忘れた気持ちを引きずり出された

CHOPI

忘れた気持ちを引きずり出された

「おー、おつかれー」

「よ、久しぶり」

 『久しぶりに飲みに行こうか』という話が、親友とのLINEで出てから、早3カ月が経とうとしていた。というのも、本当ならば年明けくらいに2人で新年会でもどうだ、という話になったんだけど、悲しいかな、業界が違えば休みも結構ズレてしまうのが社会人。お互いなんだかんだと帳尻を必死に合わせて、やっとの思いで今日という日に日程を組めた、という感じだった。


「俺、とりあえず生」

「俺、ハイボールにするわ」

 各々好きな酒を選んで、適当なつまみを数点チョイスして。店員が気前よく、しかもかなりの速さで飲み物を持ってきてくれたので、とりあえず。

「「かんぱーい」」

 カチンッ、という子気味のいい音がグラスから零れ落ちる。親友はそこからグイーッと生ビールを半分ほどのどに流し込んだ。

「っぷはー!!」

「はっ、親父くさ」

 俺はそう言いながら思わず笑ってしまった。その言葉に『うっせーな、仕事終わりの生は染み渡るんだよ!』と親友が返してくる。その時、ふいにドリンクバーの炭酸で似たようなことを言っていた幼き日の親友が今の影と重なって、また少し笑ってしまった。

「昔、ドリンクバー頼んで、メロンソーダで同じようなこと言ってたな」


 『そうだっけ?』ととぼける親友。だけど俺ははっきり覚えている。確かテスト勉強って言って、近所のあまり人気の来ないファミレスにドリンクバーで居座って勉強をしていた時だ。息抜き、とか言ってメロンソーダを取ってきた親友は、『疲れた時はこれに限る!』とか言って、緑の炭酸水をそのまま半分ほど飲み干して、今のように満足げに『っぷはー!!』と言っていた。……あぁ、その時は確か。俺と親友。その隣にあの子も、いたんだっけ。


 生ビールの連想でメロンソーダの話を思い出した俺は、余計なことまで思い出してしまった。当時気になっていたあの子は、そもそも俺の親友のことが気になっていたらしい。そんなんだから、俺がモダモダしている間に、あの子が親友にアピールをして、結局親友があの子と付き合うことになったんだっけ。


「……」

「なんだよ、いきなり黙って」

「……余計なことまで思い出しちったから」

「んー……?」

 親友は気が付いているのかいないのか。こっちに気を使っているのかいないのか。そんなこと俺にはわからないけれど、そのあと少しの無言が続いた。


 親友とは大学以降は別の進路に進んだので、その後の2人がどうなったのか。細かいことはわからないことが多い。だけど、進む道が全く違っても何故か連絡を取り合って、会える時は会って、みたいなことをしていた親友から、いつの頃からかあの子の気配が完全に無くなったことだけは気が付いていた。


「……この間さ、久しぶりにアイツに会ったんだわ」

 無言を先に破ったのは、親友だった。親友の言う“アイツ”はあの子のことだ、それがわからないほど、お酒はまだ入っていない。

「ふーん……、そっか」

「あぁ。お前が良かったら、3人で飲みたいんだってさ」

 ……意外だな、と思った。あの子が、別れた元カレと平気で飲めるタイプの子なんだと、初めて知った。同時に一緒に飲みたい、というメンツに俺を加えてくれていることに対してもびっくりした。

「……別に、俺は構わないけど」

「そっか。そしたら後でLINE、3人のトーク作るわ」

「あ、サンキュ」

「いや、別に」

 

 その後その話はそのまま終わって、以降俺らの会話にあの子が出ることも、3人の飲み会の話も出ることは無かった。だけどすっかり出来上がって、いい感じにほろ酔いで解散をした、その次の日。ちゃんとそこには3人のグループLINEが出来ていて。

「……まじか」

 あの子のことが気になっていたのは、とっくに昔の話だけど。アイコンで見たあの子は、俺の気になっていたころのあの子の面影を残して、だけど何倍もキレイになっていたから。

「あー……。くそー……」



 ……不覚にも、ときめいちゃったじゃねーかよ……。

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