第14話 ミケの涙
【キミ達何やってるの?】
星の一声で目を見開いたチィは、そっとミケとの接点から離れ首を傾げた。
「何って……何だろう? ねぇミケ、これは何をしてるって言うのかな?」
「呼び方があるのだろうか? ナクは何か知っていそうな感じだったが……」
「……ミケ、顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」
「気にするな。何故かこうなってしまうのだ」
ヨムの村で少女ナクがくしゃみをしているその頃、無垢な三人は珍妙なやりとりを遥か上空で行っていた。
「話を戻すが……ノームの樹はどうやって見つければいいのだろうか?」
「さっき私が霧を晴らした時、直ぐに霧が深くなったよね? ノームの樹は文字通り濃霧を出すの。だから霧の広がり方からするに、近くに樹がある証拠だと思う。私がまた霧を晴らすから……ミケは霧の出所を見つけてね!!」
「チ、チィ!!?」
ミケから離れ、遥か上空から勢い良く落下していくチィ。
チィなりに幾つか先のことを考えようとはしたが、今はただ眼前に広がる濃霧を晴らすことだけに集中していた。
【キミも顔真っ赤だけど、どうしたの?】
「分かんない……ミケに触れるとこうなっちゃうの。よし、さっきより強い衝撃でなるべく広範囲に……」
祈るように両の手を輝かせ落下するその姿は、宛ら美しい流れ星。星色の濃淡は使用者の心の純度で決まる。
チィの織りなすその色は星の子でさえ見惚れてしまう程、強く濃く輝いている。
しかしそれは裏を返せば……
【キミさ、何も考えてないんだろうけど……それ本気でぶつけ合うと身体壊れちゃうんじゃない?】
「いいよ壊れても。ミケがノームの樹を見つけてあの村を救ってくれるから」
【死ぬよ? 怖くないの?】
「怖いよ。でも……今出来ることをしないなら、私にとってそれは死んでるのと同じだと思う。だから……いっくよー!!」
上空にいるミケが目を開けていられない程、光輝くチィ。
瞬きをする間に木々は吹き飛んでいき、少し遅れて轟音が山全体に幾度も木霊する。
全身の骨は砕け、血飛沫を纏いながら落下していくチィ。薄っすらとした意識の中、何かを叫ぶミケの声が聞こえ……最後の力を振り絞り彼女の願いを祈ると、チィは静かに息絶えた。
◇ ◇ ◇ ◇
「チィ……っ……すまない……わたしは……なんてことをして………………」
ノームの樹を前に泣き崩れるミケ。
たとえ赤子でも、駄々はこねど涙は流さぬ獣族。だがここにいる者は、尊厳を超えた友への想いに大粒の涙を流していた。
「あれ……ミケ……なんで泣いてるの? ……そういえば私……死んだような気がしたけど……」
【死んだよ、一瞬ね。グチャグチャのキミを抱えてあの獣がこの樹まで運んだんだ】
原型を留めるのがやっとだったチィの肉体は何事も無かったかのように存在し、嗚咽を堪えるミケと星の言葉に固まるチィ。
「一瞬死んだって…………あっ」
生き返ったばかりのチィは普段より随分と頭が冴え、何が起こったのかを理解した。
「ミケが……私に死なないでって……お願いしたから……?」
その言葉を聞いたミケは何度も拳を地面に叩きつけ俯いた。
「私は……チィを守りたかった。村を出る時……爪を削ぎ落とし心に刻み込んだ。なのに……願ってしまった。ホシノヒトと同じ道を辿らせたくないのに……星の力を使わせてしまった……」
「ミケ……」
血塗れの拳を再度地面へ叩きつけようとしたミケにチィはそっと寄り添い、その拳を手のひらで優しく包んた。
「……チィを失うのが怖かったんだ。この感情を何と呼ぶのかは分からないが…………その美しい身体を大切にして欲しい。いつまでも笑っていて欲しい。すまない……もっと伝えたいのだが……うまく言葉に出来ない……」
「…………ごめんね、ミケ。ありがとう」
ミケの言葉に涙を流しながらも健気に笑顔を作るチィ。
先程のチィの悲惨な姿を思い出したミケは、歯を強く食いしばり己の頬を数回叩いて鼓舞をした。
「……冒険者になって冒険譚を作るのだろう? ここで終わってはまだ始まりの数葉しか書けない」
「ふふっ、本当だね。ミケの泣いた姿も書かないとなのに」
「仕方ないだろう!? それ程……チィが大切なんだ」
「……うん。本当にごめんなさい。無茶は沢山するけど……私もあなたのことが大切だから……その、もう少し考えて動くね」
「はははっ、頼む。では……この樹を片付けるとしよう」
獣族数世紀ぶりの涙。
憑き物が落ちたように心が軽くなったミケは、チィの肩に舞う小さな星の光が薄っすらと見え始めていた。
星の子冒険者 @pu8
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