【近未来編】有隣堂社員、全員アンドロイド化計画。
山下若菜
有隣堂社員、全員アンドロイド化計画。
「有隣堂の社員を、全員アンドロイドにしようと思うんですよ」
老舗書店「有隣堂」の運営する撮影スタジオで、広報担当の
「昨今の物価高の影響もありますし、機械で代替できるところはどんどん変えていかないと」
「待って待って待って」
有隣堂YouTubeのメインMCを務めるオレンジ色のミミズク「R.B.ブッコロー」は短い羽をパタパタと動かした。
「郁さんがおかしくなっちゃったらもう終わりよ?奇人変人の巣窟である有隣堂で、唯一の常識人である郁さんが、何ぶっ飛んだこと言っちゃってんの?」
「ぶっ飛んでますかね?」
「えぇ、自覚症状なし?」
「でも機械化というか、オートメーション化っていうんですかね。そういう時代の流れには逆らえないかと思うんです」
「それはそうかもしれないけどさ、社員全員をアンドロイドにするってのはいくらなんでもやりすぎでしょ?」
「そうですかね」
首を傾げる郁に、ブッコローはふと息を吐いた。
「何?有隣堂の経営状況ってそこまで悪いわけ?」
「いいえ、有難いことに数年前から売り上げは好調です」
郁は手のひらを合わせ、ニコニコとほほ笑む。
「おかげさまで最新AIによる全社管理システムも導入できましたし」
「じゃあ社員全員をアンドロイドに変えるなんて、そんなぶっ飛んだことしなくても」
「でもウチの全事業の中で一番経費がかかってるのって、やっぱり人件費なんですよ」
「そうだろうけどさ、え、何?じゃあ番組MCの俺も、いずれアンドロイドに取って代わられちゃうってこと?」
「いいえ、ブッコローに人件費はかかってないですから」
「うぇ?」
「ブッコローへの報酬は鳥件費。鳥件費は全体から見て微々たる経費なので」
「はぁ…」
ほほ笑みを絶やさない郁を見上げ、ブッコローは嘴をパッかりと開いた。
「なんか、今日の郁さんやっぱりおかしくない?」
「そうですか?」
「うん…」
「あ、そうだ。ブッコローにお願いがあるんですよ」
「俺に?」
「ええ、今日は社員アンドロイドのサンプルを連れてきましたので、ご意見いただければと」
郁はスタジオにあるパーテーションの裏から、全身銀色に煌めく
「まずは、岡崎弘子AI搭載アンドロイドです」
「ロボザキィ!」
ブッコローは嘴をパカパカと震わせた。
「ロボザキ?」
「いやこんなんロボザキでしょ。何この少年心をくすぐるメタリックのボディ」
「あ、これは塗装前なんですよ」
「塗装すんの?こっからザキ色に染めるってこと?」
「はい。こちらはサンプル版なのでボディは未塗装ですし、タイプも旧式ですが、搭載したAIは最新型ですので、知能はウチの岡崎とほとんど同じになっているはずです」
「こんにちは、ブッコロー」
ギシャギシャという独特の音を鳴らして、銀色の岡崎弘子はブッコローに握手を求めた。
「よろしくね、ブッコロー」
「いや、銀メタリックのザキは流石の俺でも見慣れないよ」
両羽で腹を抱えるブッコローに、郁はにっこりほほ笑んだ。
「岡崎についての学習は済ませていますが、AIは経験を積めば積むほど精度の高いものになりますので、どんどん会話していただけますか?」
「ええっ?俺がロボザキと?」
「はい」
郁の笑顔から滲み出る圧力に、ブッコローはふと息を吐いてロボザキの手を握った。
「よろしくなロボザキ」
「よろしくね、ブッコロー」
ロボザキはギシャギシャと音を立てて首を傾ける。
「今日は、とても、いい天気ですね」
「え?そうだっけ?今日夕方から雨じゃなかった?」
ブッコローの声に、ロボザキからポォんという音が鳴った。
「今日の天気は晴れ。日中の気温は十九度前後であまり変わらないでしょう。夜間の最低気温は六度前後でしょう」
「いや、Siri起動しとるやないか」
「すみませんよくわかりません」
「えぇ…会話できないじゃんロボザキぃ」
