第五話 魔王の眷属
「すまんな、わしの眷属が悪さをして」
「いっいえ全然大丈夫です」
イーワという魔王のその眷属は俺の顔の上で暴れた後に魔王から注意を受け、俺への攻撃を中止し、魔王の肩に乗った。
なんだあの生物?あんなの初めて見た。蝙蝠…にしてはでかいし、角も生えてる。
既視感の無いその生物を俺はまじまじと観察するが見覚えはまるでない。
「あの、その生物は一体…」
「さっきも言った通り、こいつはわしの眷属のイーワだ」
「なんの種類の生き物なんですか?」
「小さいから分からんかもしれんがこいつはワイバーンだ」
「今の俺はこんなに小さいけど、それはここのやつらにこんな弱っちい姿にされただけで本当はもっとでかいしかっこいい姿をしてるんだ!」
「なっなるほど」
子供のように先ほどから俺にかみついてくるこの生物、どうやら喋れるだけでそこまで知能は高くなさそうだ。
いやまあ、動物が喋れる時点で十分に知能は高いほうか。
というかワイバーンって確か、ドラゴンが二足歩行になった架空の生物だったはず。
じゃあ二足歩行のドラゴン、ワイバーンが生息しているということはもしかしてこの世界には…
「あの」
「ん?」
「もしかしてこの世界にはドラゴンがいるんですか?」
「当たり前だろ?谷や山に普通に生息しておる」
やっぱり。この世界にはワイバーンもドラゴンもいるのか。
まるで俺の元居た世界で造られていた創作物の異世界そのままだな、この世界は。
魔法にドラゴンは存在しているのに科学の力が存在しない。
そんなテンプレートとも言える陳腐なこの異世界に俺は転生してしまったのか…
こんな魔力も武力もない、くそ雑魚人間がそんな世界に…はは。
どうやらここを無事に出れたところで俺に生きる可能性はなさそうだな。オワタ。
完全にお先真っ暗状態に陥った俺はもはや悟りの域に達し、半笑い状態で目から生気が消えていた。
「…おぬし、なんか変じゃの」
「えっ?」
「この危険な世の中において、そんなにも軽率な服装で外をうろつく奴はまずいない。武器も持っていないし、魔力も保持していない。更に世の中のことをまるで知らないその無知さ。言語もこの世界では基本的にアンル語かネビー語しか使用されていないのにも関わらず、おぬしはどちらの言語でも無い、まるで聞いたことのない言語で話していた」
「あっ…それは」
「隠さないで話してくれるぬか。おぬしが話してくれた暁にはわしのことも話そう」
「魔王様が直々に頭を下げているんだ!隠さずに話せ」
やはり魔王、種族のトップというだけあって勘が鋭い。俺の不自然な言動に的確な疑問を抱いている。
でも、俺のことを話したところで果たして信じてくれるだろうか。
異世界から転生してきました…なんて、恐らく信じてはくれないだろうな。
…けど、話したい。この理不尽に打ちのめされた心の悲しい叫びを打ち明けたい。
信じてもらえなくても言葉にして、誰かに聞いてもらえるだけでいい。
例え、その相手が魔王であっても。
「…分かりました。話します。信じてもらえないかもしれないですけど」
「話す気になってくれたか。ならばそんな隅にいつまでも留まらず、もっとこっちへ来て話してくれ」
俺は魔王に手招きされ、部屋の中心へと向かい、自分の身に何が起こったのかを魔王とその眷属に話し始める。
転生者の俺は次期魔王になりました 平等望 @hiratounozomu
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