第10話 正式結成?

 バンド名を決めるための会議(仮)が始まってから、約一時間。


「⋯⋯っもー! 難しすぎるよ、名前決め!」


「どうどう。落ち着いて、ユリ」


「バンドの方針は決まったけどさ。誰もネーミングセンスが無いっていうのは聞いてないよ、もー!」


 ふい、と皆して目を逸らす。

 それほどまでに、この場にいるメンバーのネーミングセンスは壊滅的だったのだ。この三十分の間だけで、俺達はその事実を理解していた。


「一応、これまでに出た案はノートにメモしてありますが⋯⋯読み上げますか?」


「やめとけ、涼。全員がダメージ喰らうだけだ」


「⋯⋯了解です」


 余計なことをしでかそうとした涼をすぐさまストップ。

 何を隠そう、俺もネーミングセンスが無かったメンバーの一員だったのだから。


 本当に難しいんだよなぁ、これが。

 それっぽい単語を思い浮かべたとして、涼達五人のイメージにピッタリかと問われたら、全部が全部微妙に当てはまらないものばかり。

 最終的には逆転の発想ということでむしろ誰の特徴も捉えていない名付け案を出したりもしたが、余計に頭がこんがらがって厨二臭いネーミングになってしまったり。


 兎にも角にも、ひたすらに難しい。

 将来的に子供が出来たとして、マトモな名前を付けてあげられるか不安にすら思えたレベルだった。


「結局、一番マトモっぽいのは最初に矢継が言ってたヤツか。⋯⋯なんだっけ、リラだとかルラだとか言ってたろ」


「LILY、ですね。ちなみに同じ名前のバンドが検索したら出て来ました」


「ダメじゃねーかよ」


 まあ予想はしてたけど。


「バンドの方針とかは決まったんだけどね。オリ曲メインで、ジャンルはロック⋯⋯うーん。つっちー君、他に何かいい案ないの?」


「なんでいちいち俺に振るんだよ、鴾浦は」


「んやー、客観的な意見はいっぱいあった方が良いかなって」


「⋯⋯それは確かにそうかもしれん。だけどなぁ⋯⋯」


 鴾浦の事だから適当に俺へと話題を振ってるものかと思ったが、理由を聞いて納得。

 確かに納得はしたが、しかしやはり怪我をする予感しかしないがために口篭る羽目に。


「こうなったらさ、安易でも良いから私達の名前の頭文字で作ろうよ! それが一番楽だもん!」


「子音が無いから難しいと思います⋯⋯」


「それに、その方法だと鶴賀君の名前を入れるかどうかで悩む事になる。ユリだったら六人分の名前を使いたがるだろうし」


「うぅ⋯⋯早くも暗礁に乗り上げた気分だよ⋯⋯」


 秦野は何やら倉科と矢継にダメ出しを喰らったらしく、落ち込んでいる。

 さて、このままだと名前のないバンドグループが出来上がってしまうのも時間の問題だが、どうするか⋯⋯。


「語感は大事だよなぁ、やっぱ。けどそんなパッと思い浮かぶようなワードもねぇしな」


「そう? つっちー君がさっき言ってたヤツとか、私結構好きだったけどなぁ」


「え。⋯⋯何か言ってたか、俺?」


 記憶に全く無いんだが。

 怪訝な表情を浮かべる俺に対し、鴾浦は軽く首を傾げ。


「さっき洲宮さんと話してた時、リラルラとか言ってたじゃん。語感的には良い感じじゃない?」


「んな事言ってたっけ。涼は覚えてるか?」


「そういえば、確かに"LILY"の単語を思い出せなかった宗次君が口にしていましたね。正しくは"リラ"と"ルラ"で分かれていましたが」


「⋯⋯⋯⋯あー。言った気がするわ」


 完全に無意識の下で口にした内容だから、あまり思い出せないが。

 にしても鴾浦は鴾浦でよくそのワードを引っ張り出せたな。大抵の人は気にも留めずにスルーするだろ。


「でもさ。バンド名が"リラルラ"ってのも変じゃねぇか? 何かもっとこう、意味的なのが欲しいっつーかよ」


「その辺は追加で付け足せば良いと思うよ。例えば、最後にロックってワードを付け足すだけでもそれっぽくなるし」


「"リラルラ・ロック"⋯⋯なるほど」


 何か曲のタイトルとかでありそうなネーミングになったな、と素で感心する。


「秦野ー。お前的にはどう思うよ?」


「⋯⋯へっ? まさか何かいい案が⋯⋯!?」


 フラフラとゾンビのような動きで寄ってくる秦野。どうやら相当に参っているようだ。

 そんな彼女に対し、俺は鴾浦の意見を掻い摘んで説明していく。


 すると、


