第8話私と勇敢な弟

 泣き終えた私と維人は、帰り道を歩いていた。


「おねえちゃん、僕より泣いていたから、なんかおさまちゃった」と言う維人に、私は「そんなことないよ」と、わずかに残った姉の威厳をかけて言葉にする。


「おねえちゃん……助けてくれてありがとう」


「いや、むしろゴメンね。私が出ていったから、余計にこじれちゃったかも」


「ううん、大丈夫だよ」


 維人が笑顔で首を振る。


「今日ダンスを見てもらって、なんか自身ついた! だから大丈夫!」


「維人は強いね……」


 心から思った言葉が口から溢れる。


「ダンスはカズから教えてもらってるんだよね? いつから?」


「えっと、去年くらいから」


「そっか、なんでダンスを始めようと思ったの?」


「おねえちゃん、カズ君のダンスをみてカッコイイって言って感動してたから」


「そうだっけ?」


 最後の威厳を振り絞り、とぼけたふりをして答えるが、維人の顔を見て、弟はおろか威厳にももう無駄だよと言われている気がした。


「おねえちゃんも人を感動させられるのに、だから僕もそんな人になれたらなって、そしたらおねえちゃん……」


 徐々に声が小さくなり、最後の方は聞き取れなかったが、思いは十分に伝わった。


 私は自分のことで精一杯だったのにと、維人の強さを目の当たりにした。維人の横顔をまじまじと見ると成長している気がして、今描いている似顔絵じゃ全然似てないなと心の中で笑った。


「でね、ダンスを始めてみたら、とても楽しくて! カズ君もいつも付き合ってくれて」


 維人がどこかに出かけていったり、カズの様子がおかしかったのはこういうことだったのかと納得し、ほんの少しの感謝をカズに送った。


 私も頑張らないと。


「私も……私も絵を勉強しに行くために、家を出るね」


 私の言葉に維人の顔が少し曇る。しかし、私に心配をかけないためかすぐに顔の周りの雲を払いのけるかのように、笑顔で晴らす。


「うん、わかった! 今度カズ君と遊びにいくね!」


 私も寂しさがあったが、負けじと笑顔で跳ね返す。


「いつでも遊びにきていいから!」


 維人には感謝してもしきれない。自分自身を見つめなおすきっかけをくれたのは、紛れもなく維人だった。私は導かれたのだ。私の隣で笑っているこの弟に。


 自分が大切だと思うものに突き進む姿は、さながら……


 今は言えないな。私がもっと成長して、大人になったら言おうかな。私は最後の先延ばしを使った。


 私たちは今まで話せなかったことや、昔の事を嚙み締めるかのように語りながら、ゆっくりと帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇敢騎士 @mlosic

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