参上!2

 悪者は屋根の上に立つ二人組へ叫んだ!


「おまえらはいったい何者だワルモノ!? 変な高笑いしやがってワルモノ!」


「いや悪者のあんたもたいがいだったけどな!?」


 悪者にツッコみつつ、兵士ツッコも見上げた。


 そこにいるのは、太陽を背負い逆光となった一組の男女。

 ツッコと同年代の二十歳くらいで、男はさわやかな雰囲気の黒髪、女はくりくりとした目と栗色の髪。

 村人の質素な服装だが、どちらの服にもおそろいのハートマークがあしらわれた、いわゆるペアルックである。

 そして二人の頭頂には、立派なアホ毛がみょいーんと伸びていた。


 二人は高らかに声を上げた。


「名乗るほどの者ではないが! 求められたなら答えよう!

 僕の名はコイチロー! バカップルの彼氏の方!」


「わたしの名はアイリ! バカップルの彼女の方!」


 そして二人は背中合わせに寄り添い。

 二人のアホ毛が組み合わさって、ハートマークを作り出した。


「「二人はバカップル!!」」


 ばばーん。そんな効果音が聞こえた気がした。

 実際、鳴った。二人が発するよく分からん桃色のオーラから。


 男は悪者たちに向けて、ウインクした。


「ここからは、愛が世界を救う物語だ」


…………。


…………。


 沈黙。しばし沈黙。

 そして我に返った悪者が、怒鳴った。


「ふざけるなー! バカップルがどーしたワルモノー!

 そもそも自由恋愛禁止の我々の目的に対して、バカップルなんぞ真っ向からたてつく罪人だワルモノー!」


「ど、どうしようコイチロー!? わたしたち罪人だって!?」


「ふむ、アイリ、それは仕方のないことかもね。見方によっては、バカップルは確かに罪深い存在だ」


「そんな! わたしたちはただ、心のままに恋を楽しんでるだけなのに!

 誰もが自由に謳歌するべき恋愛が罪だなんて、わたしは納得できないよ!」


 ぷりぷり怒る女・アイリに対して、男・コイチローは、優しく手を取った。


「だって、そうだろう? 恋をするっていうことは、その人一人が全世界の誰よりも特別だって思うことだ。

 それってつまり、全世界のすべての人を、その相手よりも見下すという傲慢ごうまん極まりない罪じゃないか」


「コイチローっ♡♡♡ そうだよねっわたしはコイチローが! コイチローはわたしが! 世界で一番いっちばん大事!

 それってすっごく罪深い! でもいいの! わたしはコイチローとなら、地獄に落ちたってバカンスだよ!」


「アイリっ!」


「コイチローっ!」


 ひしっ。二人は抱き合った。

 なんと熱々なバカップル。太陽すらも嫉妬しかねない。

 実際、した。

 二人の愛のラブバカオーラにイライラした太陽が、海水すらも干上がらせるような灼熱太陽光を二人めがけて降り注がせた。

 だがその光は、二人のラブラブ桃色オーラによって屈折歪曲。

 目標がそれて、着弾したのは。


「あぎゃぎゃぎゃめらめらワルモノーーっ!?」


「悪者に集積太陽光が直撃したーー!?」


 悪者は黒こげになって倒れた。

 ツッコはがくぜんとし、そして思った。


「特別な訓練と魔力強化を受けている自由恋愛禁止軍団を、こうもあっさりと倒してしまう能力……!

 まさか、あの二人が、この世界を救う救世主!?」


 ツッコはバカップルを見上げた。

 そのときバカップルは。


「アイリ♡」


「コイチロー♡」


 ちゅっちゅちゅっちゅ。ぶちゅちゅちゅちゅー。


「……認めたくねぇぇーーーー!!」


――――――


・ラブバカ豆知識


村長の本名はシーチョ。

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