第三章 ヴェルデ帝国
ヴェルデの首都までは、目的地までノンストップで走るこの王族専用の
……なんて、とりとめのないことを考えているのは現実
「目的が第三皇女の誕生祭というのは
いくつもソファのあるこの部屋で密着するよう隣に座り、私の
『王女と何日も一緒だと思うと気が
「セオドア。申し訳ありませんが、少し一人にしてくれますか?」
なにはともあれ、それとなく解放してあげなければと気を回したつもりだったのだが。
「……やっぱり、エステルは僕のことがお
「ち、ちが──」
しゅんとして私の顔を
「少し
慌てて
「では僕の膝を
「…………お言葉に甘えます」
これも断れば
しかしどうしてこうなってしまったのか。今のは「では、ごゆっくりお休みください」と言って自然に退室できる流れだったはずだ。なのにそうしないということは……そう、わずかな可能性が頭に浮かんだ矢先。
「そもそも僕はエステルの護衛も
そんな
「別に、いざとなったら転移するから
少し期待しただけに、なんとなく上げて落とされたような気になり素っ気ない返事をしてしまった。しかし実際に転移魔法はアカルディの王族の女性以外に使える人もいないし、離れていれば足手まといになることも無いし……的外れなことは言っていない、と思う。
すると、はああと長いため息が聞こえてきたので見上げれば、セオドアが私を撫でながら苦笑いを浮かべていた。
「エステルにとって僕の傍が一番安全だと思っていただけるよう、もっと強くならなければいけませんね」
「そ、そういうことではありません! セオドアは
「それなら大丈夫です。エステルを
そんな
「……
セオドアがヴェルデに同行することはこれが初めてではない。だが、普段は彼のコルが今座っている、ローテーブルを
「あれは……いかにも護衛の為にいますという姿勢をとってないと、追い出されるかと思っていたので」
「……否定できませんね。ですが、こんな体勢では動きづらいのでは?」
「剣を使わずとも魔法でどうにでもできますから」
「なら、いいのですが」
何にせよこの状態を
「何があっても僕が
落ち着いた彼の声はどこまでも
● ● ●
それから問題なく旅路は進み、予定通りの日程でヴェルデの城へと
「久しぶりだな、エステリーゼよ」
「
「良い良い、そんなに
「ありがとうございます、光栄です」
「本当に、次期女王でさえなければディアークの妻にと望んだのだがなぁ。実に
ディアークはまだ
つまるところ今のは皇帝陛下の冗談だ。冗談なのだが……なんだか後方に
「父上、俺の暗殺者候補を増やさないでいただきたい」
皇帝陛下の言葉に返事をしたのは同席していたディアークだった。彼が
セオドアはディアークに婚約者がいることを知らない。だから皇帝陛下の言葉に
『この人が次期女王でなければ、婚約せずに済んだんだよな……』
と肩を落とすセオドアのコル。慣れたもので、私はそんなことだろうと思っていた。
「はは、すまんすまん。エステリーゼは愛されているなぁ」
皇帝陛下はセオドアの表情を
『──にもかかわらずドロテーアはいったい何を考えているのか。誕生祭のパートナーとしてセオドア
などという大変
『やたら自信満々だったのも不安だ……何か問題を起こさなければ良いのだがなぁ』
着いて早々ではあるが、既にセオドアを連れてきたことを
できる限り早急にドロテーア皇女に会って、何を
謁見も終わると、
「部屋まで送る、いつものとこだろ?」
「……
彼の申し出を意外に思ってそんな言葉を返した。てっきり彼のことだから、セオドアがいるなら席を外すだろうと考えていたのだ。
現にセオドアは所有権を主張するかのように私の
「いいじゃないか、久しぶりに会ったんだからさ」
『こいつらの
「……確かに久しぶりね」
ゲンナリした顔でため息をついたディアークのコルが言う、あのバカとはドロテーア皇女のことだろう。皇帝陛下やディアークには
そうしてディアークも
「セオドアー!!」
「もういらしていたの? お
「だ、第三皇女
「もうっ、ドロテーアと呼んで
天高く
「……
「あら、貴女もいらしていたのね」
セオドアに夢中で聞いていないだろうが、一応
セオドアは何とか自らにしがみつくドロテーア皇女の
「おい、ドロテーア。人の婚約者に気安く
「お兄様に言われたくないわ。お兄様ってばこの人と
「俺たちは友人だからな。お前のそれは
「あーらぁ! すぐに横恋慕じゃなくなるわ!」
「お前……」
そんな目前で行われる
『このムカつくベール女を
え? と言いたくなり
ましてや婚前交渉が禁じられていると言っても過言ではないヴェルデにおいて既成事実など……もし本当にそうなれば、いくら相手が次期女王の婚約者といえど、責任を取らせようとすることはさほど不自然な話ではない。
とはいえ、実際に既成事実が作れるかどうかはまた別の話だ。たとえ力ずくだろうがなんだろうがセオドアがそう簡単に
『
「今は忙しいからもう行くけれど、また会いに来るわ! それでは御機嫌よう」
許すはずがない……のだが。自信満々に去っていくドロテーア皇女の背中を見ていると、不安が
「はぁ……二人ともすまない。問答無用で
「貴方が謝ることじゃないわよ」
ディアークは申し訳なさそうに
「そう言ってくれると助かるよ。セオドア
「ご
その日の夜。ディアーク曰く実質私専用になっているという客室のリビングルームにて、私はセオドアと共に夕食をとっていた。滞在している
「……エステル、先ほどは申し訳ありませんでした」
「ええと、何のことでしょうか」
メイン料理の皿が下げられデザートの用意がされている最中、セオドアがふいに口を開いた。謝罪されるような心当たりが思い
「第三皇女のことです。無理を言って同行させていただいたにもかかわらず、結局あの有様で……」
「ああ……そのことですか。でしたらディアークにも同じことを言いましたが、貴方が謝ることではありません」
王女の私ですら強くは出られないのだ。大
「
その様を想像したのか、彼は
「仮にそうだとして、セオドアも私に謝罪を求めないでしょう」
これ以上思ってもいない
まず美しく
「……っ!!」
チョコレートの中から、
油断していた為、
「エステル!!
私の異変をいち早く察したセオドアが、すぐに
「きゃあ! 殿下!!」
「私医師を呼んできます……!」
「お前、何をした!」
「わ、私は何も知りません……!」
『毒……!? どこで混入したというんだ!』
侍女がバタバタと
読心
そもそもこれは酒であって毒ではないが、アルコールは体質的に受け付けないことは伝えてあるので、
視界がぐるぐる回り、息苦しくなって、これ以上は、何も、考えられ、ない──。
「エステル……!!」
私の名を
心が読める王女は婚約者の溺愛に気づかない 花鶏りり/角川ビーンズ文庫 @beans
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