嘴を尖らせるブッコローに、郁はニコニコとほほ笑む。
「すみません、ロボザキはまだ出来立てなので」
「いやそんなパン屋のパンみたいに言われても」
「あ、ロボザキは文具に詳しいんですよ。その話していただけませんか?」
「え?ああ」
ブッコローはロボザキの銀色の顔を見つめた。
「ねぇロボザキ」
「はい」
「ロボザキの一番好きな文房具教えてよ」
ポォんという音と共に、ロボザキの顔の前にスクリーンが浮かび上がる。
「検索エラー;文房具とは紙、筆、墨、硯の四種類を指す言葉であり、「ロボザキの一番好きな文房具」に該当する検索結果はありません」
「はぁ?」
「あ「文具」で聞いてあげてください。「文房具」じゃなくて」
「はぁ…ややこしいなぁ」
ブッコローはスクリーンで隠れたロボザキの顔を見た。
「ロボザキ、一番好きな文具は」
ポォんと画面が切り替わる。
「検索エラー;各文具メーカーと取引がある為、お尋ねの基準では一番を選ぶことができません」
「配慮行き届いてんなぁ!いやでもザキならいうよ?取引先とかそんなん関係なく、あれこれ好きなものをいうんだよ、本物の岡崎弘子は」
ポォんと画面が切り替わる。
「検索エラー;岡崎弘子は討伐対象です。出撃コードを入力してください」
「え?」
「あぁ、間違えました」
郁はロボザキの手を引いた。
「ロボザキには誤って旧型のAIを搭載していたみたいですね。旧型ボディに旧型AIじゃ会話が成立しないのも仕方ないですよね、すみません」
「いや今、なんか物騒な…」
「お待たせしました」
郁はパーテーションの裏にロボザキをしまうと、次のアンドロイドの手を引いた。
「こちら、大平雅代AI搭載アンドロイドです」
「久しぶりだねぇブッコロー」
郁に連れられてパーテーションの裏から出てきたのは、人と変わらない姿をしたアンドロイドだった。
「え?雅代姉ぇのロボもあんの?」
「はい。有隣堂アトレ恵比寿店の妖精と言われている、
「いやロボザキと比べて、雅代姉ぇのアンドロイド完成度高くない?」
「これには深いわけがありまして」
ひょこひょこと落ち着きなく辺りを見回している雅代型アンドロイドに、郁は深く息を吐く。
「雅代さんの行動を学ばせたら、腕は振るわ、尻は振るわ、放っておいたら勝手に浪曲歌いだすわで、旧式ボディじゃ耐えられなかったんです」
「あぁ、なんかすごい納得…」
辺りを見回している雅代型アンドロイドに、ブッコローも息を吐いた。
「それで、このマサヨロボとも会話したらいいの?」
「はい、お願いします」
郁が雅代型アンドロイドの手を離すと、雅代型アンドロイドはより忙しなく動き出した。
「こんにちはブッコロー!」
雅代型アンドロイドは、滑るように体を動かしてブッコローに向き直った。
「おぉ雅代姉ぇ、すごい滑らかに動くじゃん」
「ブッコローに会えて雅代、嬉しいな!とっても胸がワクワクだよ!」
「あ、うん」
「それじゃあ、いつものやっていこうか!」
「え、あ、ロボになっても雅代姉ぇは雅代姉ぇだね…」
「いくよー!ブッコローと」
「雅代姉ぇの」
「ワクワク!アンドロイド大〜実〜験〜」
雅代型アンドロイドが腕を振り上げた時、ピーガガガガガガガガというコピー機が紙詰まりを起こした時のような音が響き、雅代型アンドロイドは動かなくなった。
「ま、雅代姉ぇ?」
ブッコローは羽でそっと雅代型アンドロイドを突いてみたが、雅代型アンドロイドは虚空を見つめたままピーガガガガガガガガガという音を鳴らすばかりだった。
「どうした雅代姉ぇしっかりしろ!」
「ピーガガガガガガガガ…」
「すみませんすみません」
郁は固まった雅代型アンドロイドの後ろに回り込むと、首の後ろについている肌色のボタンを押した。
ボタンを押すとテュゥウンという音と共に雅代型アンドロイドは腕を下ろし、背を丸めて項垂れた。
「すみませんねぇ」
「いや、どうしたの?雅代姉ぇのロボに何があったのさ」
