メジャーリーグで無双していたが異世界の野球はヤバかった

@yoyahiro

第1話 野球星人

「ワァァァァーーッ!!」

その日も彼の本拠地、エンゼルス・スタジアムは湧きに湧いていた。


「ボールが伸びる、伸びる!!おおーっと!またもやボールはスタンドに吸い込まれて行きました!オオヘイ、63打席連続ホームラン!63打席連続ホームランです!」


ボールをいとも簡単にスタンドに放り込み、さも当然と言わんばかりにマウンドを悠々と駆ける彼の名前は、翔谷 大平(ショウタニ オオヘイ)。

「キャーーッ!!オオヘイ!こっち向いてーッ!!」

ファンの黄色い声援に応えたオオヘイが、スタンドに向かって軽くウインクをすると

スタンドにいた大勢の女性ファンが興奮のあまりバタバタと気絶していった。


そう、オオヘイは今地球上で最も脂が乗っていて、人気のあるベースボール・プレイヤーなのだ。

身長230cm体重155kg。JAPANで産まれ育ったが、日本では相手になるものがおらず

更なる強敵を求めて米国のメジャーリーグへと巣立ったものの、彼はメジャーでも頭一つ・・・いや、二つ以上抜けた才覚を発揮していた。

驚愕の年俸は実に100億ドルに到達しようとしている。


「ヘイ、オオタニ!ナイスゲーム!本当にオマエってヤツは・・・アンビリーバブルだぜ!」

ゼネラルマネージャーのボブが親指を立てながらオオヘイに近づいてくる。

強豪チームに113-0で完封勝利したのだから、機嫌がよくて当然だ。


「やれやれ・・・ボブ、オオタニって呼ぶのはやめてくれよ。オレの名前はオオヘイ

オオヘイ・ショウタニだって何回言えばわかるんだ」

タオルで汗を拭きながら答えると、ボブはノンノンと指を振りながら答える

「HAHAHA。オオヘイ・ショウタニじゃ長いし呼びにくいからよ、みんなオオタニって呼んでるんじゃないか、なにか問題でもあるか?

「まあ、好きに呼べばいいさ・・・それじゃ、オレは帰るよ、早く帰らないと地元のスタバが閉まっちゃうんでね。アディオス」


オオタニは颯爽と車に乗り込み、エンジンをかけた。

トレーニングや試合・・・果てはファンサービスやCMの撮影などで多忙をきわめる彼にとって、球場から自宅へと愛車を走らせている時が唯一心が休まる瞬間だった。


「ふう…。今日も疲れたな…。でも…最近張り合いが無いな…。オレはもう金も地位もいらない…ただ、心が燃えあがるような勝負ができる相手が欲しいだけなんだ…

でも、地球上にはもうそんな相手は、とても…」

地球上でトップの選手になった喜びと、相手がいなくなってしまった寂しさの混じった自嘲気味なため息をついていると、突然外から叫び声が聞こえた。


「おい、兄ちゃん!!アブねえぞーーーッ!!!」───


叫び声にハッとしたオオタニが窓の外に向けると、目の前には大型のトラックが迫っていた。

「しまっ・・・もう、間に合わない」───


ドガァァァァン!!ドギャッガァンバリバリバリボボボッブリブリブリズギャアアグシャドッグァァァボボボブリブゥブビズボボッグヮングヮン!!ギャギャギャギャドッゴオオオオオババブビチビチビチッズガガンズガガンピロピロピロウブバババ!!!!!ブビビビィ!!!ドピピッ!!!バァァーーン!!!!ギャギャウ!!!ギエエエエエエェェェッ!!!!!ギョギョゲグゴ!!ボリ!!ビビッベベベベベボベベベギョーンギョーンギョーン!!!!!!ガッガガガズウワアアアーーッ!!!!ンゴロンゴロ!!!!!!ググギゲ!!ボォンボォンッボォン!!ッブリブリブリブリィィィィィ!!!!!ドガァァーーッン!!!!


トラックと正面衝突し、炎上したオオタニの車が夜のハイウェイに転がっていた。


「た、大変だ!警察・・・警察と救急車を呼べ―ッ!!」


薄れゆく意識の中でオオタニが聴いた最期の言葉は、人々の怒声と近づくサイレンの音だった───。




「……ハッ!こ、ここは…?」

オオタニが目を開けると、そこは整備もされていないようなグラウンドの土の上だった。

人々は一様に楽しそうに、思い思いにボールを投げたり、バットを振って幸せそうにしている。


「…草野球か、懐かしいな。オレも昔は近所の空き地で皆と遊んだっけ…」

少年時代を思い出したオオタニが頬を緩めていると、後ろから声をかけられた。


「あれ?ニイちゃん、誰でヤンス?この辺じゃ見ない顔でヤンスね…」

振り向くと、そこには眼鏡をかけた鬼のような男が立っていた。

身長230㎝を誇るオオタニをゆうに超える体躯と、それに見合わぬ少年のような幼い顔立ちが印象的な男だった。

「うわっ!な、なんだキミは!?」

オオタニは驚き後ずさった、見知らぬ地で初めて話しかけられた人物が、人間とは程遠い種族だったのだから当然だ。いくら色々と貴重な経験をしてきた大人物オオタニとはいえ、受け入れられることとそうではないものがある。