「おぉ⋯⋯! 凄い凄いっ、一番良いじゃん! もうそれで決定じゃないかなっ!?」


「⋯⋯マジで? まだ結構荒削りな段階な気もするんだが。特に最後のロックの部分とか、鴾浦が何となくで付け足しただけだぞ」


「それでもいーの! だって他の選択肢が無いんだもんっ」


 ⋯⋯なるほど、消去法という事か。

 名付けってのは結構重要なイベントだ。だからこそ、ただ単に消去法で残ったものをそのまま選ぶってのも微妙なとこだと思うんだよなぁ。


「だったらさ。鴾浦の案を元にした上で、皆で考えてみたらどうだ? それなら難易度も下がるだろうしよ」


「うっ⋯⋯。まぁ、確かにそれなら、うん⋯⋯」


 不安要素しか感じられない返事を口にする秦野。

 傍観している立ち位置の俺が言うのも変だが、やはり名付けと言うものはメンバー全員で考えるべきだろう。

 そう思っての提案だったのだが、結果がどう転ぶかは未知数だ。


「⋯⋯じゃ、俺は購買まで行って適当に飲み物買ってくるわ。五人ともお茶でいいか?」


 しばらくの間は俺抜きで話し合って貰った方が良いだろう。部外者の人間が居たら気が散る上、メンバー内での思考もまとまりを見せにくいだろうしな。

 というわけで、俺は涼達の居る空き教室から一時の間退室したのだった。





 ──日も随分と傾き、空が茜色に染まり始めた時間帯。


「お疲れさん。ようやく帰れそうだな」


 午後四時過ぎに始まった会議であるが、気が付けば二時間もの時間を浪費していたらしく、時刻は既に午後六時になろうとしていた。

 学校側が指定している下校時刻まで少しばかりの猶予はあれど、そろそろ帰宅の準備も進めるべきだろう。


 ⋯⋯本当、一時はどうなる事かと。

 今日中にバンド名が決まらない事を覚悟していたのは、きっと俺一人じゃなかったはずで。

 しかし、予想は良い意味で裏切られることなり──結局、割とマトモなネーミングで落ち着いたのがつい今しがたの事。


「つっ⋯⋯かれたぁ〜! ごめんね皆っ、こんなに時間がかかっちゃうとは思ってなくって⋯⋯」


「別にいい。察してたし」


「わ、私も楽しかったので気にしてないですっ」


 思いっきり伸びをして叫ぶ秦野と、そんな彼女をフォローする矢継と倉科。


「──あっ、そうだ!」


 秦野が何かを思いついたように唐突に声を上げ。


「ねねっ。皆で写真撮ろうよ! 結成記念にさっ!」


 次いで、ポケットからスマホを取り出した。


 ⋯⋯写真か。

 確かに残しておけば思い出になるしな、全然アリだろう。

 なんなら五人とも見た目が整っていて絵になるしな。たったそれだけの理由でも欲しがる人は多そうだ。平良とか。


「写真撮るんだってさ。ほら行ってこいよ、涼」


「⋯⋯宗次君は行かないんですか?」


「俺は撮る側に回らせてもらうわ。ほら、五人とも並べ並べ──⋯⋯うおっ!?」


「ほらほらっ。宗次クンは洲宮さんの隣ね! よーし、撮るよ〜!」


 いきなり秦野に腕を捕まれたかと思えば、涼の側へと身体を押され。


「──はい、チーズ!」


 ぱしゃり。


 秦野のスマホから放たれたフラッシュと同時に軽快な音が、夕暮れの空き教室に鳴り響いた。


「⋯⋯おー! 良い感じに撮れたよ、見て見て皆っ!」


 こちらに向けられたスマホの画面を覗き込んでみれば、俺を含めた六人全員がしっかりと写真に映り込んでいる。


 ──とまぁ、こんな感じで紆余曲折を経たものの、"バンドの名前を決める"というひとまずの目的を達成。

 おそらく今日はこのまま解散する流れとなるだろう。そう予測し、俺は教室の床に直置きしてあったカバンを手に取った。


「⋯⋯帰りはどーすっかな」


 どうせ涼と歩いて帰ることになるだろうし、しばらく待っとくとするか。

 そんな事を呑気に考える俺の視線の先で、秦野が両手を大きく上げ。


「よーし、それじゃあ『リラルラ・ロッキンガール』結成ってことで⋯⋯明日からも頑張ろー!」


 と、声高らかに皆を鼓舞したのだった。

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クールな幼馴染がバンドに誘って来たけれど、メンバーが女子ばっかりだったのでアシスタントに志願しました ふりたそ @fleel

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