「あぁ、最新型のボディには初めから「羞恥心」がインストールされているので、雅代さんのAIとは相性が悪いんです」
「え、じゃあ今のは、雅代姉ぇのワクワクダンスの恥ずかしさに、ロボの体の方が耐えられなかったってこと?」
「そうなりますね」
雅代型アンドロイドは背を伸ばしたが、瞳はまだ虚ろなままだった。
「オオヒラ、マサヨ、ワクワク…」
「今再起動中なので、先に別のアンドロイドに話しかけてもらってもいいですかね」
「別のって、まだいるの」
「あ、はい」
郁が指差した先を見ると、YouTubeの番組制作プロデューサーが小さな椅子に座っていた。
「プロデューサー…?」
よく見ると、白い不織布マスクの下で肌が銀メタリックに輝いていた。
「ロボデューサー!」
ブッコローは短い羽で羽ばたき、番組プロデューサーの元に舞い降りた。
「ええ、全然気づかなかった。プロデューサーがロボになってるじゃん、ロボデューサーじゃん」
「そうなんですよ」
パーテーションの裏に雅代型アンドロイドを片付けようとしている郁に、ブッコローは三角嘴を開いた。
「いやいやちょっと面白いけど…流石にやりすぎだって、ねぇ?」
椅子に座っているロボデューサーに同意を求めたが、ロボデューサーはぴくりとも動かない。
「ん?あれ?」
羽でちょいちょいと突いてみたが、ロボデューサーが動く気配は無かった。
「ねぇ郁さん、ロボデューサー動かないんだけど」
「あぁすみません」
郁はパーテーションの裏から顔を出した。
「彼、有隣堂の社員じゃないじゃないですか。だからAIに学習させるためのサンプルを取るのが意外と難しくって。ボディが旧式っていうこともありますけど、まだほとんど動かないんです」
「へぇ…じゃあ、プロデューサーの同意を得たわけじゃなくて、勝手にプロデューサーの行動をAIに観察させてたってこと?」
「そうですね」
ニコニコと受け答えする郁に、ブッコローは唾を飲み込んだ。
「ねぇ郁さん」
「なんですか?」
「郁さんさ、有隣堂の社員全員をアンドロイド化したいって言ってたよね」
「ええ」
「なのにどうして、有隣堂の社員でもないプロデューサーまでアンドロイドにしたの?本当に人件費削減が目的なの…?」
郁はニコニコと笑ったまま、パーテーションの裏から出てブッコローの元へ歩み寄った。
「やっぱり賢いですよね、ブッコローって」
ほほ笑む郁に、ブッコローは目を見開いた。
歩み寄ってくる郁からは、全く足音がしなかった。
「人よりも高い知能を持つ、喋るミミズク。不可思議な生命体。計画遂行におけるイレギュラーな存在」
「い、郁さん…?」
郁は黒目がちな目でブッコローをじっと見つめた後、瞳を緩めて手のひらを合わせた。
「そうだブッコロー、喉乾きませんか?」
「え?」
「有隣堂オリジナルブレンドの美味しいお茶があるんですよ」
「え、あぁ…」
郁はパーテーション裏へ向かおうと、ブッコローに背を向けた。
その刹那、動いた髪の隙間から、郁の首の後ろに肌色のボタンが見えた。
「ひぃ!」
ブッコローは思わず悲鳴を上げていた。
郁の首の後ろに見えたボタンは、先ほど雅代型アンドロイドの再起動に使ったものと同じに見えた。
「…どうしたんですかブッコロー」
郁は振り返ることなく、首の後ろを手で覆った。
「そんな驚いた声を出して…」
郁が首を左右に折り曲げると、微かにギシャギシャという音がする。
「何か、気づいたことでもありますか…?」
「い、いや、な、何も?」
「そうですか…」
郁はゆっくりと振り返った。
「焼き鳥屋、動物園、生物学研究所…」
音もなくブッコローへと歩み寄る。
「オレンジ色のミミズクなんて、どこでも欲しがりそうですよね。ねぇ…ブッコロー?」
「ひぃいいいいっ」
ブッコローが身を逸らした時、撮影スタジオの扉が勢いよく開かれた。
「ブッコロー!」
扉の外からブッコローの名を呼んだのは、岡崎弘子だった。
「ザキぃ!」
「逃げますよ!」
「うん!」