「ボクの名前は岩鬼(いわき)…一応このグラウンドを管理してるでヤンス」

岩鬼と名乗った人物は、困惑した顔でそう告げた。

「あ、ああ…ゴメンよ岩鬼君。勝手に入っちゃったオレが悪かった、すぐに出ていくよ」

オオタニは状況を察し、即座に立ち上がり、パン、パンと尻についた土を払い、帽子をとり一礼してグラウンドを出ていこうとすると、岩鬼がせき止めた。

「待つでヤンス。キミのその恰好、野球をやってるんでやんしょ?よかったらちょっとやっていくでヤンスか?」

「え…いいのかい?でも…」

オオタニは、野球を心から愛してはいたが、もはや自身が草野球に混じれるレベルではないことを自覚していた。

自分が和気あいあいと草野球を楽しむ人々の中に入っては、空気を壊してしまうことも───


「アハハ、大丈夫でヤンスよ。小学生一人混じったところで、だーれも気にしないでヤンス」

「…え…?」

オオタニがよく目を凝らしてみると、野球を楽しんでいた人々と思っていたもの達は

みな一様に種族が違かった。

体長4mを超えるであろう竜人…凄まじいスピードでグラウンドを駆け抜けるエルフ

スタンドへまっすぐ飛んでいく弾道を飛んでキャッチする有翼人…いずれも地球では見たことの無い種族だった。

ずっとニコニコしている岩鬼もよく見てみると腕が6本生えていた。


「…一体、ここは…?」

「変なコトを言うでヤンスね…ここは野球星。野球の強さですべてが決まる星でヤンス…一体キミはどこから来たでヤンスか?」

「あ、ああ。自己紹介が遅れてすまない。オレの名前はオオヘイ…オオヘイ・ショウタニ…一応、地球っていう所から来て…地球では結構野球が上手かったんだぜ」

オオタニが少し自慢げに名前を告げると、岩鬼の顔色が変わった。


「オ、オオヘイ⁉も、もしかしてあのエンゼルスのオオヘイでヤンスか!?

野球星でも地球のメジャーリーグの試合はよく放送されてるんでヤンス!

皆、リトルリーグで頑張る選手たちを見て、初心を思い返しているんでヤンスよ~!

こんな所で会えるだなんて感激でヤンス!いっつもキミ達には勇気を貰っているのでヤンス~!」


「…え?」

いま、リトルリーグって言ったか?コイツ?世界中の強豪選手が集められ、トップクラスの技術とフィジカルを競いあうメジャーが、リトルリーグだと?何を言っているんだ?

さすがのオオタニでも、岩鬼が何を言っているのかを理解することがすぐにはできなかった。

そう、彼らの試合風景を見るまでは───



「…これでは、オレ達がリトルリーグと呼ばれてしまうのも無理はないな」

驚愕の試合風景を目の当たりにしたオオタニは、文字通り帽子を取り脱帽していた。

それもそのはず、彼らの繰り広げる野球は、地球の物とは一線を画していたのだから


球速はゆうに300㎞をこえ、変化球はあまりのスピードとテクニックにより本当に消える。盗塁のスピードは時速150km近くにも及び、バットの大きさは地球の8倍…

特にし烈なのはベース周りの攻防で、駆け込もうとするや否や容赦なく竜人族のブレスや、魔族の攻撃魔法などが飛んでくる。

現にオオタニが先ほど目撃した試合でも死者が6人出た。


「…驚いたな、野球星の野球がこんなに凄まじいモノだったなんて…。でも、これだけのメンバーだ、きっとこの星でも上位を争っているんだろうな」


「…とんでもねえでヤンス…。我がチーム…バンバンズは常に下位争い…今年に至っては最下位まっしぐらでヤンス…」

岩鬼はそう言って深刻そうに肩を落とした


「さ…最下位!?このチームが!?ウソだろ、岩鬼!?」

「本当でヤンス…、野球星では野球の強さこそが全て…最下位になったチームは野球権をはく奪され、奴隷の身分に落とされてしまうんでヤンス…。ボク達がこうして野球ができるのも、今年一杯かもしれないんでヤンス…」

岩鬼は寂しそうに、6本の腕で器用にグラウンドにローラーをかけている。

その後ろ姿はどこか悲しげで、250㎝を超える巨体の背中が随分と小さく見える。


オオタニは、地球で用いられている野球ボールの約6倍の大きさ、ボウリング球ほどあるボールを拾い、岩鬼に突きつけ叫んだ。

「…なあ、岩鬼…オレをこのチームに入れてくれないか。オレがこのバンバンズを優勝に導いてやる!」


「な、なに言ってるでヤンスか!気持ちは嬉しいけど…キミには無理でヤンスよ!

腕だって二本しかないし…体格だって小学生並みなのに…

悪いことは言わないでヤンス。きっと探せば地球に還れる方法もあるでヤンス…

だから、大人しくしてるでヤンスよ。キミがこの星で野球をやったら、本当に死んでしまうでヤンス」


オオタニは、岩鬼の言葉には反応せず、黙って大木ほどもあるバットを二本担ぎ上げ

ボールを打った。

ドッギャアアアァァァァン!!!!

凄まじい打球音をあげ、ボウリング球ほどあるボールは、スタンドへと吸い込まれていった───


「オレにはこの二刀流がある!!」


オオタニの新天地での野球人生が、今始まろうとしていた───。



















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