第3話 穏やかな日々
叛逆の真相を知ることができてよかったという気持ちと、なぜ私はここにいるんだろうという疑問が残っていました。しかし、先生が平和に暮らしたいと思い、その相手に自分を選んでくれたのかも知れないと思うと、別にその疑問を解消しなくてもいい気がしたのです。
「これからは私と先生の二人で暮らすのですか?」
「姫さえよければそうしたいと思っています」
「先生は私を生かしてくれた恩人ですし…その、先生のお邪魔にならなければお願いします」
「邪魔なんて思うはずありません!…こちらからもよろしくお願いしますね、マイア姫」
先生への気持ちを秘めて、恩人という言葉を理由に一緒に暮らしてもらうことになったけれど、姫と呼ばれることで距離を感じていた。しかし、名前で呼んでほしいと言ったらきっと先生の名前も呼ばなければいけないのだろうと。考えるだけで恥ずかしくなってきた。
「姫?どうしましたか?まだ疲れているのではありませんか?」
先生は私の額に手を当てて熱を測り、脈が正常か確認した。ドキドキしていたので脈は正常じゃない!と先生に気づかれないように、違う話題をしなければいけない。
「先生…私のことを名前で呼んでくれませんか!」
「…えっ?」
「その…もう姫ではないので、姫と言われると違和感があって…」
「いいのですか?」
「もちろんです!ついでに敬語を使うのもやめましょう」
「ええ…わ、わかりました。では…ごほんっ!ま、マイア…よろしく」
「えへへ、ありがとうございます!」
十年前からお世話になっている先生から姫としてではなく、マイアとして接してもらえることが嬉しかった。
「では、次はマイアの出番だよ。俺のことはルークと呼んでくれるかな?」
「私もですか?」
「俺もずっと先生なのは嫌なので」
これはお返しか。恥ずか死にそうになりつつも、意を決してずっと呼んでみたかった名前を口に出してみる。
「る、ルーク…………さん(小声)」
「さんもいらないんだけどな」
「ご勘弁を」
「じゃあちょっとずつ慣らしていってね」
とても嬉しそうな顔で見てくるが、新鮮な姿の先生にドギマギしてしまう。慣れることなどあるのだろうか?
○
私たちが二人で暮らし始めて一週間ほど。先生が前から生活拠点として準備していたという家は、二人で暮らすにはちょうどいい広さだった。綺麗に揃えられた二人分の小物や家具、ベッドは一つしかないが二人で寝るにはちょうどいい広さ。一人暮らしのために整えたと思っていたが、実は他に一緒に暮らす予定の人がいたのではないかと勘繰ってしまうくらいでした。
一階にはキッチンやダイニング、リビング、お風呂、トイレがあり、二階には寝室と先生の研究室がある。お庭も広くて、畑には5種類の野菜と近くには果実がなる木が植っており、先生が言うには獣が多い森だから、お肉にも困らないそうだ。
食べ物の心配はしなくてもいいのは安心できます。それに、必要なものは先生が街に行って買ってきてくれたので着る服や私の趣味である刺繍用の布や糸も十分だった。
朝起きて先生の手作りご飯を食べて、日中は畑の雑草を抜いたり、刺繍をしたり、夜は先生とたくさん話して眠りにつく。姫だった時は民のために日々忙しく動いていたので、こんなに穏やかな日々を送るのは初めてだった。自分のために時間を使える嬉しさや想い人と一緒に過ごせる日々は幸せだ。そんな日々が続けばいいと、先生の腕を握ってそう願うのでした。
大好きな先生に殺されたと思っていたけれど実は違ったみたいなので一緒にほのぼの暮らします! 月白藤祕 @himaisan
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