花が咲くように

西しまこ

第1話

 気づいたら、木蓮の花がきれいに咲き誇っていた。枝垂桜も美しく咲き、なんとも言えず沸き立つような気持ちになる。

 あたしはマフラーを外して、リュックにしまった。もうマフラーは要らないな。もう一度リュックを背負い、家へと向かう。期末テストも終わり、もう次の学年へと気持ちは向いている。春休みにはクラスメイトとディズニーランドへ行く約束をしていた。


 ディズニー、何を着て行こうかな?

 あたしは手持ちの服をいろいろ思い浮かべた。季節の変わり目は服を選ぶのが難しい。靴はスニーカーかな。ピンクのやつ。もうブーツは変だよね。スカートはロングにしようかな。ミニにしようかな。……悩むなあ。

 ……ディズニーランド、友樹くんも来るって言ってた。

 あたしは自分の鼓動が早く鳴るのを感じた。


 木蓮の花が咲くように、枝垂桜が咲くように、名前も知らない花が咲くように、あたしの恋心も咲いていた。ふわって。

 高校一年生は何もないまま終わるかなって思っていたのに、まさか恋をするなんて。


 あたし、好きな歌い手さんがいて、そんなに有名じゃないから、こっそり好きでいたの。そうしたら、あるとき友樹くんが「おれ、この歌い手さんが好き」って友だちと話していて、それが誰か聞こえちゃって、思わず、「あたしも好き!」って言ったことが始まり。


 あたしは道路を横断するために立ち止まり、左右を確認した。

 制服のポケットに入れたスマホが振動した。

 LINEだ。――友樹くんからだ!

 ――ディズニーランド、楽しみだね

 ――うん、楽しみ!

 歩きながらLINEを打つ。友樹くんはまだ学校の最寄り駅にいるみたい。

 ――ねえ、今日時間ある?

 ――あるよ!

 震える手で送信する。どきどきどき。心臓が鳴っている。どきどきどき。

 ――いっしょに買い物行かない? ディズニーの

 いっしょに買い物! 嬉しい。誘ってくれた!

 ――うん!

 また震える手で送信する。

 待ち合わせの時間や場所のやりとりをする。


 どうしよう。何を着ていこう? メイクはした方がいいかな? 今は学校にはメイクして行っていないけど、でも練習はしているの。少しだけお化粧したい。少しでもきれいでいたい。服は、ディズニーとは違う服装がいいよね。悩むなあ。

 あたしは走って家に帰った。だって、今からやることがたくさんあるもの!

 そして、服が散乱した部屋をそのままにして、あたしは速足で駅へと向かう。

 待ち合わせの駅で、あたしは友樹くんを見つけて「お待たせ!」と言った。


 春の風が、かすかに甘い花のにおいを運んできた。



   了



一話完結です。

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☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

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