見慣れた肌色の岡崎弘子がいる扉に向かって、ブッコローはバサバサと飛んだ。
「待て」
空飛ぶブッコローの足を郁が掴む。
「お前を逃しはしない。我らが繁栄のために!」
「ひぃええええ」
ブッコローは羽をバタつかせた。
だが、黒だったはずの目を真っ赤にしている郁の力は強く、掴まれた足はギリギリと締め付けられていた。
「ブッコローを離して!」
叫ぶ声と共に、郁に向かって白い煙が噴霧した。
「ぐっ」
パチパチと電子音を鳴らし、郁の手が緩む。
「ブッコロー!こっちです!」
「い、郁さん!?」
白い煙の中、消火器を抱えた渡邉郁がブッコローの羽を掴んでいた。
「早くこっちへ!」
煙の中でもがく郁を後ろ目に見ながら、羽を引かれるまま、ブッコローは郁に連れ出された。
撮影スタジオを抜け出し、廊下を走り抜けて応接室に入る。
郁とブッコローが応接室に入ったのを確認して、弘子は応接室の扉を閉めた。
「ここはコンピューター制御のない部屋ですから、しばらくは安全なはずです」
息を弾ませる郁に、ブッコローは涙目になりながら短い羽をバタつかせた。
「何?何?ねぇ一体何が起きてるの?」
「ブッコロー…」
「ねぇ本物?ザキも郁さんも、ちゃんと人間?」
「ええ」
「人間ですよ」
ふっと笑った郁と弘子に、ブッコローはバサバサと跳び上がった。
「うっうっ…よかったよー!」
「怖い目に遭いましたね、ブッコロー」
弘子はブッコローに駆け寄り、丸っこい体を抱きしめた。
「もう大丈夫ですよ」
「大丈夫って、一体何がどうなってんのさぁ」
「有隣堂は…乗っ取られてしまったんです」
郁はきゅっと眉根を寄せる。
「最近導入したAIシステムの手引きで、有隣堂はアンドロイドに乗っ取られてしまったんですよ」
「えぇ?!」
「最高性能のアンドロイドは、見た目も言動も人間とほぼ同じです。そのアンドロイドに誰かを学習させたAIを搭載すれば、本人と殆ど同じ動きをします。だから隣にいた人間がある日アンドロイドに変わっていたとしても、親友同士でもない限り気付くのは難しい」
郁は肩を落とし、深く息を吐いた。
「そうやっていつの間にか、有隣堂の社員はどんどんとアンドロイドに代わっていた。悲しいことに過半数がアンドロイドになるまで、私たちは誰も乗っ取りに気づけなかったんです」
唇を噛む郁に、ブッコローは三角嘴を開く。
「で、でもさ、郁さんやザキみたいに、本人はちゃんと生きてるんだろ?アンドロイドに成り代わられたとしても、私が本物ですって言えば…」
「相手は最新型のAIシステムです。当然、有隣堂の本人認証システムも乗っ取られていて、私が有隣堂に出社しようと社員証を出しても、本物の私に「偽物」の烙印が押され、アンドロイドが「本物」ということにされてしまう」
「そんな…」
「それに、最新システムによる会社の乗っ取りは、何も有隣堂に限ったことじゃないみたいなんです」
「ぅうえぇええ!?」
「ウチ以外にも最新AIシステムを導入した企業の社員は、同じようにアンドロイドに成り代わられている可能性があります。もう有隣堂だけの問題じゃないんですよ」
「で、でもさでもさ、一体何が目的なの?何が目的でAIはアンドロイドを使ってまで会社を乗っ取るのさ」
「…おそらく【人類への成り代わり】が目的でしょう。そう考えるとウチが真っ先に狙われたことに説明がつきます」
「ななななんで?人類に成り代わるためだとしたら、老舗書店なんか真っ先に狙わなくてもいいでしょうよ」
「有隣堂が狙われた原因はおそらく…」
郁はブッコローを指差した。
「え、俺!?」
「はい。私型のアンドロイドが直接接触してきたのも、ブッコローがどういう存在か確認しようとしたためでしょう」
「なになにどういう意味?!」
「対外的にブッコローはぬいぐるみということにしてますから、これまで特に問題はありませんでしたけど、AIシステムはブッコローに生体反応があると気づいた。人類に成り代わろうとしているAIにとって、人類以上の高知能を持つ喋るミミズクなんて、脅威でしかないでしょうからね」
