過去と現在と未来【未来】最終話
あの人が店に来てから、数週間が経った。私は自身の行いを深く反省している。当時、国内でも一二を争うほどの暴力団事務所である、讃衲組に入っていた事は事実だ。その罪は認めなければならない。組幹部の罪を着せられた、冤罪だったとしても。
「いらっしゃい」
今日もいつものように店を開けると、既に何人かの客が、軒先に列をなしていた。
「こんにちは!」
「今日も来ちゃったよ」
いずれの客も、前に来店した事のある人たちだ。
私の過去を知れば、彼らはどう思うだろうか。もうこの店には来ないかも知れない。だが、それを私から知らせる必要もないし、できればこれ以降も知って欲しくないというのが私の心の内だ。
「お好きな席にどうぞ」
「ありがとう」
私は何をしているのだろうか。こんな事で罪が償えるとは思えない。自己満足でも良い。店に来た客の人生が真っ暗になり、先が見えなくなった時に、一本のマッチくらいの灯火になれるなら。
-私の罪とは、一体何なのだろうか。
客の注文を受け、厨房に立つ。使い慣れた調理器具と、積み重なった皿。
私の記憶が何かの拍子に消え、もう一度やり直せるのだとしたら、この店をまたやりたいと思うだろうか。
私はそんな事を考えながら、調理に入る。調味料は既に揃っているが、完成とまではいかない。それぞれの料理には、それぞれ合った調味料を調合する必要がある。そうして、焼いたり煮たりする事で、ようやく美味しい料理が出来上がり、客に食べてもらえる。
それは、単純なようで、難しい。楽な料理なんてない。時短したものは、時間をかけて作ったものには勝てない。
私はそう思う。
「お待たせしました」
「わぁ、美味しそう」
「お腹減った!」
「ごゆっくり」
彼らにもそれぞれの人生がある。そんな彼らの笑顔を見る事が、私の人生だ。これからもそれは変わらない。
私が死ぬまで、いや死んでも変わらないだろう。
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ドライフラワーが枯れるまで 小林一咲 @kobayashiisak1
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