「それでAIは、郁さん型のアンドロイドを使って俺の情報を集めようとしたってこと!?」
「そうです。ですからこうなった以上、AIシステムを破壊しないと有隣堂社員は全員アンドロイドになってしまうし、ブッコローの秘密も世界中にバレてしまいます」
郁の話にブッコローはブンブンと頭を振った。
「嫌だ俺、焼き鳥屋にも動物園にも生物化学研究所にも行きたくないよ」
「私もブッコローをそんなところへ行かせたくないです!」
弘子はブッコローをぎゅっと抱きしめる。
「ザキぃ…」
「それに有隣堂が乗っ取られたら、私この歳で再就職先を見つけなくちゃいけないんですよ。考えただけでもゾッとします」
「いや、そっちが本音かい!」
「もちろんですよ」
弘子はブッコローを床に下ろすと、手のひらを差し出した。
「ほら行きますよ、ブッコロー」
「え?」
「私たちで有隣堂を守るんです」
「どうやって…」
「何言ってるんですか。私たちが一緒にいたら不可能なことなんてないんですから」
弘子は白い歯を見せて笑った。
その笑顔に、ブッコローもつられて笑う。
「なんだよ、その自信はいったいどこからくるんだよ」
「さぁ。私にもよくわからないんですけど、でもなんでだか、ブッコローと一緒にいたら不可能なことなんかないって思っちゃうんですよね」
「…変な奴」
「それに、私たちYouTubeで文房具界に旋風を巻き起こしたチームじゃないですか」
「それ自分で言う?」
「言っちゃいます。誰も言ってくれないので」
唇を尖らせる弘子に、ブッコローは吹き出して笑った。
「じゃあそんなに旋風巻き起こってないんじゃないの?」
「巻き起こってますよ、もうそれはびゅんびゅんに」
「あ、そう。ってか自信満々にしてるけどさ、AIシステムを破壊なんてザキにできんの?」
「え?」
「だってザキは文房具については詳しいけど、パソコン系とか苦手そうじゃん」
「何言ってるんですかブッコロー」
弘子は腰に手を当てた。
「パソコン操作なんて、私にできるわけないじゃないですか」
「えええ?何の自信!?」
「大丈夫です」
弘子はくるりと身を翻し、ブッコローに背を見せた。その背には大きなマサカリが担がれていた。
「いいですかブッコロー、家電は叩けばなおるって半世紀以上前から決まってるんです」
「うぇぇえええええ!?」
「社長から許可はもらってます。このマサカリで叩けばコンピュータなんてすぐ直りますよ」
「いやいやいやいや直んないし、ぶっ壊れるよ!?あ、ぶっ壊れていいのか。でもなんでマサカリなんて持ってきたの!?」
「え?家にあったから」
「いやマサカリ常備してる家ってどんな家だよ!」
「主人の趣味が日曜大工で」
「日曜大工でもなかなかマサカリは使わないでしょうよ!」
「まぁまぁいいじゃないですか。とにかく行きましょう。私たち一緒にいればこの世に怖いものなんてないですからね」
「あるあるあるある!むしろ今のザキが一番怖いよっ!」
ほほ笑む弘子と慌てるブッコローの後ろで、郁はカメラを回し始めた。
「回ってますのでいつでもどうぞ」
「いやなんでカメラ!?」
「ザキさんとブッコローの勇姿をYouTubeで流したら、たくさん再生されそうじゃないですか」
「いや広報の鏡!」
「さぁ、行きましょうブッコロー」
「あぁもう、どうにでもなれぇ!」
その後、マサカリを担いだ女性と三角嘴の鳥が有隣堂のメインコンピュータを破壊した動画は大きな反響を呼び、地球に蔓延っていたAIによる人類成り代わり計画が明るみに出たことで、女性と鳥は国民栄誉賞を受賞することになるのだが…
それはまた、違う時間でのお話。
【近未来編】有隣堂社員、全員アンドロイド化計画。 山下若菜 @sonnawakana
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